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2011年11月 6日 (日)

俺の仕事(後編)

「あんたも腰掛けのつもりはないんでしょ?ハイハイと皆の言う事を聞いてるだけじゃなくて、もっと自分を出すべきよ!!」
接待の後、二人だけで二次会をしていた。茜の酒は「絡み酒」のようで、とうとうと俺に説教のような事を言い始めた。
「あんただって、やればできるのよ!!顔は繋いでやったんだから、この客はあんたに任せるからね。課長にも了承済みだから♪」
「い、いきなりナンて事言うんですか?顔繋ぎって、女の子として紹介されてるんですよ。今更、男でしたなんて言えますか?」
「なら、女の子で通せば良いじゃない。あんたなら大丈夫よ♪」

 

で俺はそのまま、この客の「担当」となってしまった。初めての「担当」と言う事で張り切った所為もあり、良好な関係を結べ、我が社への利益への貢献も果たせていた。
もっとも、客先に出向く時はあれから買い揃えた女物の服に着替えてから行くという手間が掛かるのが難点だった。

「清水君。ちょっと良いかな?」と課長に呼ばれた。
「まだ、あまり公にはできないんだが、今度、陽子ちゃんが結婚退職する事になった。」
「それは、おめでたい事ですね♪」と気楽に応対していた俺だったが、
「ついては、君に陽子ちゃんの仕事を引き継いでもらいたい。今や君もウチの課の戦力の一端を担っている。能力的には問題ないだろ?」
「ま、まあ…やれない事はないとは思いますが…」

 

(ま、まずい…)
俺は焦っていた。
野村さんとの待ち合わせの時間が迫っていた。事故で電車が止まっていまったので迂回ルートを余儀なくされたのだ。
「今どこ?…それなら直接客先に向かった方が良いわね。」と野村さんの指示。
俺としては、一旦会社に戻り「男」の服に着替えてから向かう予定だったのだ。
「良いんじゃない♪女の子のままで。その方が先方にもウケが良いかもよ。」

結局、俺は再び女の子として紹介されてしまった。
「考えようによっては、これで良かったかも。お客様同士が同席している所にあなたが出て行くとき、男装するか女装するか悩む必要もなくなったでしょう?」
後で野村さんがそう言った。
「今でも電話の応対に苦労しているのでしょう?」確かに一理ある♪
担当のお客様からの電話にうっかり男声で出てしまい、慌てて「担当に替わります」と一人二役をしなければならないのだ。

が、それを受け入れてしまうと言う事は、仕事をしている間は常に「女」になっていなければならないと言うことになる…

 

「真ちゃん。お願いがあるんだけど。」と、課長に呼ばれた。
「今度、新人の娘が配属されて来るの。貴女にトレーナーをお願いしたいんだけど♪」
陽子が抜けたうちの課には、あたしの他には茜と課長しかいない。あたしが引き受ける以外に選択肢がないのは目に見えている…

「お姉さまと茜チーフって同棲してるって本当ですか?」
新人の春日ミドリは物怖じせずにズケズケと質問してくる。
「どこからそんな話を?確かに、前のアパートには住み辛くなったんで、茜の所に同居させてもらってるけど、あくまでも同居よ。ど・う・き・ょ!!」
実態は同棲なのだが、表向きは「同居」ということにしている。
「で、やはり茜チーフがタチなんですか?」
「イ・イ・カ・ゲ・ン、その話はヤメなさい!!」
多分、あたしの顔は真っ赤に染まっていたのだろう。彼女の言う通り、茜とのSEXはあたしの方が受け身になってしまう。昨夜だって…
「ふ~ん。そうなんだ♪」と言うミドリちゃんの声で我に返った。

 

「ただいま♪」とマンションのドアを開ける。
茜が帰っている訳でもないのに、そう言って入るのが癖になっていた。独り暮らしのアパートとは違う。ここには人の温もりが感じられる。
あたしはスーパーで買ってきた食材を冷蔵庫等に片付けると、エプロンを着けて夕食の支度を始める。今日はそんなに遅くならないと茜が言っていたので、いつもの帰宅時間に合わせるように段取りを確認した。
あたしもいっぱしの主婦並みに料理のレパートリーも増え、家事全般をそつなくこなせるようになっていた。

ピンポ~ンとドアベルの音がした。
想定したり、いつもの時間に茜が帰ってきた。が、いつもと違ってワインのボトルを手にしていた。
「今日は呑もう♪」
あたしがワイングラスの準備をしている間に茜が部屋着に着替えてくる。
「どうしたの?」
食卓についた茜が見ている先には、陽子ちゃんの結婚式であたしがもらった花嫁のブーケがあった。
「先ずは乾杯よ♪」
あたしの問いには答えずにワインのコルクを抜く。
「何に乾杯するの?」
「あたし達の新しい命に♪」

「えっ?!」
あたしには、それ以上の言葉を続けられなかった。」
あたしが茜の説明を聞いて理解したのは…
今日、病院で茜の妊娠が確認された事
茜は「男性」との性交渉は行っていないとの事
唯一、あたしの精液が茜の膣の奥に入り込んだ可能性があるとの事

「結婚しよう。」
茜が小さな箱をあたしの前に差し出した。
「真には、あたしが産んだ子を育て、ここであたし達の家庭を守ってもらいたい。」
「そ、それって…」
「プロポーズだよ。あたしは女だけど、真をお嫁さんにしたいんだ。受けてくれるかい?」

あたしの目は溢れる涙に霞んで、何も見えなくなっていた。

 

 

写真の中にはタキシード姿の茜と、ウェディングドレスを着たあたしが映っていた。
愛娘に母乳を与え終わるとベッドに寝かせた。彼女の笑顔に育児の疲れも癒される。
茜は出産の為だけの短い産休を終えると即に仕事に復帰した。そして、茜と入れ替わりにあたしは会社を辞め、専業主婦となった。
あたしには、会社の仕事より家事や育児の方が向いていたようだ。

娘の寝顔を見ていると、こっちまで眠くなってしまう…
少しだけならお昼ねも良いよね♪
あたしは幸せの中にまどろんでいった。

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