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2012年1月22日 (日)

羽衣伝説(5/6)

 
もう一度鏡を確認する。
幼さの残る女の子の顔。短い髪に縁取られている。
胸はまだ発育途上であるが、女性特有の膨らみは存在していた。
俺は直接、自分の胸を見てみた。鏡に写ったのと同じ膨らみがある。そして、その視線を更に下に向かわす。
股間に縦の筋が存在するのが確認できた。そこに「男」のシンボルは存在しない。
俺は手を股間に這わせた。指が確実に割れ目の存在を捉えている。

(…)

しばらくは何も考えられなかった。
しかし、いつまでもここに居る訳にもいかない。とにかく「人魚」でないだけマシであると考えるべきなのだ。俺はカーテンを剥ぐべく、風呂場を後にした。

ふと見ると、床には女物の衣服が落ちていた。
(俺は男だ。女の衣服など着れるものか。)
と思うが、今の俺の肉体は「女」なのだ。
この先、カーテンを身体に巻いて求めようとする衣服は、何れにしろ「女物」でしかないのだ。
であれば、今手にしている服を着る事に、何の躊躇があるというのか…

 

 
風呂場の鏡に自分を写してみる。
服は多少汚れているが、問題なく着れている。(胸の余りはストッキングを丸めて詰めた)
廃屋には、女物の靴も残っていた。それを履いて外に出る。
もう、全裸を見咎められる事はない。俺は海から離れることだけを考えて、道をあるいていった。

ブロンと音がした。
慌てて物陰に身を隠そうとしたが、間に合わない。車の運転手は確実に俺の存在を認識していただろう。通り過ぎて即にブレーキランプが灯った。
その場に硬直してしまった「俺」に向かって車はバックしてくる。

「どうしたの?女の子がこんな所、独りで歩いていると危ないわよ。」
運転手は女性だった。
「…って、そのなりはもう手遅れだったか。じゃあ、尚更ね♪乗りなさいな。無理に送ったりはしないわ。あたしん家で少し落ち着いていきなさいな。」
と半ば強引に後席に押し込められた。
カチャリとドアのロックが落ちると、エンジンが震えて車は走りだした。

運転手の女性は何も聞いてこなかった。
車内はエンジンの音と車が風を切る音だけだった。車内の暖かさと相まって、気分がほぐれてゆく。

「クゥ~~ウ…」

その場には何とも似つかわしくない音が響く。
出所は俺のお腹だった。
彼女等に捕まってからは何も口にしていなかった事を思い出した。
思い出すと同時に空腹感に襲われる。
「家についたらあったかいスープを出してあげるわね。それまで、もう少し我慢しててね♪」
車は脇道に入っていった。
くねくねと坂を上ってゆく。その先には一軒の家があった。

「お風呂は即に入れるわよ。着替えは用意してあげるから、今着ているのはゴミ箱に捨てておきなさいな。その間に美味しいスープができてるわよ♪」

 

風呂で暖まると心身ともに生き返った気になる。
用意されていたバスローブに身をくるみ、良い匂いのする方向に足を向ける。
ドアを開けるとテーブルの上にスープが用意されていた。
「気にしないでゆっくりくつろいでね♪」
と女は少し離れて椅子に座ると、スケッチブックを広げた。
今更ながら、部屋の中の壁という壁に「絵」が飾られていた。
「こ、これ…って…」
「ええ、皆あたしが描いたの。一応、職業は画家という事になってるけど、殆どが売れ残ってココに飾られてるわね。なんとか親の遺産で生活させてもらっているわ。」
と鉛筆を走らせていった。
気にならないとは言えないが、それ以上に空腹を満たしてくれるスープに一所懸命になっていた。
腹が満たされると、今度は猛烈な睡魔に襲われた。「俺」がどのように描かれたかは気になるところではあったが、いつの間にか意識を失っていた。

 
そこはベッドの中だった。暖かな毛布と布団にくるまれていた。
そして、ここがどこであるかを把握していった。

海からは大分離れている筈である。人魚の姉妹からは逃げられたのだろうか?
布団を剥ぎ、上半身を起こした。俺はピンク色のパジャマを着せられていた。
自分の体が「女」になっていた事を思い出す。胸はナイが、股間に手を伸ばすと、自分が「女」である事が明白となる。
部屋にはドレッサーが置かれていた。ベッドを降り、鏡に写してみる。…が、そこには見慣れた「俺」の顔はなかった。

部屋を出る。
食堂から良い匂いが漂っていた。扉を開くと女主人がこちらを振り向いた。
「お、おはようございます…」
何とか挨拶の言葉を絞り出す事ができた。
「さぁ、席について頂戴♪朝ごはんにしましょう。」
と俺を座らせると、彼女もその向かい側に腰を降ろした。
「一緒に食べてくれる人がいると、いつもより美味しく感じるわ♪」
やはり女の体だからなのだろうか、少し食べただけでもう腹が膨れてしまっていた。
「着替えたら、もう一枚描かせてもらって良いかしら?」
別に断る理由もない。モデル代がここでの衣食住であると考えれば安いものだ。

「女」の服を着け、彼女の前でポーズを取る。1枚が2枚、3枚と増えてゆく。日が経つにつれ、場所も部屋の中から庭に移った。
着るものも様々に変わってゆく。彼女のスケッチブックにはどのように描かれているのだろうか?

 

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