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2012年1月22日 (日)

羽衣伝説(1/6)

その浜には天女が降りて来る…

ここは、そんな言い伝えのある浜辺だった。
気分転換に、海辺の旅館にやってきた。夏は海水浴客で賑わう浜辺も、今はひっそりとしていた。
浜辺には形の良い松の木が点在している。天女が降りてきては、その松の枝に羽衣を掛けて水浴びをすると言い伝えられてもおかしくはない風情があった。

都会の喧騒から離れたおかげで、昨夜は早々と眠りに就く事ができた。
目覚めたのは、まだ陽も上がっていない時間だった。ぐっすり眠れたので気分も爽快。二度寝するのも勿体ないと、旅館の下駄を借りて早朝の浜辺を歩いてみる事にした。
薄暗い砂浜は、24時間365日止まる事のない波の音に包まれている。波の音に紛れるように風の音…
それに重なるように、俺の履いた下駄が砂を踏む音がする。

…いや、それだけではない。「波」以外の水が跳ねる音がした。

海で何者かが水浴びをしている。
(まさか、天女か?!)
遠目にも白い肌が解る。そのシルエットは若い女性に他ならない。
見てはいけない!!と、松の影に身を隠すが、点在する松にそれだけの能力があるか疑問はあった。
背中を松に付け、息を潜める。水浴びの音に変化はないようだった。

ふ~う、と音に出ないように溜め息をつく。溜め息をついた事で心に余裕が生まれる。余裕が生まれた事でまわりのモノが見えてくる…

俺の目に布の端が映っていた。透明に近い白い布…追ってゆくと、それは松の枝に掛けられた、一枚の細長い布であった。
シンプルなものではあったが、この世のものとは思えない美しさがある。
(…天女の羽衣?)
そうとしか言いようがなかった…

気が付いた時には、既に俺は羽衣を手に旅館の部屋に舞い戻っていた。

 

 

 
遅めの朝ご飯の後、俺は浜辺に戻ってみた。早朝に見た幻想的な光景はそこにはなく、普通の砂浜がそこにあった。
羽衣の掛かっていた松に向かう。
確かに、この松だ。俺が背中を付け、羽衣を見た松だ。そしてそれを外した枝も、そのままの形でそこにあった。
振り返り、波打ち際を確認する。
天女が水浴びをしていたあたりだ…

「ご旅行ですか?」
不意に声を掛けられた。声から、若い女性であるとわかる。
振り向くと、そこにはおさげ髪でセーラー服を着た女子高生が立っていた。
天女のような美女ではないが、それなりに可愛い娘だ。
「天女には会えましたか?」
「それは伝説の話だろう?天女など存在しないよ。」
「まあ♪こんな季節外れの海に来る観光客は、皆一目天女を拝みたいっていう人ばかりだと思っていたわ。」
「天女を見たって言う人がいるのかい?」
「貴方の言う通り、噂にしか過ぎないわ。でも…」
と、彼女は厳しい顔を俺に見せた。
「貴方は彼女を見たのでしょう?あまつさえ、彼女の羽衣までも盗んでいった。」
「羽衣…って、あれは本物なのか?」
「返してっ!!お姉ちゃんには生きる為に必要なもなの!!」
「生きる為?…大げさ過ぎないか?」
「何処にあるの?っ!!」
俺は彼女の迫力に圧されてしまった。
「…宿の、俺の鞄の中に…」
「来てっ!!」
俺が答え終わるのも待たずに、彼女は俺の手を引いて歩きだした。

 

「この鞄だよ。」
部屋に入り、縁側の端に置いておいた鞄を指す。
「ダメよ、触らないで!!」
彼女は俺を押し退けるようにして縁側に向かうと、鞄の中身を確認した。
「あった…良かった♪」
と、彼女の表情が緩んだのは一瞬の事。
「貴方も来て!!」
と鞄を手に立ち上がった。

 

羽衣伝説(2/6)

「お姉ちゃん!!」
彼女は家の中に駆け込んで行った。
鞄を人質に取られているので、仕方なく俺も彼女に続いて家の中に入っていった。

彼女の向かった先からはチャプチャプと水の音がした。どうやら風呂場に向かったようだ。
「お姉ちゃん。コレ!!」
彼女の声と伴に鞄が開かれる音がする。
「入っても良いわよ…いえ、入って頂戴。そして貴方の犯した過ちを見て!!」

俺が中を覗くと、彼女が湯舟の中にいる女性に羽衣を手渡していた。
彼女こそ「天女」だった。今朝、いまだ闇の中ではあったが、白い肢体と美しい面だちははっきりと覚えていた。
が、
彼女は「天女」ではなかった。
彼女には脚がなく、湯舟の中には魚類の尾ヒレがあった。
「人魚?」
彼女が羽衣を纏ってゆくと、真っ白だった肌に多少の赤みが入り、人間らしくなっていった。顔の造作も変わる。人間離れした天界の美しさが薄れ、人間らしくなる。…かといって美しさを損なうことはなかった。
劇的な変化は下半身。人魚たらしめる魚類のヒレが二本の脚に変わってゆく。瑞々しい太股に挟まれた股間には、女性独特の切れ込みが生まれ、淡い陰りが…
「それ以上は見ちゃダメよ!!」
と、俺の目の前に鞄の底が迫ってきた。
「ミドリ?!」
人魚だった女性の声が聞こえるのと、鞄の底が俺の顔面を捉えるのが、ほぼ同時だった。

クラクラと眩暈がして床に膝を着く。
「大丈夫ですか?」と女性の声
「お姉ちゃんを困らせたんだから当然の罰よ。」と女の娘
「な、何とか…」
と俺は立ち上がった。
「少しお話させてください。」
「姉」の方が俺を居間に誘った。
「お姉ちゃんは着替えてきた方が良いわよ。その格好は若い男性には目の毒だと思うわ。」
確かに、全裸にバスローブを巻いただけの姿は刺激的過ぎた。
俺は彼女と別れ妹のミドリと居間に入った。
「これでも飲んでて。」
と紅茶のカップが渡された。コーヒーばかり飲んでいるので、紅茶の良し悪しなど解る筈もないのだが、漂ってくる芳醇な香りからして、かなり上級の茶葉が使われていると思えた。

しばらくして着替えた姉がやってきた。
天女/人魚の時よりは見劣りするものの、美人には違いない。その美人姉妹が並んで座り、その向かい側に俺が座っていた。
「羽衣は、私たちにはなくてはならないものなのです。羽衣を身体に巻き付けることで、貴方に見せたように、人間の姿を保つことができるのです。」
彼女は優雅に紅茶のカップを手にした。「絵になる」とはこういう事を言うのだろう。彼女は話を続けた。
「それ以上に、羽衣がないと私達は地上で生きて行くことができないのです。元々が水の中での生活なので、肺での呼吸のみでは必要な酸素の量が確保できないのです。」
と彼女はその細い腕を俺の前に伸ばした。
「羽衣は私達の皮膚を被い、表面に触れている空気から酸素を吸収し、私達の皮膚を透過して直接血液に酸素を送り込んでくれるのです。」
「そんな事ができるの?」
しかし、全身を被って「人魚」から「ヒト」に変身させてしまう事を想えば、稚技にも等しいものなのであろう。
「しかし、そんな事…変身も含めて、俺に教えたり見せたりして問題ないのか?」
「あんたの所為でお姉ちゃんは死ぬかも知れなかったのよ。事の重大さをあなたも知っておいてもらいたかったの。」
「それ位にしてあげて、ミドリ。彼にはこれからの事を説明しなくちゃいけないんだから。」
「これからの事?」
と俺は聞き返した。

「そう。貴方は私達の秘密を知ってしまった。喋らないと誓ってもだめなの。貴方の記憶を消すこともできるんだけど、わざわざこうやって教えた意味がなくなるものネ♪」
ぐっと俺は息を呑んだ。
「あなたには二つの選択肢があるわ。一つは当然の事だけど、秘密を知った人には消えてもらうの。」
彼女の妖艶な微笑みに背筋がぞくりとする。
「もう一つは、貴方も私達の仲間になってもらうの。秘密を共有すると伴に、知られた場合に自らの命の危険が伴うようにするのよ♪」
「け…」俺の声は震えていた。
「結局、選択肢は無いのと同じじゃないか?」
「それは違うわ。貴方が私達の仲間になることを自ら望んだという事実が必要なのよ。」
「わ、解った。同意するよ。」
「同意ではダメ。貴方の言葉でそれを望まなくちゃ。」
「…お、俺をあんた達の仲間にしてくれ。」
「ク・ダ・サ・イ」
「仲間にして…ください。」
「それで良いわ。ミドリ、アレを持ってきて♪」
「ここにあるわ。」
妹が姉に手渡したのは、天女の羽衣と対を成すような、漆黒の生地だった。

 

 

俺は全裸にされた。
若い二人の女性の前に、自らの股間を…男性のシンボルを晒すのは躊躇われたが、彼女等の指示に逆らう事は許されなかった。

最初に脚に巻かれる。それは魚の尾ヒレに変わっていた。黒い羽衣は腰を被い、腕を被ってゆく。
腕は風呂場で見た彼女と同じように、人間のものではない白い肌に変わっていった。
それは色だけではない。脚が尾ヒレに変わった事に比べれば、大した事ではないが、腕の太さも彼女と同じくらに細くなり、同じような変化は指先にまで及んでいた。

羽衣は首から顔を被う。
急に息苦しくなる。
深呼吸を繰り返すが、一向に楽にはならない。
「その体は肺呼吸はお飾りに過ぎないのよ。お姉ちゃんの苦しさが解った?」
「あ、ああ。十分に、身をもって解ったよ。だから、どうにかしてくれ…」
息苦しさと伴に発した声は俺のものとは思えないくらい、甲高い声に変わっていた。
「そうね。お風呂場に連れていってあげましょうか♪」
と、俺はミドリに抱え上げられた。
「体重もずっと減ったからね。お風呂場には鏡もあるから、新しい姿を良く見てみれば良いわ。」

ザーッと頭からシャワーが浴びせられる。
水が髪の毛に染み渡ると、さっきまでの息苦しさが和らいでゆく。
「人魚は髪の毛で呼吸するのよ。湯舟に水が溜まれば、もっと楽になるわよ。」
ミドリが水に濡れた俺の髪を指ですいてゆく。その髪の長さは、俺のものとは思えないくらい長くなっていた。

「どう?人魚になった感想は♪」
そう言われ、俺は浴室内の鏡に自分を写してみた。
そこには「俺」の面影などカケラもない、人間離れした美貌を持った、先程目にした人魚姿の姉に酷似した…「女」の人魚の姿があった。
甲高い声、華奢な腕や指…なにより、大きく膨らんだ双つの胸…などから、想像はついていた。が…
「何で…女…なんだ?」
俺は何とか、それだけを言った。

 

羽衣伝説(3/6)

「そういうモノ…としか言いようが無いのよね。人魚には女しかいないのよ。」
「そういうモノ…って言われてもなぁ…」
俺は湯舟の中で体を反転させた。仰向けに浸かると髪が水の中に広がってゆく。
それを見てシャワーが止められた。
「あまり動揺していないようね?」
「まだ、頭の中が整理できていないだけさ。何の悪気もなく、天女の羽衣を持ち帰ってしまったら、それが人魚を人間にするアイテムで、それを知ってしまったから人魚にされて…それも女の」
「人魚になったのは貴方の意志だったのは忘れないでね。」
「そこまでは良いが、女になるなんて聞いてなかったぞ。」
「女はキライ?」
「好き嫌いの問題じゃないよ。」
「なら良いじゃない。オンナって良いわよ♪貴女もオンナを楽しむと良いわ。」
「そうね。羽衣が手に入れば人間に戻れるわ。そうしたら三人でショッピングにでも行きましょ♪」
「って、人間に戻っても女のままなのかよ?」
「大丈夫よ。オンナの気持ち良さをイッパイ教えてあげるから♪」
「それは、遠慮させてもらいたいんだが?」

俺はもう、それ以上の事は言えなかった。

 

 

 
「あんああん♪」
姉妹に動きを封じられ、乳首などの敏感なところを責めたてられては、俺は艶めかしい声をあげて体を悶えさせるしかなかった。
彼女等に責められた俺の反応は、どこから見ても「オンナ」以外の何物でもなかった。
「ほら、ヴァギナから蜜が溢れてきたでしょ♪」
下腹部に穿たれた淫穴に指が挿入される。男には存在しない器官から、得も言えぬ快感が湧き起こる。くねくねとほじられると、俺は嬌声を抑える事ができなかった。

 
多分、あたしは「オンナ」としてイッてしまったのだろう。
快感に頭の中が真っ白に染まった。今も快感の余韻があたしを支配している。
「どうだった?」
「この娘の顔を見れば一目瞭然でしょ?」
「凄い…オンナノコっていつもコんなに感じてるの?」
「相手にもよるけどね♪」
「お姉ちゃんのは特別かもね♪」
「これ以上責められたら、もう、どうなるかわかんないわ。」
「そうね。今日はもうこれくらいにしておきましょうか。」
そう言われ、あたしは湯舟の中に戻された。

暗い風呂場で、独り水に浸かっている。
湯舟の中の水はお湯ではないのに、冷たいとは思えなかった。逆にもっと冷たい水に包まれたいと望んでいる?
確かに、姉妹の責めに火照った身体を鎮めたいとは思うが、それ以上に全身を水に包まれていたいと欲していた。
「ヒト」の感覚で頭を水面に出していたが、思い切って水中に没してみた。
息苦しさはない。彼女等の言うとおり、髪の毛で酸素を取り込んでいるのだろう。そのまま眠ってしまっても問題ない…水の中に居ると言う事が、寒い朝に布団の中にくるまっている以上に心地よいと感じていた。

 

 

ザザーン…
波の音に目が覚めた。

俺は浜辺に連れられて来ていた。濡らしてあった髪が乾き始め、少し息苦しさを感じていた。
俺の目の前でミドリが服を脱いでゆく。
スカートを外し、下着姿になる。更に、ブラジャー、ショーツと外し全裸となった。その上で、彼女は羽衣に手を掛けた。
中から人外の美しさをもった人魚が現れる。そのまま、身を躍らせて海の中に飛び込む。波間に高々と水しぶきが上がった。
「ミドリからはぐれないようにね。」
と波打ち際に置かれる。
引き波とともに沖に向かう。先を行くミドリを真似て尾ヒレを振るわせると、かなりの勢いで水中を進む事ができた。

しかし、慣れない海中では彼女の後をついていても、少しづつ海流に流されてゆく。それだけの分、彼女から離れてしまう。
陸の上では、声を出せば気付いてもらえるが、水中で意思を疎通させる方法など考えも付かない。

いつしか、俺は彼女の姿を見失っていた。

 

羽衣伝説(4/6)

一旦、海の上に頭を出した。
目印のない海上では、自分がどこにいるのかサッパリわからない。俺には、太陽の位置から測量する技術もなければ、道具もない。
人魚の姿のままでは、通りすがりの船に助けを求める事もできないので、陸地に戻るしかない。俺は逆方向に泳ぎだした。

幸いにも人魚は溺れることはない。疲れたら波間に浮かび、癒えたら再び泳ぎだせばよいのだ。

やがて行く手に陸地らしき影が見えた。建物の影もなく、ひっそりとした入り江があった。
浜に上がる。
が、俺はどこに行こうとしたのだろうか?羽衣がなければ下半身は尾ヒレのままなのだ。
更に言えば、水から出て髪が乾けば呼吸困難に陥るのだ。今の俺は陸の上では何もできない。
(俺は「人間」なんだ!!)
唯、それだけの信念が俺を陸に上げようとしていた。

ミドリ達のように、尾ヒレで立ち、立ったまま移動するような器用な真似はできない。腕の力で身体を引きずって行くしかない。
砂浜にナメクジのように濡れた這い跡を残して浜草の茂みに到達した。多少は身を隠す事ができる。

(これからどうするか?)

俺に考えがある訳でもなかった。
次第に髪が乾き、息苦しさが増す。
(海に戻るしかないのか?)
諦めて海に戻るべく身体をくねらす。…と、目の端に黒い布地が見えた。
尾ヒレの一部が砂に擦れたあたりで黒の羽衣が綻んでいた。
羽衣を毟り取ると尾ヒレの中から「足」が現れた。「俺」を「人魚」に変えた黒の羽衣がなくなれば、元に戻れると考えられた。

俺は息苦しさを我慢しながら、黒の羽衣を俺の身体から剥がしていった。
足が、腕が…人魚のものではなくなる。
首から顔、頭と剥いでゆく。長い髪の毛が失われると、一気に呼吸困難に陥る。
朦朧としながら胸の羽衣を外すと、肺が本来の活動を開始し始める。
幾分は楽になったとは言っても、かなり長い間酸素が不足していたのだろう、頭は依然と朦朧としている。
残りの羽衣が全て外れたのを確認したと同時に、俺は意識を失っていた…

 

 

ザザーン…
波の音に目が覚めた。

全裸ではあったが、乾いた身体のままであった。肺で呼吸している。
(俺は元に戻れたのか?)
元に戻れたは良いが、彼女達に見つかれば再び人魚にされてしまう。その為には海から遠ざからなければならない。
しかし、今の俺には自由に行動することのできる足がある。陸の上では、コレなしではどうにもならない。
後は、全裸を見咎められないよう暗くなるのを待つだけだった。

陽が西に傾いた。入り江は即にも岬の影に隠れる。人の気配を探りながら、浜草の茂みから離れていった。

アスファルトの路面は素足にかなりの痛みをもたらす。整備された都会の路面であればそうではないのだろうが、風化してごつごつしている路面。更に、あちこちに砂利が転がっている。

しばらく行くと家の姿が見えた。慎重に近づく。廃屋のようだ。
鍵が壊されていた。廃屋となった後に誰かが無断で使用したのだろう。
たとえ物取りであっても、身体に巻く布切れ位は見逃してくれている事を期待する。サンダルなど贅沢は言わない。スリッパのひと揃いでもあれば狂喜乱舞するだろう。

先の侵入者は物取りではなかったようだ。
床の上に女の衣服が散らばっていた。別の部屋ではカーテンが引き千切られていた。
どうやら「女」を連れ込んで姦ろうとしたが、直前で逃げられた…という所だろう。その後で、怒りに委せて壁や柱を蹴りつけたのだろう。壁や柱にその名残らしき傷跡が残されていた。

部屋にはカーテンが残っていた。これでスリッパがあればと他の部屋を探す。ありそうなのはトイレだ。廊下の奥にあるドアを開けた。
風呂場なのだろう。脱衣のスペースがある。洗濯機が撤去されているので大分広く感じる。ドアが二つあり、半透明の方は浴室で、もう一方は…
開くと便座があり、床の上にはスリッパがあった。手に取り、壊れていないか確認する。
(問題なし!!)
跡はカーテンを外せば良い。…と、風呂場を離れようとして、脱衣所に残された鏡に写る自分の姿が見えた。

(んっ?!)

鏡に写っているのは「俺」の姿の筈である。が、俺の目にはどうしてもソレが俺自身には見えなかった。
「だ、誰だこの女は?」
黒の羽衣を剥いだ下には、元の俺自身の肉体が戻っているとばかり思っていた。
が、鏡に写っていたのは「俺」ではなかった。…更に、さっきの声。まるで女の子のような声だったではないか?
「あ、ああー」
と声を出してみる。
確かに女の子の…鏡に写る姿に似つかわしい…甲高い声であった。

羽衣伝説(5/6)

 
もう一度鏡を確認する。
幼さの残る女の子の顔。短い髪に縁取られている。
胸はまだ発育途上であるが、女性特有の膨らみは存在していた。
俺は直接、自分の胸を見てみた。鏡に写ったのと同じ膨らみがある。そして、その視線を更に下に向かわす。
股間に縦の筋が存在するのが確認できた。そこに「男」のシンボルは存在しない。
俺は手を股間に這わせた。指が確実に割れ目の存在を捉えている。

(…)

しばらくは何も考えられなかった。
しかし、いつまでもここに居る訳にもいかない。とにかく「人魚」でないだけマシであると考えるべきなのだ。俺はカーテンを剥ぐべく、風呂場を後にした。

ふと見ると、床には女物の衣服が落ちていた。
(俺は男だ。女の衣服など着れるものか。)
と思うが、今の俺の肉体は「女」なのだ。
この先、カーテンを身体に巻いて求めようとする衣服は、何れにしろ「女物」でしかないのだ。
であれば、今手にしている服を着る事に、何の躊躇があるというのか…

 

 
風呂場の鏡に自分を写してみる。
服は多少汚れているが、問題なく着れている。(胸の余りはストッキングを丸めて詰めた)
廃屋には、女物の靴も残っていた。それを履いて外に出る。
もう、全裸を見咎められる事はない。俺は海から離れることだけを考えて、道をあるいていった。

ブロンと音がした。
慌てて物陰に身を隠そうとしたが、間に合わない。車の運転手は確実に俺の存在を認識していただろう。通り過ぎて即にブレーキランプが灯った。
その場に硬直してしまった「俺」に向かって車はバックしてくる。

「どうしたの?女の子がこんな所、独りで歩いていると危ないわよ。」
運転手は女性だった。
「…って、そのなりはもう手遅れだったか。じゃあ、尚更ね♪乗りなさいな。無理に送ったりはしないわ。あたしん家で少し落ち着いていきなさいな。」
と半ば強引に後席に押し込められた。
カチャリとドアのロックが落ちると、エンジンが震えて車は走りだした。

運転手の女性は何も聞いてこなかった。
車内はエンジンの音と車が風を切る音だけだった。車内の暖かさと相まって、気分がほぐれてゆく。

「クゥ~~ウ…」

その場には何とも似つかわしくない音が響く。
出所は俺のお腹だった。
彼女等に捕まってからは何も口にしていなかった事を思い出した。
思い出すと同時に空腹感に襲われる。
「家についたらあったかいスープを出してあげるわね。それまで、もう少し我慢しててね♪」
車は脇道に入っていった。
くねくねと坂を上ってゆく。その先には一軒の家があった。

「お風呂は即に入れるわよ。着替えは用意してあげるから、今着ているのはゴミ箱に捨てておきなさいな。その間に美味しいスープができてるわよ♪」

 

風呂で暖まると心身ともに生き返った気になる。
用意されていたバスローブに身をくるみ、良い匂いのする方向に足を向ける。
ドアを開けるとテーブルの上にスープが用意されていた。
「気にしないでゆっくりくつろいでね♪」
と女は少し離れて椅子に座ると、スケッチブックを広げた。
今更ながら、部屋の中の壁という壁に「絵」が飾られていた。
「こ、これ…って…」
「ええ、皆あたしが描いたの。一応、職業は画家という事になってるけど、殆どが売れ残ってココに飾られてるわね。なんとか親の遺産で生活させてもらっているわ。」
と鉛筆を走らせていった。
気にならないとは言えないが、それ以上に空腹を満たしてくれるスープに一所懸命になっていた。
腹が満たされると、今度は猛烈な睡魔に襲われた。「俺」がどのように描かれたかは気になるところではあったが、いつの間にか意識を失っていた。

 
そこはベッドの中だった。暖かな毛布と布団にくるまれていた。
そして、ここがどこであるかを把握していった。

海からは大分離れている筈である。人魚の姉妹からは逃げられたのだろうか?
布団を剥ぎ、上半身を起こした。俺はピンク色のパジャマを着せられていた。
自分の体が「女」になっていた事を思い出す。胸はナイが、股間に手を伸ばすと、自分が「女」である事が明白となる。
部屋にはドレッサーが置かれていた。ベッドを降り、鏡に写してみる。…が、そこには見慣れた「俺」の顔はなかった。

部屋を出る。
食堂から良い匂いが漂っていた。扉を開くと女主人がこちらを振り向いた。
「お、おはようございます…」
何とか挨拶の言葉を絞り出す事ができた。
「さぁ、席について頂戴♪朝ごはんにしましょう。」
と俺を座らせると、彼女もその向かい側に腰を降ろした。
「一緒に食べてくれる人がいると、いつもより美味しく感じるわ♪」
やはり女の体だからなのだろうか、少し食べただけでもう腹が膨れてしまっていた。
「着替えたら、もう一枚描かせてもらって良いかしら?」
別に断る理由もない。モデル代がここでの衣食住であると考えれば安いものだ。

「女」の服を着け、彼女の前でポーズを取る。1枚が2枚、3枚と増えてゆく。日が経つにつれ、場所も部屋の中から庭に移った。
着るものも様々に変わってゆく。彼女のスケッチブックにはどのように描かれているのだろうか?

 

羽衣伝説(6/6)

「今日は景色の良い所に出かけましょう♪」
と車に乗せられた。

車窓に海岸線が見え隠れする。
厭な感じが尻をくすぐっている。即にでも逃げだしたいが、走っている車の中ではどうする事もできない。

目の前に松が点在する浜辺に着いた。
そう「あの」浜辺だ。
羽衣が掛かっていた松も即に判別できた。
「あれが良いわね。そこの松の前に立ってもらえないかしら?」
あろうことか、彼女はその松を指し示した。
(羽衣の事は彼女が知る筈もないのだ!!)
と、自分自身に良い聞かせて、その松に歩み寄った。
スケッチブックが広げられ、鉛筆が動いてゆく。

 
「上手いのね♪」
いつの間にか彼女の後ろに二人の女が現れていた。人魚の姉妹だった。
彼女達の様子からは、俺の正体がバレたようには見えなかった。
「あの娘がモデルなの?」
と俺の方を見る。俺は平静を装うことに終始した。
「でも、何で人魚なの?ここは天女の伝説の場所でしょ?」
どうやら、俺は人魚として描かれているらしい。
「良かったら、彼女を本物の人魚にしてあげようか?」
と、姉妹は白と黒の羽衣を取り出していた。

(また、人魚にさせられる?)
俺は衝動的に走り出していた。
「もう二度と捕まらないからなっ!!」
すれ違い様、白の羽衣を奪い取る。

走り続けると駅が見えた。丁度電車が到着する所だった。
キップを買い、電車に飛び乗った。閉まるドアの向こうに人魚の姉妹が見えた。彼女等の悔しそうな顔を見て、ホッとため息がでた。

 

 

 
手に入れた白い羽衣は、俺を本来の=「男」の=俺に戻してくれた。
俺は何食わぬ顔で、元通りの生活を取り戻していた。

 
…が、それは昼間の話。

家に戻ると、俺は羽衣を外し「女」の姿になる。
今では、こちらの姿の方が俺本来の姿だと感じていた。
スカートを穿き、化粧をする。部屋の中も、もうこれが「男性の部屋」だとは思えない程になっていた。

「あたし」の携帯を確認する。
「彼」からのメールが入っていた。近くの喫茶店で待っていてくれている。
(これから「夜」のデートね♪)
彼には、もう何度も抱かれている。あたしは「女」の快感に満足していた。
(もう、24時間このままでも良いかな?)
そんな事を考えつつ、あたしは姿見に自分を写し、最高の微笑みを浮かべてみせた。

12ヶ月

「プレゼントは何が良い?」クリスマスを控えてミアが聞いてきた。
俺は今年の一年を振り返ってみた。
 
1月の初詣でで「恋人が欲しい」と願ったら、
どこからともなく現れたミアと言う女(実体は悪魔だったorz )が現れ
「貴方の恋人よ♪」と言ってつきまとうようになった。

 
2月のバレンタイン。
「プレゼントは何が良い。チョコレート?それとも、ア・タ・シ♪」と言う甘い言葉に
「ミアが欲しい♪」と言ってしまった。
「良いわよ♪この身体はアナタにあげるわ。」
そして、俺は「ミア」になった。
お約束通り、俺はミアからオンナの快感を経験させられた。

 
3月はひな祭り。
俺の部屋にひな飾りが置かれ、良い機会だからと振り袖を着せられた。
ミアは内裏様を気取って平安貴族の格好で、俺を押し倒した。
ミアは悪魔だけあって、男装ではなく中身まで「男」になっていた。
とうとう俺も「男」に抱かれ…女のようにヨがっていた。

 
4月は花見。
夜桜が良いと、夜の公園に向かった。
近くの会社のサラリーマン達がそこかしこでビニールシートを敷いて宴会に興じていた。
只一箇所、ほとんど特等席の場所だけがポッカリと空いている。
「ココにしましょう♪」とミアに促され持ってきたピクニックシートを広げた。
そこはミアの結界により誰にも気付かれないようになっているらしい。
それを良い事に酔いの回ったミアは俺を裸にして寝かせ、持ってきた料理をその上に並べていった。
「女体盛り~っ!!」と独り盛り上がっていた。

 
5月はGW。
俺達は遊園地にでかけていった。
そこは絶叫マシンのオンパレード。
女の子達の悲鳴があちこちから絶え間なく聞こえてくる。
「男」としては、叫ぶなど恥ずかしい事…と我慢できたのはほんの数秒間だけだった。
「きゃ~~~っ!!」と、即に他の女の子達に混じって黄色い声を上げている俺がいた。
気が付くと俺はミアの腕に縋っており、いつの間にかミアは男の姿になっていた。
これでは誰が見てもアツアツのカップルだ。
ご多聞に洩れず、夜はそのままホテルに泊まる事になった。

 
6月の梅雨
「雨の紫陽花寺が見たい♪」と言うミアと一緒に鎌倉に行った。
観光地の上、旬の時期なもので目的のお寺ひとつで、かなり疲れを感じていた。
「せっかく鎌倉に来たのだから、もっと見てまわりたい♪」とミアは言う。
「あれなら良いでしょ?」とミアが見つけたのは人力車だった。
ミアには逆らう事ができず、車夫のお兄さんに声を掛けた。
「ハイ!よろこんで♪」
明るく応対する彼の笑顔にドキリと胸が鳴る。確かに彼はハンサムである。
が、男の俺がトキメク筈はない!!
…筈ナノダガ…
最近、俺の思考が女性化してきたような気もする。

 
7月は海水浴。
ビキニの水着ではしゃぎまわったら、しっかりと水着の跡が付いていた。
「そこがセクシーなんじゃないか♪」
ホテルで俺のブラジャーを外しながら男のミアがそう言う。
ミアも俺と同じように水着の跡を付けてたのに、男になった途端、綺麗に消えてしまっていた。
俺はベッドに寝ると、脚を広げる。もう、抱かれる事に馴れてしまったようだ。
俺の股間は快感を期待して雫を垂らすのだった。

 
8月の花火大会は二人で浴衣を買って着た。
屋台のお兄さんにひやかされるのに快感さえ感じてしまう。
闇に紛れてミアの手が俺の乳房を弄びだした。
「駄目よ。声がでちゃうわ。」周りを気にして女言葉を使うのも板に付いてきた。
「大丈夫よ。花火の音に紛れちゃうわよ♪」そう言って、下にも手を伸ばす。俺の股間は既にしっとりと濡れていた。
ドド~~ン!!と音がする。
「たーまやーっ!!」の掛け声に合わすかのように
「あんああ~ん!!」と嬌声をあげる俺がいた。

 
9月。
俺は独り鎌倉に来ていた。
「こんにちは♪」と俺が声を掛けたのは、6月に出会った人力車の車夫のお兄さんだ。
「今日は何処に行きますか?」俺が彼と鎌倉を巡り歩くのは、もう何度かめであった。
俺としては彼とデートしている気分だった。
「どこか美味しい甘味処、知りませんか?」
鎌倉の主だった神社仏閣は廻りきっていたし、彼の案内で「穴場」にも連れていってもらえた。
「武士さんも一緒に♪」と半ば強引にテーブルの向かい側に座らせた。
「お勧めは?」
「みつ豆ですね。」
「じゃあそれを二つ♪」
出てきたみつ豆は、彼が勧めるだけあって、大変美味しかった。

 
10月。
武士さんとデートすることができた。
俺がヒラヒラのワンピースを着て鎌倉駅で待っていると、私服の彼がやってきた。
江ノ電に乗って江ノ島に向かう。お土産物屋が並ぶ小道を進むと海岸に出る。
橋の先にあるのが江ノ島だった。
竜宮城のような門を潜り神社をお参りしてから、島の一番上にある展望灯台に登った。
「わー、ステキ♪」
思わず歓声があがってしまう。素晴らしい景色が広がっていた。
「素敵な景色を見せてくれてアリガトウ♪」と彼の頬にキスをした。
最初のデートだから、これくらいで良いかな?と思っていたら、帰りの別れ際に、俺の額に彼からキスをしてくれた♪

 
11月。
武士さんとのデートを繰り返す。
食事をしてホテルに泊まる。
勿論、彼に肉体を開き、大いに悦ばしてもらってから眠りに就く。
彼との相性は問題ない。
男のミアは「理想的な男性」ではある。
が、どこかに「嘘」があるようで、武士さんとみたいにのめり込むような事はない。
ここしばらくのミアは単なる同居人として暮らしている。
性的なイタズラも仕掛けてくることもない…

 
そして、12月。
「プレゼントは何が良い?」と、クリスマスを控えてミアが聞いてきた。
今、俺自身が欲しいものとは何だろう?
「聞く事もナイか…」とミア。
「今の貴女は幸せでイッパイだものネ♪せいぜい武士さんといつまでも幸せでいたい…って所かしらね?」
「そ、そんなコト…」
ナイと否定できない自分がそこにいる。
「これが一年前まではサエない男性だったなんて、誰が思えるかしらね?」
「…まさか?」
「大丈夫よ。男に戻すなんて言わないから♪」とミアが笑って言う。
が、俺は背筋を冷たいモノが落ちてゆくのを感じていた。

 

 
除夜の鐘が鳴っていた。
鎌倉の人出は想像以上だった。こんな中で武士さんを探せるのだろうか?
あたしは慣れない振り袖を気にしつつ、約束の場所に向かって行った。

人の流れが途切れた。
その先が待ち合わせの場所。
そこにはスーツを着た武士さんが待っていた。
「ごめんなさい。遅くなって。」
「そんな事はないよ。」
慌てて近付こうとして、足が絡まる。
倒れそうになったあたしを彼はしっかりと抱き止めてくれた。
「じゃあ、行こうか。八幡様程立派ではないけど、御利益は変わらないからね♪」
とは言え、鎌倉はどこも人で溢れかえっている。
そして12時の時報とともに人が動き出す。しばらくは流れに任せるしかなかった。
やがて、二人並んで正面に立った。賽銭を投げ入れ、手を合わせる。
(武士さんと幸せな日々が過ごせますように♪)
お祈りが済んで隣を見ると、彼もあたしを見つめていた。
「手を出して♪」彼があたしの手を握り締める。
「これは神様ではなく、君への願い事…」と、あたしの指に指輪が填められた。
「ミアさん。僕と結婚してくれないか?」
あたしは、即に「はい♪」と答えていた。

 

 
その部屋には、あたし以外の誰かがいたような気がした。
(そんな事はない。あたしはここで、ずっと一人暮らししていたんだ。)
武士さんの所で一緒に暮らすことになり、荷物をまとめていたあたしは、落ちていた写真に目が止まった。
あたしと知らない男性が写っていた。日付は去年の一月。
こんな男性は知らない筈なのに…

何故か涙がこぼれていた。

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