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2011年9月 5日 (月)

霧の中の館(2/5)

足の裏の痛みに耐えられなくなり、一旦館に戻った。足だけでなく、バスローブの下には何も着ていなかった事を思い出した。
二階の部屋に戻った。

(?)

何時の間にかベッドが片付けられ、綺麗にメイクされていた。
別の部屋に入ってしまったか?と思ったが、左右の部屋には埃が積もっており、この部屋には間違いがないようだった。
しかし、この異変を追求するより先に服を着なければならない。

昨夜の行動を思い出し、シャワーを浴びる前に脱いだ服を置いた場所に視線を動かす。半ば想定はしていたが、そこに脱いだ服はなかった。
続いてユニットバスに向かう。当然のようにそこも綺麗に片付けられていた。ぐるりと部屋の中を見渡したが、どこも綺麗になっていて、余計なものは残されていなかった。
残るは壁と一体となったクローゼットの中しかない。
扉を開けると数多くの「服」が掛かっていた。が、そのどれもが長いスカートのドレスばかりである。

結局、着替えるべき服はどこにもなかった。
バスローブだけでも寒いとは感じなかったが、如何せん、その下は全裸なのだ。常識的に、このままで良い訳ではない。が、男として、はいそれではと安易に女性の衣服…下着を含めて…を着るのも憚られる。
「ふう」とため息をついてドレッサーの前の椅子に腰を下ろした。

当然だが、目の前に鏡がある。
鏡に映っているのは自分の顔の筈である…
(こんな顔だったか?)
記憶にある顔が霧の中に埋もれてしまったように、なかなか現れてこない。しかし、その顔が自分のものでない事は確かだ。
薄い眉毛に広い額。ふっくらとした頬からつながる顎のどこにも髭の跡さえ見られない。思わず吸い付きたくなるような唇…それは、どう見ても「女」の顔だった。

男の体に「女」の顔では不自然極まりない。
が、鏡に映る「女」に不自然さは微塵もなかった。バスローブの中から現れた腕は白く、細く…指先には形の良い爪に至まで女らしさに満たされている。
そう、鏡に映っている人物は「女性」そのものだった。バスローブにくるまれた胸が、内側から盛り上がっている。その下にある形の良いバストを想像させる…

ふと、視線を落とした。
(!!)
鏡の中の女と同じように、自分の胸元のバスローブも膨らんでいるではないか!!

ごくりと唾を飲み込み、バスローブをはだけると、想像に違わない形の良いバストが存在していた。
手も指も…鏡の中の女と同じものがそこにあった。
立ち上がるとバスローブが足元に落ちてゆく。鏡の中には全裸の女性が映っている。
そして、それは今現在の自分自身なのだ。

手を股間に這わせた。鏡の中の女も同じ行動をしているのだが、もう鏡を意識する事はなかった。
指は肉の割れ目を捉えていた。そこにあるべき突起が存在していない事も確認する。
これは正真正銘「女」の肉体であった。


女の体であれば、女の衣服を身に着けるのが当然の事となる。
いつまでもバスローブのままでいる訳にもいかない。更に言えば、今の自分は完全に全裸なのだ。

クローゼットに歩み寄る。手近のワンピースと下着を取り出し、身に着けてみた。
この体に合わせた服が用意されていたのか、服に合うように体が変えられたのか…服は体にピッタリと填った。背中のファスナーも難なく上がり、服を着終えると、再びドレッサーの前に座り、化粧を始めていた。
もちろん、これまで化粧をした事など一度もない。当然、化粧水と乳液の違いも知る筈もない。が、無意識のうちに的確な瓶や道具を取り出し、顔に塗り込んでいた。
唇にルージュが引かれ、化粧が終わったのだろう。鏡の中の女は、その美しさを数段程アップさせていた。

 
化粧が終わった事で、無意識に任せた所作も終わりとなった。
(何をすべきか?)
やるべき事は二つ。この館に他に誰がいるのか突き止める事。そいつならば、元の姿に戻る術を知っている可能性が高い。
もう一つは、一刻も早くこの館を離れること。この館にいる限り、何が起きるかわかったものではない。最悪、自分というものを失ってしまう可能性がある。
両方を行う事はできない。ならば、姿は変わっていても、自分を失わないでいる間に、館を立ち去る事を選ぶ。

なるべくかかとが低めの靴を探し、手近のものをいくつかバッグに詰めて館を出た。
敷き詰められた小石を踏んで敷地の外に出た。来た時の事を思うと、何者かに出会うまでには相当な距離を歩かなければならないのだろう。
トンネルを越える。
一向に道は狭いまま…その先に一軒の家=館が見えてきた。
(いつの間にか道を逆行していた?)

向きを変え、来た道を戻ってゆく。
トンネルに入る。
出た所で辺りを確認する…何故かトンネルの中で逆戻りしていたようだ。
二度、三度とトンネルを往復するが、どうやってもトンネルの向こう側に出る事ができない!!

 

まるで悪夢の中にいるようだった。
既に、この体が「女」になっている事からして、常識では考えられない事態が展開されているのだ。トンネルの向こう側に抜けられないなど、微々たる事なのだろう。
館の中も確認した。他には誰もいない。が、しばらく部屋を離れていると、部屋の中は元通り綺麗に片付けられている。他の部屋も、再び訪れた時には、積もった埃が復活しているのだ。
絶対にこれは人為的なものではない。出れないトンネルといい、超自然的なものが関わっている事は確かだった。
唯一、わかった事と言えば、館の中に長時間居ると「自分」を失う確率が高いという事だった。部屋で何もすることなく、ぼーっとしていると、いつの間にか手の中に編み棒が握られ、レース編みにいそしんでいる自分に気付く事が度重なっていた。
流石に寝るのは館の中となるが、天気さえ許せば、無駄とは知りつつも「外」に抜けられる場所がないか、探してあるいていた。

 

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