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2011年9月 5日 (月)

人魚姫(2/4)

 
板が軋む音がした。
波が壁にぶつかる音もする。俺が寝かされているベッドが、部屋全体が、ゆったりと揺れていた。
多分、ここは船の中なのだろう。カーテンが掛かり窓の外は確認できないが、その先に海原が広がっている事は容易に想像がついた。

「旦那様、人魚姫さまがお目覚めになりました。」老女の声が伝声管を振るわしていた。
しばらくし、ミシミシと木製の階段を降りてくる音がした。ドアが開き、精悍な若者が姿を見せた。
「姫、声を出す事はできますか?」
俺は変身後の自分の容姿を理解していた。確かに、目の前の好青年と、この俺のツーショットは童話に出てくる王子と人魚姫のシチュエーションそのものだった。
「助けていただいたのですね。ありがとうございます。でも、この脚は元からのもの。魔女の薬は必要ありません。」
「そうか…ロマンチックな展開を期待していたんだがな?」
「ついでに付け加えておきますが、貴方をお見掛けしたのも初めてです。恋こがれてこの船に近づいた訳ではありません。」
「そ、そうか…」と彼は残念そうな顔をした。本当に女の俺と付き合う気でいたようだ。
「では、改めて君の名を聞かせてはもらえないだろうか?僕はこの船の船主兼船長のジン=ダ=ドレイク。王子ではないが、伯爵家の嫡男だ。」
「わたしは…」俺はどう答えるべきか迷った。魔剣もない今、俺の正体を言っても信じてもらえる筈もない。
「わたしの名はアリエル…です。」
「やはり、君は人魚姫だったんだな♪ようこそ。この船に歓迎しよう。」
「あ、ありがとうございます。」と返事をした。まあ、最後は泡と消える人魚姫でも良いか…何れにしろ、このアリエルという女は存在しないのだ。

「そろそろ、」と老女が割って入った。
「そろそろ、お食事のお時間になります。姫さまを食堂にお連れするのでしたら、お着替えが必要です。殿方は退散願えないでしょうか?」
老女の言葉に「おう、そうだった。」とジンは慌てて部屋を後にした。部屋に残されたのは老女と俺…
俺はようやく自分の姿に気が回った。俺は薄手の寝間着を着せられていた。今にも乳首が透けて見えそうなセクシーなものだった。
いくら俺でもこの服のまま食事はできないとは思った。が、老女が用意したのは古風を絵に描いたようなドレスだった。
コルセットでこれでもかと胴回りを締め付けられては、食事を腹に送り込むのは不可能ではないかと思える程だった。

髪を結いあげられ、髪飾りが填められた。顔には化粧が施され、様々なアクセサリーで飾りたてられた。
履かされた靴は「変身」で履かされるブーツよりも更にかかとが高く、船の揺れも加わり、流石の俺もまともに立つ事さえできなかった。

老女に支えられて食堂に入っていった。
ずらりと並んでいるのは船の乗組員であり、ドレイク伯家の家臣なのであろう。好奇の目を向けながらも静かにジンの言葉を待っていた。
「皆も知っていると思うが、彼女が本日より本船の客人となったアリエル姫だ。」と皆の視線が俺に集まる。
「わ、わたしは姫なんかではありません。」俺が彼に向かいそう言うと
「良いんじゃよ。若がそうおっしゃったんじゃ。この船の上では、あんたはお姫さまじゃ。そう成りきれば、ゆったりくつろげる筈じゃ。」近くに座る最長老のような男がそう言った。
「この船に乗っている間だけでも、王子とお姫さまでメルヘンの世界に浸っていなさいな。」

「さあ、アリエル♪お席にどうぞ。」とジンが隣の席に俺を座らせた。乾杯が唱えられ、食事が始まった。
流石に海の男達である。テーブルの上の食材は、あっと言う間に彼等の胃袋に消えていった。
「どうした?口に合わなかったか?」と俺の目の前にだけ残った食材を見てジンが言う。
コルセットの締め付けで思うように食べれないのだが、そう言う訳にもいくまい。
「女性には少し量が多いようですね。」と答え、ようやく一杯のスープを飲み干した。
「わたしには食べきれませんので、皆さんでお分けしていただけませんか?」実際、スープだけで俺の腹は満たされていたのだ。
「勿体ない。姫のものを下賎な輩に食わせるなど…僕が全部いただきます。」とジンは言葉通りに全てを彼の胃の中に送り込んでしまった。
その姿を、俺は羨ましく見ていた筈なのに、いつしか可愛く見えてしまっていた。
「やはり君には笑顔が似合う。君の過去について詮索する気はない。この船にいる間は皆の「姫」でいてもらいたい。」
彼の熱い眼差しに、俺の心臓が激しく動悸していた。
「か、考えておきます。」と、俺は席を立つと部屋に向かった。既に乗組員達は仕事に戻っており、ジンは唯一人だけポツリと食堂に残されていた。

 

 
何故、こんなにも女物の服が次から次へと出てくるのだろうか?
俺は着せ替え人形よろしく、様々な…それも俺の「女らしさ」を際立たせるような服ばかり、着させられていた。
「どうだ?船の生活は慣れたかな♪」船の揺れに足を取られそうになった俺をジンが抱き止めてくれる。
「ええ♪海の中程ではないにしろ、快適に過ごせておりますわ。」チャイナドレスに身を包んだ俺は半身をジンに委ねて、彼に笑顔を見せた。
その光景は絵本の挿絵のよう…俺は、王子に恋する人魚姫という役どころに、どんどん填まり込んでいっている気がしていた。

「島が見えました!!」伝声管から見張りの声が届いた。
ブリッジが慌ただしくなる。俺はキビキビと指示を出すジンの横顔をうっとりと眺めていた。
「どうした?僕のコト惚れ直したか♪」彼が俺の顔を正面から覗き込んでいた。
ドキリと心臓が脈動する。
「わたしは…わたしは…」次の言葉が出てこない。確かに、わたしはジンに恋する乙女…それは単なる「設定」だった筈なのに…

本気になっちゃった?

「行こうか?」とジンに促される。
船は港に着いていた。ジンとともに甲板に出ると、桟橋に向かってタラップが下ろされていた。
「たまには揺れないベッドで寝かせてあげたいんだ♪」

港街をジンにエスコートされてゆく。初めてジンの船の乗組員以外の目に、今の自分の姿が晒されている。
「どこか変?」好奇の視線にジンに尋ねた。
「皆が見ているのは、君が美しいからさ。それに僕との美男美女のカップルなんて、滅多に見られるモノじゃないからね♪」

確かに好奇の視線ではあったが、それらは皆好意的なものであった。街にたむろする野郎ばかりではなく、店のカウンターから覗いている女性店員など、男女にかかわらず同じような暖かな視線を送ってきていた。
「宿に向かう前に、ちょっと寄って良いかな?」
「ええ。」と答えると、一軒のブティックに連れ込まれた。
大分慣れてしまった着せ替え人形状態を耐え抜くと、街で多く見かけられたカラフルでゆったりとしたドレスに着替えさせられていた。
「南の島の女性達の正装でもあるんだ。」と、生花が髪に差し込まれた。
「お似合いですよ。」と店員。これをどうぞと、生花のレイを首に掛けてくれた。
ジンも船上の衣装から地元の男性達と同じような格好になっていた。

衣服が街に溶け込んだ所為か、好奇の視線は少なくなったようだ。
それで気が緩んだのか、続いて誘われたレストランで食事とともに飲んだアルコールが早々に廻ってしまっていた。
ジンに抱き抱えられて宿に連れられてきていた。そのままベッドに寝かされる。
「おやすみ♪」とキスされた… そのまま深い眠りに落ちていった。

 

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