« 「俺」という存在(5/5) | トップページ | 「俺」という存在(3/5) »

2010年10月 1日 (金)

「俺」という存在(4/5)

 
目覚めた時、俺は全裸で布団にくるまっていた。
「記憶」だけが甦ってくる。
それは「俺」がシた事ではないが、実際に昨夜の俺自身がその行為を行っていたのだ。

記憶を辿るように、俺は手を股間に伸ばしていった。
その指先は「男」のシンボルに触れる事はなかった。そこに存在したのは、縦に刻まれた深い溝…その先に「女」の証があった。
その中に指を滑り込ませる。
「あ、ああん♪」
俺のあげた艶声は、昨夜と同じ淫らな「女」の声だった。

もう一方の手を胸に充てる。豊かに張り出した胸の先端では、乳首が硬く尖っていた。
昨夜と同じように乳房を揉みあげ、乳首を弄んだ。
「あん、ああん。ああああ~ん♪」
俺が淫声をあげると、更に快感が高まってゆく。クチュクチュと股間からは淫汁が溢れてきた。
膣に挿入する指を、2本3本と増やしてゆく。昨夜と同じ刺激が肉体を貫いてゆく。
「あん♪あ、あ~~~ん!!」
イけそうな気がした。
昨夜と同じように、俺は「男」に抱かれている自分を想像した。
「あん♪ソコ…い、良い…。イクの。イッちゃう~!!」

 

それは借り物の記憶ではなかった。
もう一人の自分が…という言い訳もできない。今のは、本当の「俺」の意思で行った結果なのだ。

俺は「女」である事を受け入れ、「女」としてイッたのだ。
俺はもう「男」ではない。

再び胸に手を充てる。
これは俺の肉体なのだ。
揉みあげる度に安らぎを覚える…

 

俺はもう一度鏡を見て、お化粧の仕上がりを確認した。俺のではない俺の記憶に従い、描き込んだ目元や眉毛も満足できるものだった。
まとめた荷物を手に部屋を出る。「俺」の最後の旅行が終わるのだ…いや、俺の中にはもう「俺」は存在していない。これは「あたし」の最初の旅行となったのだ。
頭の中では、まだ「俺」と言っているが、実際に喋る時はもう「あたし」と言っている。女言葉も自然に出てくる。
旅行の間に買った服で膨れ上がった荷物は、宅配便に預けてハンドバックとおみやげの紙袋だけをもって旅館を後にした。

都会に戻ってくると、その足で会社に向かった。女装した姿を知っているのは賀茂医師と部長だけなので、同僚達には顔を合わせないようにして医務室に直行した。

「何か変わったわね。」
賀茂医師は即に違いが判ったようだ。
「ええ、身体はもうほとんど女性です。」
「お化粧もばっちりだし、その服も貴女に似合っているわ。でも、良くその姿で入ってこれたわね。」
「以前いただいた加藤郁美の社員証で、すんなり通してもらえました。」
「良かったら診せてもらえないかしら?」
と、賀茂医師は俺の服を脱がせ、診察台の上き上がらせた。彼女はじっくりと俺の身体の変化を確認していった。

「本当。見た目は完全に女性化しているわね。もう一つの人格の出現頻度とかに変わったところはなかった?」
「旅行中は結構頻繁に現れていましたが…」
俺は旅行中の状況をかいつまんで説明した。
「もしかして、人格の統合が行われてしまったんじゃないかしら?」

 

 
賀茂医師の診たては、後日入院した病院で裏付けされた。
二ヶ月を経ずして、俺は「死ぬ」事になった。

「俺」の葬儀が行われる日。俺は初めての生理を経験した。
事前に病院で教えられた通りにタンポンを挿入してから、俺は喪服=黒のワンピースを着て葬儀会場に向った。
それは俺自身の葬儀である。俺は祀られている本人ではある。が、表面上は赤の他人だ。
応援に駆り出された同僚達が並ぶ受付で香典を渡すと、他の一般客に紛れて焼香をした。

からっぽの棺を乗せた霊柩車が火葬場に向かっていった。
俺は、それを見送ることしかできなかった。
「俺」は死んだのだった。

 

「大丈夫ですか?」
声を掛けてきたのは、同僚の相良順子だった。
大丈夫かと声を掛けられて、ようやく自分がボロボロと涙をこぼしている事に気付いた。
「良かったら奥で休みませんか?」
と俺を誘ってくれた。肩を抱かれ、控え室に連れてこられた。
畳の上に上がる。
「お茶を入れますね♪」
俺はボーっと彼女の行為を眺めていた。
ちゃぶ台の上に湯飲みが置かれた。俺の向かい側に順子が座った。

しばらくの沈黙が続く。
その間も、順子はじっと俺の顔を見つめていた。
そして…
「貴女、加藤さんなんでしょう?」
と聞かれた。
俺はどう答えて良いか解らなかった。
「心配しないで良いわよ。あたしも昔、この病気で死んだ事になったことがあるの。あたしの昔の名前は相良順也だったわ。」
「貴女…も…なの?」
「やっぱり加藤さんなのね♪以前から女装させたら綺麗なのになぁと思ってたの。予想以上の美人になったわね♪」
「そ、そんな事ないわよ。たまたまお化粧の具合が良かっただけよ♪」
「そう、それ。笑っている貴女は凄く素敵だわ。」
俺は彼女につられ、笑みを浮かべていた。
「今日、貴女が泣く理由なんて何もないのよ。貴女自身はこうやって、ちゃんと生きているわ。彼は貴女の親・兄弟でもないし、ましてや恋人や旦那様でもないのでしょう?」
「旦那様?!!」
「いずれ、貴女も男性と恋をして、結婚し、子供を産んで、素敵な家庭を築いてゆくのでしょう?」
「ま、待ってよ。あたしはまだ男の人となんて…ましてや結婚なんか…」
「でも、赤ちゃんは産める身体なんでしょう?そうでないと退院はできない筈だからね♪」
俺は下腹部に手を当てた。そこには子宮があり卵巣があるのだ。今、膣に入れているタンポンが経血を吸っている…生理…それは、俺の身体がいつでも子供を産めるよう、準備ができていると言う事なのだ。
「ね♪良い男を見つけましょう。うちの同僚で良ければ見繕って紹介してあげるわよ。って、彼等の事は貴女の方が良く知ってるのよね?」
ハハハと笑う順子につられ、再び俺も声をあげて笑っていた。

 

 

俺は再び会社の制服を着て、同僚達の前に立っていた。
隣には部長がいる。
「亡くなった加藤君の後任として彼女に来てもらった。」
「加藤郁美です。慣れない所もありますが、これからもよろしくお願いします。」
挨拶が終わり解散すると、俺は久しぶりに自分の机に座った。
「どう?座り心地は。」
順子が声を掛けてきた。
「まあ、これからね♪」
「今夜は女の子達だけで歓迎会を開くから、時間空けといてね♪」
と言う彼女の提案に、
「それはないよ、相良ちゃん。加藤さんは俺達が誘おうと思ってたのに~。」
「だ~め。それに、郁美はまだ男性に免疫がないのよ。しばらくは彼女一人だけで誘わないでね。あたしか、他の女の子を一緒に誘うこと。良いわねっ!!」
順子の勢いには誰も抗せないようだ。
「そう言う訳だ。またの機会にたのむ。」
その夜の俺は女の子達に囲まれる事になった。

 

« 「俺」という存在(5/5) | トップページ | 「俺」という存在(3/5) »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「俺」という存在(4/5):

« 「俺」という存在(5/5) | トップページ | 「俺」という存在(3/5) »

無料ブログはココログ