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2010年9月 4日 (土)

兄弟

「一弘君を僕にください。」
親友の桂大基は、俺の家に上がり込むなり、親父に向かってそう言い放った。
一弘とは、俺の弟であり、当然「男」なのだが、どこでどう間違ったのか四六時中、女の子の格好をしているのだ。
大基の斜め後ろで神妙に正座して成り行きを見守っている女の子が、我が弟の一弘だった。
知らない人が見れば、ありきたりの「娘さんをください」の現場である。勿論、大基も親父も「それ」を前提としたこの一場面であった。
が、弟はあくまでも「男」であり、現在の法律では正式に結婚する事はできない。
それを二人が解っているかは甚だ疑問が残っている…

「解った。」
と親父がぼそりと言う。
「だが、一弘はまだ未成年だ。成人する迄待つ事が前提だ。」
俺は親父の隣で、開けた口を塞げなかった。
「も、勿論です。」と大基。そして、後ろを振り向くと…
「カズちゃん。お許しが出たぞ♪」
その視線の先にいる我が弟は、目にうれし涙を浮かべていた。

「父さん、良いのかよ?」
俺が声を掛けると、
「もう、諦めたんだよ。いや、お前の時に覚悟しておくべきだったんだ。」
「お、俺の方に振られる訳?」
「このご時世、何があっても逆らわない方が良いとは思わないか?お前も覚悟を決めて、結婚を考えた方が良いぞ。お前は一弘とは違い、ちゃんと子供を産める身体なんだから。」
「俺の事は放っておいてくれ!!」
俺は席を立つと二階の自室に向かった。

 

ベッドに横になる。
俺の部屋…
ごく普通の男子大学生の部屋である。が、去年まではカレンダーの貼ってある壁にはセーラー服がぶら下がっていたのだ。

三年前…
俺は流行り病で入院を余儀なくされた。そして、家に戻った時…
俺の部屋にはピンク色のカーテンが掛かり、ベッドにはクマのぬいぐるみ、クローゼットにはヒラヒラしたワンピースやスカートが納められていた。

俺の罹った病はTS熱という奴だった。若い男性に発症し、高熱を発した後、一晩で肉体を女性化させてしまうというものだ。
病院に隔離されていた一ヶ月の間に、部屋の模様替えが行われ、学校からは女子の制服であるセーラー服が届けられていた。
退院したといっても、俺の自意識は「男」のままである。「女の子」として生活する事にはとことん抵抗した。
何とか自分の部屋は元の姿を回復し、男物のズボンやシャツも手に入れた。しかし、学校に通う時には「セーラー服を着用する」事だけは呑まざるを得なかったのだ。
しかし、それも高校を卒業するまで。今の俺は完璧に「男」を取り戻していた。

 
そんな俺に「子供を産め」等と言われると、自分の肉体はまだ「女」のままである事を思い知らされるのだ。
TS熱は男から女に変わるだけで逆のパターンは存在しない。罹患者は戸籍の性別も変更され、女として生きてゆく事になるのだ。

 
「結婚…か…」
俺は呟いてみる。
今まで、考えてみた事がなかった訳ではない。いや、考えてしまったからこそ、その考えを振り切る為に、俺は「男」であり続けようとしたのだ。

ウェディングドレスを着た俺…
その隣に立っていたのは大基だった。

親友に対してそんな想いを抱いてしまった事に罪悪感を感じてしまったのだった。
しかし、一弘は簡単にその障壁を乗り越えてしまったようだ。

以前からちょくちょく家に遊びに来ていたので、元々知らない仲ではなかった。
丁度、一弘の高校入試の勉強を手伝ってやっていた時期に俺が入院する事になってしまい、代わりを大基に頼んだのだ。
その一ヶ月の間に、一弘が大基に恋したようだ。

一弘は高校に入学した後も、大基と付き合っていた。自分としてはデートの気分でいるのだが、見た目は男同士である。
一弘は俺のクローゼットに眠っていたワンピースやスカートに目を付けた。女物の服に関心のない俺が、クローゼットから数着なくなったとしても気づく筈もなかった。

やがて、女装して大基とデートしている事が明るみに出ると、一弘は開き直り、家の中でも女装するようになった。
俺とは逆に、学校では詰め襟を着るが、それ以外は女の格好で押し通した。
「何でお兄ちゃんは良くてアタシは駄目なの?」
そう言われると、誰も反論できなくなってしまうのだ。

果ては、卒業式に俺のセーラー服を着て出席してしまった。卒業写真には女生徒に混じって写ってきたそうだ。

 

高校を卒業したその足で、大基とともに家に帰ってきて「娘さんをください」状態になっていたのだ。
居間では大基と親父が酒を酌み交わしているのだろう。笑い声が響いてくる…

トントンとドアがノックされた。
「お兄ちゃん、良い?」
一弘だった。
「ん?開いてるよ。」と言って俺はベッドから起き上がった。
「お兄ちゃん…」
一弘が床に正座し、深々と頭を下げた。
「お兄…お姉ちゃん。ごめんね。大基さんを奪うような形になってしまって。でも、あたしには大基さん以外のヒトは考えられなかったの。ごめんなさい…」
俺は小さく蹲る弟=妹を見ていた。
「別に良いよ。謝る必要なんてないんだ。俺と大基は単なる親友…それだけだよ♪」
「お、お姉ちゃん…」
一弘が顔を上げる。

俺の…わたしの可愛い妹…

「大丈夫。大丈夫だから。先に下に降りていて。すぐに行くから♪」
一弘が出ていった後、わたしはクローゼットの扉を開き、奥から大切に仕舞っておいた、ライトグリーンのワンピースを取り出した…

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