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2011年12月 9日 (金)

境界を越えて…(1/5)

風が吹いて来た。
俺の足元をすり抜けざま、ふわりとスカートの裾を舞い上がらせていった。

慌てて腰の前後を押さえたので、下着が見られることはなかった。
女の子なら、こんな時「キャッ♪」と愛らしい叫び声をあげるのだろうが、俺がそれにならう必要などありはしない。
が、
誰が見ても、今の俺は「愛らしい女の子」なのであろう…

話は3ヶ月前に遡る。

 

 

「ちょっと付き合ってくれないか?」
「親友」と呼ぶ程親しい付き合いはしていないが、とりあえずは友人と言える程度の友人である大木寿人だった。
彼は自他共に認めるマッドサイエンティストであった。元々が資産家なのであろうか、自宅の地下にある研究室では、日夜様々なガジェットが生み出されていた。

俺が招かれたのは、地上にある豪邸の応接室だった。
「実験に付き合ってもらえないだろうか?」
予感はしていたが、奴は単刀直入に切り出してきた。
「肉体的なダメージがなければ考えてやっても良いぜ。」
俺がそう答える事は奴にも判っていたのだろう。噂で聞く高額報酬が噂ではない事が即に明かされた。当然、俺が失業中である事も確認済みなのだろう。
「で、何をすれば良いんだ?」

 
奴の説明によると「義体」の遠隔稼働の限界を確認したいらしい。
「義体」とは義手や義足の延長で、体全体をそっくり補完する「装置」だそうだ。ロボットとどこが違うかと聞くと、「操縦」するのではないという。その人物の存在が義体に置き替わる

ものだと言われても、俺にはさっぱり判らなかった。

「とにかく、やってみてくれ。」
と地下3階に連れて来られた。
そこにあるカプセルに全裸で入るように言われた。耳や鼻の穴に栓がされ、呼吸用の管を咥えると、カプセルの中に液体が満たされていった。
その液体は冷たくなく、暖かくなく…俺を優しく包み込んでゆく。
次第に眠気が…
と思う間もなく、俺は意識を手放していた。

 

 
「おい、起きれるか?」
大木の声がした。耳栓をしていた筈なのに良く聞こえる。
そもそも、そこはカプセルの中ではなかった。背中にマットの感じがする。ベッドの上なのだろう。
どうやら、全裸ではなく服を着させられているようだ。
「悪い。実験中に寝てしまって。今度はちゃんとするよ。」
と俺が掛けられた毛布を剥いで起き上がると、
「いや、まだ実験は始まったばかりだよ。謝る必要はない。」
と俺が剥いだ毛布を引き取り、丁寧に畳んでいた。
「それよりも、まだ気付かないか?」
「何を?」
俺は床に置かれていたスリッパに素足を突っ込んだ。
「今のお前は既に義体になっているってことだよ♪」
「義体?」
俺は立ち上がると奴を見上げた。


見上げる?
奴と俺の背丈はそう違わない筈だ。

「鏡なら、ほら、そこにあるよ♪」
と奴が俺の肩を掴み、向きを変えさせた。確かに、何の変哲もない姿見がそこにあった。
が、そこに写っているのは奴と女の子が一人…
「これが俺か?」
鏡な中の女の子は、正確に俺の動きをトレースする。
女の子が動くと穿いているスカートが揺れる。その裾が彼女の脚に触れると同じタイミングで、俺の脚に何かが触れてくるのを感じていた。
俺はズボンを穿かされていないようだ。太股から下は素足が剥き出しになっている。
男としてはこの上もなく恥ずかしい状態であるが、カプセルに入る際、奴には俺の全裸を見られていたし、カプセルからは全裸のまま出されたとの思いから、あまり深く考えていなかった

のだ。
その俺が鏡の中の女の子と同じにスカートを穿かされている?いや、今の俺は鏡の中の女の子と同じに女の子の服を着せられている!!
多分、下着からそうなのだろう。確かに胸のまわりを締め付けているのはブラジャーに違いない。ブラのカップが俺の胸の膨らみを包み形を整えている。
…って、俺の胸にバストがある??
「ど、どう言う事なんだ?」
俺は再び奴を見上げた。
「どう?って、それが義体だよ。本人そっくりに作る事もできるが、今は試験段階だ。容姿は私の趣味とでも思ってくれ。」
「因りにもよって、何で女の子なんだ?」
「だから、私の趣味…」
「判ってる。今のは俺の愚痴だ。気にしないでくれ。」
そう言って俺は再び鏡に向かった。

これが「奴の好み」だと言うのだろうか?
造りモノであるから不細工な筈はない。誰が見ても可愛いと言われる部類であろう。声も、この容姿にふさわしい鈴を鳴らすような可愛い声が俺の口から生まれ出てゆく。
お約束だと思うが、スカートを捲り、股間にあるべきものがナイ事も確認した。

落ち着いた所で、奴は「俺」が入っているカプセルを見せてくれた。
今の俺は義体そのものになっているように感じているが、あくまでも俺の意識はカプセルの中の「俺」の内にあり、義体との間で情報交換を行う事で、あたかも義体が俺自身のように感じ

られているだけだそうだ。
「肉体が死んでも義体の中で生き続けるというような事はない。お前の肉体はちゃんと管理されているし、実験が終われば元に戻れるよ。」
俺は「実験を始めよう」と言う奴の言葉に、カプセルの中の俺を一瞥してから奴の後について地上階に戻っていった。

 

 

 
「実験自体は簡単なものだよ。」
奴がちらりと俺を見た。
「難しいのは、第三者にその体が義体である事を知られないようにする事だ。」
「何か見つかっちゃまずいものでもあるのか?顔に継ぎ目がある訳でなし、頭からアンテナが生えてる訳でなし。」
「お前が注目を浴びなければ問題はない。多少造形が良すぎた面は我慢してもらうとしても、普通に女の子していれば大丈夫だ。」
「女の子する?そりゃあ無理だな。俺は根っからの男だぜ。恥ずかしくてそんな事できる筈ないな。」
「まあそう言うな。少しでも努力してみてくれ。いざとなったら対応する手段もない訳ではないからな。」
「だったら、それを先にやった方が良いんじゃないか?」
「多分、お前の精神的負担は半端じゃないと思うぞ。」
「良いからやってみてくれ。」
俺はそう言った事を即に後悔することになった。

 

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