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2011年3月19日 (土)

エンドレス(後)

「姉ちゃん。ケーサツには寄らなくて良いのかい?」
タクシーの運転手は慣れているのか、動じる事なく俺を乗せてくれた。
「余計な事はするな。」
俺がそう言うと、黙ったたた車を走らせてくれた。

俺は家の1ブロック先まで通り越してからタクシーを降りた。
ブカブカの靴を引き擦るようにして家に戻った。ズボンのポケットから鍵を出し、ドアを開けて家の中に転がり込んだ。

(さあ、どうする?)
俺はブカブカの服のまま、寝室のクローゼットにある鏡の前に立った。
(お前は何者だ?)
鏡の中に再び現れた女に俺は問い掛けた。
(俺はお前を殺した筈だ。なのに、何でここにいる?)
「死んでなんかいないわ。ほら、ちゃんと息をしてるでしょ?」
(俺は、お前を殺したんだ…)
「あたしは生きている…でも、貴方はどう?存在していると言えるのかしら♪」
(俺は、俺は…)

確かに「俺」という存在を示すものは何もなかった。鏡の中の女が俺自身だと言って、誰が信じるだろうか?
仮に信じさせる事ができたとしても、その時点で俺が女を殺した事実は明らかとなる。
ならば、俺はこの女に成り代わるしかない…

…俺にできるのだろうか?…

 

俺はクローゼットから女の服を取り出した。
ブカブカの服を脱ぎ、下着を身に着ける。下半身をピタリと被うショーツには心もとない気がした。ブラジャーのカップにピタリとバストが填まると、何か落ち着いた気がする。
服はどれもこの肉体本人のものなので、サイズが合わないという事はなかった。
紫色のパンストを穿き、ワンピースを着込んだ。女が良く選んでいたコーディネートだ。
もう一度鏡を見て、化粧をしなければならない事に気付いた。机の上に女の持っていた化粧品を並べ、小さな鏡を立てて女がやっていた手順を思いだしながら顔を描いていった。
耳にピアスを填め、ネックレスを着けると、いつもの「女」がそこにいた。

既に時刻は正午をまわっていた。
これから昼飯を作る気力もなかったので、外食で済ませる事にした。女のバックに財布や鍵を入れ、女の靴を履いて外にでた。

街を歩く…
誰も俺が男だとは気付かない。まあ、姿は女そのものだし、声も同様に変化している。言動さえ気を付ければ、不審に思う人などいる筈もない。
喫茶店でパスタとコーヒーを頼んだ。
マスターが「?」とした顔をした。女はこの店では紅茶を頼んでいたのを思い出した。
実際、舌も女のモノになっているのか、コーヒーもいつも程美味しくは感じられなかった。
パスタはいつもの調子で大盛りを頼む所だった。しかし、普通盛りでも女の胃は即に満腹になってしまった。

 

夜になり、女の携帯が鳴った。
「もしもし?」
俺は咄嗟に出てしまった事を後悔することになる。
「俺だ。あいつはいなくなったのだろう?」
「あいつ」とは多分「俺」の事だ…
「これからお前の所に行く。待ってろ。」
そう言って奴は一方的に電話を切った。

何がどうなっているのかわからず、混乱しているうちに奴が入ってきていた。
「奴はいなくなったんだな?なら、心おきなくヤれるぜ♪」
と奴は俺を抱き締めると、ディープキスに移行した。
俺は、何の抵抗もできずに抱き締められ、口を塞がれ、酸素不足で頭がボーッとなっていた。
気がつくと、俺はお姫様だっこで抱えられ、寝室に向かっていた。いつの間にか服が脱がされ、下着姿にされていた。
ベッドの上に降ろされる。
俺が幾度となく女を抱き、イかせ続けたベッドだ。その俺が、今は男に抱かれてそこに居るのだ。
「あん、ああん♪」
女の反応を俺は抑えることができなかった。奴は的確に女の性感帯を刺激していった。
「今日はいつにも増して反応が良いんじゃないか?」
奴に言われるまでもなく、俺はちょっとの刺激だけでも盛大に悶えてしまう。俺の知る女の反応の比ではない。
だが、それは当然とも言える。女は幾度となくこの刺激に晒されてきたのだ。程度の差こそあれ、慣れてくるものだ。しかし「俺」にそんな経験がある筈もない。すっかり開発された「女」の快感に晒されてはどうこうする事などできる由もない。
俺は「処女」のように奴に翻弄されていた…

 
その晩、俺は幾度となく「女」としてイッてしまった。
昇天し、気を失った俺が目を開いた時、奴の姿はどこにもなかった。既に陽は昇っていた。
起き上がり、シャワーを浴びていると、俺の膣から奴の精液が垂れていた。
俺は「女」になってしまった事を今更のように実感していた。

 

 

その後も奴は現れては俺を抱いていった。
皮を外して元の俺に戻ることができないと納得し、「女」でいる事を受け入れた俺は、奴に抱かれる事に真剣になっていった。
俺に生理が来たことも一つのきっかけだった。つまり、俺は子供を産めるということ
…そして、その子の父親として、奴が適任であるか?

俺は奴を愛している訳ではなかった。皮となった女が、俺ではなく奴を愛していた可能性はあるが、今の俺は奴を愛す事などできない。
奴に抱かれる事に真剣になればなるほど、奴が与えられる快感に物足りなさを感じてしまう。
それより…

俺は奴に隠れて、別の男と密会していた。
スナックで出会い、意気投合し、その足でホテルのベッドに向かっていた。
彼との相性は抜群だった。
幾度となく密会を繰り返すうち、俺は彼を愛するようになっていた。彼との愛が深まると、逆に奴との関係がドンドン冷めたものになっていった。

そして、破局が訪れた。
その夜、些細な事で奴と口論になってしまった。
奴が激情する。
胸元を掴まれ、幾度となく頬が叩かれた。
痛みに何もわからなくなっていった。
気が付くと、奴の手が俺の首を締めていた。
意識が遠くなる。
絶頂で昇天するのとはぜんぜん違う。
(俺は死ぬのか?)
そう思ったとき、奴の姿がかつての俺に重なった。

(今度はお前の番かもな♪)

俺は死の間際だというのに、微笑みを浮かべていた…

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