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2011年8月11日 (木)

惑星ガルボ(1/4)

カプセルは順調に降下していった。
衛星軌道上の母船からの指示で細かな補正を繰り返しながら、カプセルは所定の着陸ポイントを目指していた。
 

………
 
「緊急事態だ!!」
そう告げられたのが一週間前。惑星ガルボの反陽子炉が暴走し掛けているとの一報が入った。抑制物質が不足しているからと、急きょ輸送隊が編成された。
刻々と状況が判明してくる。ガルボに大規模な流星群が突入してきたのだった。隕石の多くは大気圏で燃え尽きるのだが、今回は大量の燃え残りが反陽子炉周辺に降り注いだらしい。
反陽子炉自体は幾重にも防御されているため、当然のように無傷であった。が、抑制物質の貯蔵庫が直撃を受けてしまった。
抑制物質がなくなれば反陽子炉は制御不能に陥る…事故の直後から反陽子炉の緊急停止シークエンスが実施されているが、如何せん、抑制物質の絶対量が不足していた。
我々が運んできた物があれば、十分に安心できる量が確保できるのだが…宇宙港が利用不能となっていたのだ。
隕石の影響で、滑走路を始め、地表は一律に穴だらけになっていたのだ。着陸を強行しても、運搬手段がない。輸送トラックは整備された道路を走ることが前提となっているのだ。
唯一、俺が担当している六足歩行車のみが、稼働可能とわかった。が、搬送できる量にも限界がある。それに、宇宙港が使えないので、揚陸カプセルに頼らざるを得ない。
ガルボに到着する迄の間、様々なプランが考えだされ、検討された。その間の俺は六足歩行車の整備と揚陸のシュミレーション訓練に没頭していた。

………

 
逆噴射ロケットが点火され、カプセルは地表に降り立った。
宇宙港よりもかなり反陽子炉に近付けて設定された着陸点には誤差なく到達できた。格納庫の扉が開き、斜路が伸びてゆく。俺は六足歩行車を起動した。
俺の眼全に瓦礫の荒野が広がっていた。路面の凹凸は想定を超えるものがあった。が、六足歩行車の障害になるものではない。そもそも「道路」を通る必要さえないのだ。反陽子炉までをほぼ直線で辿ってゆける。
俺は操縦桿を握り、足を踏み出させた。
 
反陽子炉の建屋が目視できた。
これまで六足歩行車は順調に歩みを続けていた。想定したペースをそのまま維持している。周りを見るとあちこちから煙が立ち上っている。ひときわ大きく黒煙を上げているのが、抑制物質の貯蔵庫なのだろう。溢れ出た抑制物質が高温で激しく化学反応を起こしているに違いない。勿体ないが、こればかりは俺にもどうする事もできない。俺は六足歩行車の足を一歩づつ前に進めていった。
「人」の姿があった。
こちらに向かって走って来ている。
「おーい!!」と声が聞こえた。俺は窓から乗り出すように腕を出して振ってやった。
それには彼も気付いたようだ。一旦、手を振るのを止め、行く手を塞ぐ瓦礫の山を乗り越えていった。
「抑制物質か?」男は操縦席の窓枠に貼り付いていた。
「ああ、だが現時点で届けられるのはこれだけの量しかない。こいつで時間を稼いでくれ。宇宙港に母船が降りられれば、補給が効く。」
「ありがたい!!」男の瞳がキラキラと輝いていた。

男の案内もあって、反陽子炉の搬入口までは時間を掛けずに辿り着くことができた。が、そこで立ち往生してしまった。搬入口が瓦礫で塞がっていたのだ。
職員が総出で撤去に励んでいたが、重機が投入できないため、搬入口はいまだ埋まったままとなっていた。
俺は抑制物質を下ろして身軽にした六足歩行車を駆って撤去作業に参加した。後四脚で支持しながら、車体を大きく反らせると前二脚が瓦礫の上部に届いた。
六足歩行車のパワーで瓦礫を蹴り崩してゆくと、人手で行うよりも遥かに短い時間で搬入口が現れる事になった。一旦下ろした積荷を載せ直している間に、職員達が搬入口を開いていた。
六足歩行車の燃料も補給し、搬入口から反陽子炉の奥に向かってゆく。最初に出会った男が案内役として、再び操縦席の窓枠に貼り付いていた。

照明の落ちた通路は暗闇に包まれていた。
外のような瓦礫の山はないものの、そこかしこに備品が散乱していた。
通路は緩やかにカーブしながら、地下に降りてゆく。計器が反陽子炉の力場を捉える。いまだ活動状態は危険域にはあるが、最悪の状態までにはまだ少しの余裕があるようだった。
「もうすぐです」
男の声とともに、前方に明かりが見えた。先行していった職員が設置しておいたのだろう。広く開いた入り口を入ると職員達が待ちかまえていた。
手際よく積荷が下ろされ、抑制物質の投入口に送り込まれてゆく。しばらくすると、力場の状態を表示する計器が動き始めた。
「ありがとうございました。取り敢えずの危機は回避できたようです。」と案内に立った男が頭を下げた。そして…
「よろしければ、お手伝い願えないでしょうか?」
彼の依頼は、炎上する抑制物質貯蔵庫から退避することができた抑制がある。これを六足歩行車で運搬できないか?という事だった。
俺に与えられた任務は宇宙港の早急な復旧作業であった。が、それは現地の要員との共同作業が前提となっている。現地の要員が貯蔵庫に向いている限り、宇宙港には手が付けられない事は明白であった。
俺は彼等からの燃料の補給を受けながら、貯蔵庫と反陽子炉を幾度となく往復した。

反陽子炉の力場が危険域を脱した。
歓声が上がる…

が、その時
地響きと轟音が一緒になって襲ってきた。
「どうした?」
俺が状況を確認しようとした時には、既に皆は慌ただしく動いていた。パニックは起きていない。
炎上していた貯蔵庫で大規模な爆発があったらしい。貯蔵庫では抑制物質を退避すべく、幾人もの職員が頑張っていたのを目にしている。
「彼らは絶望的です。」無機質な声が伝えてきた。もし、彼等に危機が訪れていたとしても、今の俺にできる事が何もないのは事実であった。
「俺がする事はあるか?」と聞く。
「今は待機していてください。そのうち六足歩行車の出番もあります。今はエンジンを切っと燃料の節約を図ってください。」

そして、俺は操縦席で一夜を明かした。寝ずに働き詰めの彼等には悪いとは思うが、できるだけ良いコンディションで六足歩行車を投入する事が俺の使命であり、彼等の為にもなる事なのだ。
シートの中で固まってしまった筋肉を伸びとともに揉み解した。かなりの時間が経過した割りには、操縦席からの眺めは変わっていなかった。

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