« ふたりの夜 | トップページ | 告知 »

2011年1月21日 (金)

セミナー

~自分を替えてみよう~新しい貴方を見つけるためのセミナー
そんな謳い文句で、安くはない参加費を払ってきたのだ。

最初は広いフロアで準備体操のストレッチを行った。
午前中は、何かに成りきる訓練が続いた。
「石になってみよう。」
講師が指示する。
「丸く、硬くなって、風の音を聞いてみましょう。」
セミナーの参加者は一様に床の上に座り、体を丸くした。

「さぁ、次は木です。立ってみてください。」
皆が立ち上がる。
「梅や桜の木をイメージしましょう。今は冬です。葉は落ちてしまっています。」
参加者の列の間を巡りながら講師が暗示を掛けるように語り続ける。
「今は石と変わりません。貴方は風の音だけを聞いています。」
僕は「石」になっていた時の事を思い出していた。
確かに風の音が聞こえていた。それと同じに「木」となった今も風の音が聞こえてきた。
「季節は冬です。風はどんどん冷たくなっていきます。石の時には感じなかったでしょうが、今の貴方は生き物です。次第に寒さを感じていきます。」
僕は寒さを感じ、ぶるりと身震いしようとして、今の自分が「木」であることを思い出した。
木は身震いなんかしない。寒さもそのまま受け入れるしかないのだ。
「風だけではありません。冬には雪も降ります。」
僕は木となった自分が雪に埋もれてゆくのをイメージしていた。
「しかし、冬は長くは続きません。やがて、暖かくなり春を迎えます。」
雪が解けてゆくイメージとともに、体が暖かくなってゆくのを感じていた。
「さぁ、春です。皆さん、花を咲かせましょう。」
僕は体中に花が咲いてゆくのを感じていた。
柔らかな風が芳香を運んでくる。
僕は幸せな気持ちで満たされていった。

 
午後は個室に移されていった。
モニタが設置されていて、講師が画面越しに指示を出してゆく。
ワンルームマンションのような造りの部屋には様々な制服が揃えられており、講師の指示で様々な職業の人物に成りきっていた。

「さぁ、セミナーも佳境に入っていきます。」
講師の口調が改まった。
「目の前にもう一人の貴方をイメージしてください。しかし、そのままでは貴方が二人いる事になってしますので、貴方は別の人物になってもらいます。それは、貴方のお父さん、父親です。備え付けの衣装で貴方のイメージする父親になってみてください。」
僕は考えてみた。
お父さんってどんな格好をしていたっけ?仕事に出かけるときのスーツ姿のお父さん。休みの日にゴルフに行く時の格好。そして、家でくつろいでいる姿…
「準備はできましたか?」
と、講師が聞いてくる。
僕はお父さんになって、もう一人の「僕」の前に立っていた。
「では、目の前の息子に声を掛けてみてください。今の貴方は貴方の父親です。お父さんは貴方に何と言いますか?」
僕は「僕」に向かって言った。

「何時までもフラフラしているんだ?履歴書に家事手伝いとでも書くのか?」
「僕」が僕も睨め付ける。
僕はこんな眼でお父さんを見ていたのだろうか?
「な、何か文句あるのか?」
僕は「僕」に言う。
「少しは男らしい所を見せたらどうなんだ?」
「僕」はプイと視線を逸らしていた…

 
「次は、貴方は母親になります。着替えてみて下さい。」
僕は目の前で丸くなっている「僕」をそのままに、母さんになるべく、次の衣装を選んでいた。
「少しお化粧もしましょうか?」
鏡台の前に口紅やファンデーションが用意されていた。
パーマを書けた長い髪のカツラを付けて鏡の前に立った。
同じ染色体を受け継いでいるのか、僕の顔には若い頃の母さんの面影があった。
クリームを塗り肌を白くして、口紅を塗ると、そのまま若い頃の母さんのイメージそのままだった。
「では、目の前の息子に声を掛けてみてください。今の貴方は貴方の母親です。今度は、貴方がお母さんに掛けてもらいたい言葉を掛けてあげて下さい。」
(…??…)
僕は目の前の「僕」に向かって何か言おうとした。が、目の前の「僕」がどんどん霞んでゆく。
透けるように向こう側の壁や床が見えたかと思うと、フッと消えてしまった。
「どうしちゃったの?」
僕は自分が母さんになったまま「僕」を探した。

 
カチャリ
とドアが開いた。
そこには見知らぬ男性(?)が立っていた。
「ここからはパートナーの方に手伝ってもらう事になります。」
講師の声がした。
「貴方の目の前にいるのは、貴方自身だと思って下さい。貴方は貴方のパートナーとなります。配偶者や恋人。様々なパターンがありますが、貴方は貴方自身のパートナーです。」
講師の話しからすれば、目の前の男もセミナーの参加者の一人なのだろう。僕と同じように自分の反対の性役割の格好をしている。
「イメージが違ったら着替えても構いません。これから暫くは貴方自身のパートナーに成りきってもらう事になります。」

僕は鏡を見た。
鏡に映る女性が僕のパートナーなのだ。
実際には僕にはパートナーと言える女性は存在しない。だから、鏡の中の女性に僕の理想を重ね合わせる。
(もう少し可愛い系のお化粧が良いかな?髪の毛にはリボンかカチューシャをした方が可愛く見えるな♪)
ドアの前に立っている「僕」には少し待ってもらった。
クローゼットから可愛らしいワンピースを持ってきた。胸ももう少しボリュームが欲しいと、大きめのブラジャーに詰め物をしてみた。パンストよりは生足にニーソックスが良いね。この絶対領域に眼を向けない男の子はいない筈だ。
「僕」の前だと言うのに、僕は下着姿でコーディネートを考えていった。
ベッドの上に着るべき服が並んだ。
(完璧だね♪)
と満足したが、その先に困難が待っていた。
先ず、ワンピースが着れない。背中のファスナーを上げる事が出来ないのだ。
見かねた「彼」が手伝ってくれた。
「お化粧もやってあげようか?」
とまで言ってくれた。
確かに、鏡の中の僕は僕のイメージとはほど遠い出来ばえであった。
「彼」はテキパキと僕の顔に化粧を施していった。
鏡の中には、僕の想像以上に可愛い娘が映っていた。

「皆さん、準備は出来たでしょうか?」
思い出したかのように講師の声が届いた。
「それでは、元男性の皆さん。これから暫くは貴女方の時間です。先ずは、これまで貴女がパートナーの女性にさせていた事を、貴女自身でやってみてください。勿論、目の前の男性はこれまでの貴女自身です。さて、女性の貴女は何をやらされていましたか?この部屋は充分に防音されています。プライバシーも確保されていますから、肉体的に危害を加えない限り、何をしても構いませんよ♪」
僕は「僕」を見返した。
「僕」が頷き、僕が何かをする事を促した。
僕には実際には付き合っている女の子などいない。もしいたら…と考えてみる。
目に付いたのはキッチンだった。
(そうだ、何か料理を作ってもらえると嬉しいな♪)
僕は「僕」にそう言われた女の子になりきって、キッチンに向かった。
冷蔵庫を開けるとそこには様々な食材が詰まっていた。
「何か作ってくれるのかい?」
と「僕」が声を掛けてきた。
「貴方はそっちでテレビでも見ていて頂戴ね♪」
「それでも良いけど、料理を始めるなら、エプロンを着けた方が良くはないか?」
「っあ!!」
僕は慌てて近くの棚に掛けられていたエプロンを手に取った。
が、ここでも慣れていないので、後ろ手で紐が結べない。ワンピースの時と同じに彼が結んでくれた。

「僕はレトルトでも構わないよ♪」
冷蔵庫の前で固まっていた僕に彼が助け船を出してくれた。
普通の女の子なら、料理の一つくらいは出来ても良いものだが、僕はこれまで料理などしたこともなかったのだ。食材があっても、どれをどう調理すれば良いかわからない。それ以上に、包丁ひとつまともに扱えない筈である。
レトルトなら、電子レンジでチンすれば誰にでもできるのだ。
適当に選んで、箱に書いてあった時間をセットしてスイッチを入れた。
出来上がるまでに少し時間があるので、コーヒーを淹れた…とは言っても、お湯を沸かし、インスタントのコーヒーに注いだだけだったが…
「ありがとう♪」
彼がそう言ってカップを受け取ってくれたので、何だか幸せな気持ちで一杯になっていた。

電子レンジがチンと音をたてて、料理が出来上がった事を知らせてきた。
僕はテーブルに料理を並べ、彼と向かい合って座った。
「美味しいよ♪」
と言ってくれただけで、もうお腹が満腹になってしまったような気がした。

 

「次は元女性の方の時間となります。」
食事を終えて二人でテレビを見ていると、講師からのメッセージが届いた。
「隣にいる女性は、これまでの貴方自身です。これまで貴方がパートナーの男性からしてもらいたくてもなかなかしてもらえなかった事を、目の前の貴女自身にしてあげて下さい。先程も言ったように、その部屋のプライバシーは守られています。さぁ、もう夜も遅くなってきました。眠りに就くまでの間に、思い残す事のないようにしてみてください♪」
講師の言葉に僕達は顔を見合わせていた。

「そうだよね。一晩を過ごすって事はそういう事なんだ。」
彼は何かを納得したかのように首を振っていた。
「どういう事?」
と僕が聞くと、
「大丈夫。僕に任せておいてくれないか?きっと素晴らしい体験ができるよ♪」
そう言うなり、彼は僕を抱え上げた。俗に言うお姫様だっこだ。
僕は彼の言う通り、全てを彼に任せる事にして、大人しく運ばれていった。

ポンッと落とされたのはベッドの上だった。
「まだ、夜は始まったばかりだよ。」
彼顔が近付いてくる。
反射的に僕は瞼を閉じていた。
彼の唇が僕の唇に触れる。
口の中の酸素が吸い出され、頭の中がボーッとしてきた。
舌が割り込んでくる。
僕の舌と絡まり、二人の唾液が混ざりあう。
彼は僕のパートナー=恋人なのだ。これは極自然な行為なのだ。
そして、僕はこの行為に快感を覚える…

背中のファスナーが降ろされていった。
彼の手が背中から入り込み、僕の身体を抱き締めてくれた。
ワンピースが脱がされていた。ブラの上から彼の掌が僕の胸を揉みあげてゆく。
「んあん、ああん♪」
僕は無意識のうちにオンナの喘ぎ声をあげていた。
「そうだ、どんどん気持ちよくしてあげるね♪」
彼の手が、僕の知らない性感帯を次々と刺激していった。
僕は淫らに悶え、嬌声をあげる。
「あん、ああ~~~ん!!」
僕は快感に流されていった…

 

僕は全裸になっていた。
彼もまた裸になっている。
僕の股間が広げられ、彼がそこに割り込んでこようとしていた。
彼の股間には立派なペニスがそそり立っていた。
それが、造り物である事などどうでも良い。
僕は今、彼のペニスに貫かれようとしているのだ。
恋人であれば当然の行為…僕はソレを望んでさえいた。
(ぁあ、早くキて♪)
僕は誘うように腰を振っていた。
「じゃあ、いくよ。」
と彼の声がし、彼のペニスが僕の中に入ってきた。

痛みはない。
快感だけが膨らんでゆく。
僕の肉洞は彼のペニスで満たされ、僕の心は愛で満たされていった。
僕は快感だけを享受しつづけていった。
それ以外に何もない。
幸せの中で僕の意識は薄れていった。

 

「さぁ、朝です。セミナーはこれにて終了となります。貴方は変われましたか?」
講師の声に目覚めの時が来た事を知った。
「元の姿に戻るも戻らないも貴方次第です。」
ボクはベッドの隣で目覚めを迎えた彼を見つめていた。
「どうする?」
と彼…
「このままで…」

 

 

 
セミナー会場の外ではレポーターが参加者のコメントを集めていた。
「セミナーはいかがでしたか?」
腕を組んで現れたカップルに向かってマイクを差し出した。
「はい、すごく良かったです。」
と女の子。
「どこが変わりましたか?」
「もう、全部が変わっちゃいました。昨日までの自分はもうどこにもいません。」
とにこやかに応対する女性に、男性が優しく声を掛けた。
「本当に後悔していない?」
「大丈夫よ♪」
そう言って二人は街の雑踏の中に消えていった。

« ふたりの夜 | トップページ | 告知 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: セミナー:

« ふたりの夜 | トップページ | 告知 »

無料ブログはココログ