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2011年9月 5日 (月)

霧の中の館(5/5)

彼は部屋の中をきょろきょろと見回した。
「大分変わってしまったわね。それだけの時間があったのよ。もう、あたしがあたしなのよ。」
「わかってる。ただ、確認せずにはいられなかったんだ。あたしがあたしであった事を…」
「なら、じっくりと見ていけば良いわ。」
僕は彼を残し、台所に立った。夕食はまだだったし、食材は充分にあったので、彼の分まで作る事にした。

彼は「あたし」の卒業アルバムを見ていた。アルバムを見ながらぼろぼろ涙を溢れさせていた。
(男の癖に…)と思ったが、彼は僕とは反対に中身が女の子なのだ。僕は彼をそのままに、食卓に二人分の夕食を並べていった。

「美味しい♪あたしじゃココまで美味しくできなかったわ。」
彼が僕の料理を美味しそうに食べてくれるのを見ているだけで、何故か幸せな気分になれた。
「やはり、あなたはもうあたしじゃないのね。あたしだったあたしは古いアルバムの中にしかいない…」
「いい加減、過去に捕らわれるの止めたら?」僕は言わずにはいられなかった。
「べ、別にそんな事はないわよ…」
「貴方…男性としての貴方の過去は貴方のアルバムの中にしか存在しないのよ。」
「で、でも…」
「他人の体を奪う…その事はあたしも貴方も同罪ね。あたしはこの体を得た時、過去も含めてあたし自身になる事にしたの。中途半端にあたしになるなんて、あたしの過去を否定するようなものですものね♪」
「自分の過去を否定する?」
「あたしが過去に犯した過ちを、それは自分がやったんじゃないと言っても誰も信じてくれないわ。結局その報いは現在のあたしが受けることになるの。」
僕は立ち上がると服を脱いでいった。
「この傷も、この傷も皆知っているわ。だって、皆あたしの不注意が招いたものだから。」
全裸になった「あたし」が彼の目に晒されていた。彼の目が女を見る「男」の目に変わっていた。
「これが今のあたしよ。少しは魅力的になったかしら?」僕は彼の股間が膨らんでいるのを見た。
「貴方は男である事を自覚しなければならないわ。」
「そ、そんな事わかってるわ。」
「なら、何でこんなイイ女を前に何もしないの?それとも、自分自身とのSEXに抵抗あるのかしら♪」
僕は彼をベッドに誘った。彼は男の本能には逆らいきれなかった。

 

 
彼はどんな思いで「あたし」を抱いたのだろう?「自分自身」を抱いたのか、単に「女」を抱いたのか…
僕は、これまでに「僕」以外の男とのSEXも経験している。彼は女を抱いた経験はあるのだろうか?記憶に残っていたものではなく…
「あたし」を抱いた事で、彼は「男」として生きる踏ん切りがついたのではないだろうか?
彼はどんな思いで「あたし」を抱いたのだろう?「自分自身」を抱いたのか、単に「女」を抱いたのか…
僕は、これまでに「僕」以外の男とのSEXも経験している。彼は女を抱いた経験はあるのだろうか?記憶に残っていたものではなく…

「あたし」を抱いた事で、彼は「男」として生きる踏ん切りがついたと思いたい。彼は僕を抱いているうちに、僕をひとりの「女」として責め始めていたと思う。

「あん、ああん♪」快感に僕が艶声をあげると、彼の奮いが増す。
更に媚声をあげて彼を掻き立てる。僕も次第に昇り詰めてゆく…
「あ、ああ~~ん♪」彼の精液が膣の中に放たれると同時に、僕もイッていた。

 
あたし…僕の胸に顔を埋めて、彼が寝息をたてている。僕は彼を愛しく思っている。
そう…「女」として…

 

 

 
「どうしても戻りたいの?」僕はもう一度、彼に尋ねた。
「ええ…」と彼。
僕は愛する人の望みを叶えさせてあげたいと思う。そして、それができるのは僕しかいないのだ。
フロントガラスの向こうでは、夕闇の中にトンネルが口を開いていた。僕が助手席から降りると、彼の車はトンネルの中に消えていった。

僕はもう一台の車に移る。その車はギリギリまで路肩に寄せ、対向車とすれ違う事ができるようにしてある。
夜中…午前二時を過ぎた頃、トンネルの奥からエンジン音が聞こえてきた。彼の車だ。
勿論、運転しているのは彼ではない彼…当然、僕の事など覚えていない。

彼の車が通り抜けると同時に、トンネルは忽然と姿を消していた。
僕はここで、再びトンネルが開くのを待つのだ。車には一ヶ月分の水と食料を積み込んでいた。次にトンネルが現れるのがいつになるかなど知る筈もない。
「まあ、一週間といった所かしらね?」と彼は気楽に言っていた。
しかし、待機はゆうに一週間を超えていた。僕は昼間は寝て過ごし、夕方から深夜までただトンネルが現れるのをボーッと待っていた。

 

ふと気付くと、目の前にトンネルが開いていた。慌ててエンジンを掛け、トンネルの中に車を進めていった。
霧の向こうに懐かしい館が見えて来た。既に玄関の扉は開かれ、ロングスカートの女性の姿がそこにあった。
「待っていたわ♪」

(この女は本当に彼だったのだろうか?)嫌な疑問に支配されそうになる。
「さあ、体を交換しましょう♪」と僕を部屋に上げる。背後でエンジンの音がした。彼が館を離れてゆく…
いえ、もう「彼」ではないのだ。先程までの僕であった本来の体に戻ったのだろう。僕の体がこの館に合った姿へと変わっていくのがわかった。

 
再び、何の変化もない毎日が戻ってきた。
しかし、それはそれで良いのかも知れない。あたしがトンネルの向こうに行こうとしない限りは、何の問題も起きないのだ。
たまに来る男性とはSEXを楽しみ、女性が来たら少しばかりお話をして帰ってもらう。
あたしはもう、男に戻りたいとも思わないし、他の女に成り代わるのも面倒だと思っている。
考えようによっては、あたしは不死を手に入れたのかも知れない。食事をしなくとも死ぬ事はないようだ。痩せもせずに同じ体型を維持し続けている。怪我も一晩過ぎれば傷跡も残っていない。
多分、歳もとらないのだろう…

 

空には重い雲が立ち込め、館の周りが霧で包まれた。陽が沈み、辺りが闇に閉ざされる。やがて、車の音が近づいてきた。
「よろしければ、お入りになってくださいな♪」あたしが運転手に声を掛けると、中から若い男が降りてきた。
(今夜は一晩中愉しめるかも…)

あたしは内心ウキウキしながら、男を二階に導いていった。

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