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2011年4月29日 (金)

闇からの声

「…タスケテ…」
闇の奥から声がした。
か細い、女の子の声だった。
僕は闇の中を、声のした方に向かって進んでいった。
やがて、薄明の中に少女の姿を認めた。
足を速め、少女に近づく。
「き、君っ!」
僕の声に少女が振り向く…
 
ジリジリジリーン!!

けたたましい目覚まし時計の音に夢から引き戻された。
ここ何日か繰り返される「夢」とその幕切れ。僕は未だ少女の顔さえ見れていない。

「じゃあ、目覚ましを止めておけば良いじゃないのか?」
親友の大樹はそう言うが
「目覚ましが鳴らなければ、母さんが起こしに来るしな。」
そう言う僕に
「なら、俺ん家に泊まらないか?明日は休みだから、好きなだけ寝かせてやれるぜ♪」
急にそう言われても…と遠慮する気持ちよりも「彼女の顔を見てみたい」という欲求が勝った。

そして…
 

 
「…タスケテ…」
闇の奥から声がした。
僕は闇の中を、声のした方に向かって進んでゆく。薄明の中に少女の姿を認め、足を速める。
「き、君っ!」
僕の声に少女が振り向く…

グラリ!!

突然に眩暈に襲われる。
「大丈夫か?」
次に聞こえたのは男の声だった。
「って、大丈夫な訳はないか。先ずは助けてくれてありがとうと言っておこうか?」
「助ける?」
そう言って、僕は猛烈な違和感に襲われた。
僕は女の子の「助けて」と言う声に導かれてきたのだ。が、「助かった」と言ったのは、目の前に立っている男…僕は地面に半身を起こしただけの状態で、彼を見上げている。
まるで、女の子と僕の位置関係が替わったみたい…

それだけではない。
良く見ると、男が着ているのは昼間に僕が着ていた服と同じ。そして僕が着ているのは、女の子が着ていた何の飾りもない白いワンピース?

「悪く思うな。不用意にノコノコ助けに来たお前自身の問題なのだよ。今度はお前が助けを呼ぶ番だな。」
男はニッと卑しい笑みを浮かべた。
「さっきまでの俺と同じように、ノコノコやってくる阿呆を待ってな♪」
「ど、どう言う事だ?」
僕の声はか細い女の子の声になっていた。
「闇に捕らわれたのさ。脱出するには、その存在をすり替える以外にない。」

「そう言うお前は何者なんだ?」
新たな声が割って入った。
「大樹?」
声のした方を見ると、僕にベッドを貸してくれた大樹が、何故かそこに立っていた。
「お前が智でない事は明白だ。そして、そっちの女の子が智なのだろう?」
「邪魔をするな!!」
僕の服を着た男が吠えた。
「俺はその邪魔をしに来たんだ。智は返してもらうよ。」
「存在をすり替えた今、それが可能だとでも思ってるのか?」
「じゃあ、何故即にでもココから出ていかない♪まだ完全ではないと見たが?」
「う、五月蠅!!」
大樹が睨み付けると、男はそこから動けなくなったようだ。

「今のうちだ。智、立てるか?」
僕は差し出された大樹の腕に掴まり立ち上がった。僕がこの身体に馴染んでいない所為か、足元がふらつく。
「先ずは、ここを離れるんだ。奴や闇の近くにいると何かと影響を受け易くなる。」
「ああ…」
僕は大樹に縋るようにして歩き始めた。ただでさえまともに立てないのに、足にハイヒールが履かされていた。
「悪いな…」
と大樹に謝る。
「それは、ちゃんと起きてから言って欲しいな♪」
「そうか。これは僕の夢の中だったっけ。じゃあ、何故大樹はここに居れるんだい?」
「そ、それは…起きたら説明してやるよ。」
と大樹は言葉を濁した。
「ここまで来れば大丈夫だろう。俺は一旦抜けるからな。目覚ましが鳴ったら、ちゃんと目覚めるんだぞ♪」

フッ、と大樹の姿が消えた。
僕は一人、僕の夢の中に残されていた…

 

ジリジリジリーン!!

けたたましい目覚まし時計の音に夢から引き戻された。

「お早う♪トモ。」
爽やかな大樹の声。
「トモ?何だよそれ。」
ボクが聞き返す。
「良いじゃないか。俺達がハジメテ一夜を過ごしたんだ。」
「何かその言い方、淫らしくない?」
「じゃあ、何て呼ばれたいんだ?」
「何って…」

(あれ?)
ボクは自分の名前が即に出て来なかった。
「智」という字だけは思い浮かぶ。「智子」「智美」「智香」…
(何だったっけ?)
「…トモ。で良いよ…」
大樹にはそれだけ言った。

ボクの頭の中が洗濯機のドラムのようにぐるぐる回っている。その中に見た事のある映像の断片が見えた。
小さな頃、男の子のような格好で大樹と遊びまわっていた。
パパ、ママ…あたしが並んで写真に写っている。
中学のセーラー服
高校のブレザー
そう言えば、それ以外でスカートを穿いた記憶がない。
けれど、昨日のあたしは見た事のない白いワンピースを着ていた?

「トモ。無理に思い出そうとしなくて良い。」
大樹がギュッとあたしを抱き締めた。
そうだ。昨夜あたしはこの逞しい腕に抱かれて眠ったのだ…あたし達が「親友」から「恋人」になる為に…
「愛してるよ♪」
大樹が耳元で囁く。

(?)
どこか遠くから大樹とは違う、男の声がした。
[オ~イ、タスケテクレ~]
「何か聞こえた?」
あたしが大樹に聞くと、
「空耳だよ♪気にすることはないさ。」
そう言って、あたしの唇に接吻した。
「うん♪」
あたしはその空耳が、記憶を辿ろうとした為のものだと思った。
だったら、あたしは何もしない方が良い。全てを大樹に任せるのだ。
そして、あたしは大樹の与えてくれる快感の渦に呑み込まれていくのだった。

 

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