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2011年9月 5日 (月)

霧の中の館(1/5)

どこで道を間違えたのだろう?
走っていた道は、どんどん山奥に分け入ってゆくようである。何故かカーナビは一向に現在位置を表示してくれない。
いつしか宵闇が訪れる。街路灯もなく、ガードレールもまばらな道をヘッドライトだけを頼りに進んでゆく。

(戻ろう)
と思った時には、既にUターン可能な場所がなくなっていた。この闇の中でバックを続けるのは自殺行為の何物でもない。
更に雨も降り始め、辺りは完全に闇に閉ざされてしまった。


木立の合間に明かりが見えた。
人家があるのか?
ゆっくりと車を進めると、道はその明かりに向かって続いているようだった。

その館の前には車をUターンさせられるスペースがあった。ここで向きを変え、来た道を戻れば良い。
幸いにも、雨は止んでいる。車の向きを変えるために空きスペースの最奥に進め、ギアをバックに入れ替えるため、一旦停止した。

その時、玄関の扉が開き、光が漏れてきた。
その光の中にロングスカートを穿いた女性のシルエットが浮かんだ。慌ててギアをニュートラルに入れ、ブレーキを掛けると車の外に飛び出た。
「すみません。」と玄関の女性に声を掛けた。
「道を間違えたようで、ここでUターンさせてもらっています。」深々と頭を下げた。
「それは構いませんが…」優しそうな中年女性の声だった。
「今からこの道を戻るのは危険です。もう夜も遅いですし、この館で一晩お休みになっていきませんか?」
彼女の提案に心が動く。
「このような大きな家です。空いている部屋はいくつもありますから、気にせずにどうぞ。」
そこまで言われては…と、車のエンジンを切り、彼女に導かれて館の中に入っていった。

 

中は外見に違わず立派な造りになっていた。エントランスの左右から二階に続く螺旋階段を上り、客間の一室に通された。
高級ホテルのようなシックな柄のカバーできちんとメイクされたベッドに圧倒される。クラッシックなドレッサーには、女性客用に様々なコスメが並べられていた。
「お湯も使えますから。」と部屋に備え付けのユニットバスも案内してくれた。

ありがたくシャワーを浴びさせてもらい、体を拭くのもそこそこに、バスローブのままベッドによこたわると、瞬間に睡魔に引き擦り込まれてしまっていた。

 

静かな朝だった。
何の物音も聞こえない。冷たさこそないが、凍りついたように動きを止めていた。
そう、ゆうべはカチカチと音をたてていた柱時計が午前零時で止まっていた。朝の光を和らげる真っ白なレースのカーテンも空気の流れを失い、ピクリとも靡くこともない。
窓の外の木々も、風がないようで葉を揺らすこともできないでいるようだ。
起き上がり窓を開けてみたが、外の空気もまた重く、一向に流れる気配を見せていなかった。
ドアを開け、階下に降りてみた。
ゆうべ招き入れてくれた女性を探すが、彼女はおろか、人の居る気配がしない。それどころか、寝ていた二階の部屋以外の全ての部屋には、うっすらと埃が積もっていた。もちろん一晩で溜まる量などでありはしない。
それは、毎日使われるであろう食堂や、その奥の調理場も例外ではなかった。

エントランスに戻り、玄関のドアを開ける。鍵を外すのに手間が掛かったが、何とか外した。
目の前に山の緑が広がる。その緑の壁と館の間に車をUターンさせられる空間がある。
綺麗に小石が敷き詰められていたが、その空間には車は無かった。車が通れば小石の上に轍の跡が残る筈…が、綺麗に整えられた小石の表面は何も語ってくれなかった。

ジャリッと音がする。
裸足にもかかわらず足を踏み出していた。
人間の体重でさえ、跡が残るのが確認できた。そこには最初から車などなかったと結論付けられてしまいそうだ。
車を置いた場所まで歩いた。
が、そこに何もない事が確認できただけだった。

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