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2010年9月 4日 (土)

ザ・パワードスーツ(装甲強化服)

「これが、新たに開発した[軽量化装甲強化服]だ。」
と目の前に出された黒いモノは、中世の鎧の方が何百倍も強固に見える代物であった。
「君にはいつも通りにコイツを試験・評価してもらいたい。」
これが「仕事」でなければ、俺はこの場から逃げだしていただろう。
「どう見ても、[全身タイツ]にしか見えませんよ!!」
「そこが[新開発]の目玉なんだ。この全身を被うカーボン・ナノチューブに電磁溶液を流し込み、磁界をコントロールする事で、鋼鉄の一億倍の強度を生み出す事ができるんだ。更に筋電位を検知して、強力なスプリングのように、筋動作を補助してくれるんだ。」
どうだ、優れ物だろう♪と自慢気に全身タイツにしか見えないモノを高々と差し上げていた。

まあ、俺には拒否権がない事には違いないのだ。出されたモノを着用し、評価するしかないのである。
「わかりました。やってみましょう。」
俺は新型の装甲強化服を受け取り、早速着て…
「待った、待った。こいつはデリケートなんだ。服は勿論、下着も脱いでから着てもらわなくちゃ!!できれば、体毛も全部剃りあげてもらえると、100%の効果が期待できるんだがね♪」

ここは全裸で装着すると言う所で話を付けた。
足を入れ、腕を通す。頭の部分を被ると、顔面を除き、全身が装甲強化服?に被われた事になる。
「制御装置は胸の所に集中配置してある。表示は全て鏡文字にしてあるから、手首の内側にある鏡で容易に確認できる筈だ。」
宇宙服に採用された伝統的な技術に関心しながらも、不安は隠せない。
「胸部は装甲を厚くするから、心配はないよ。剥き出しの顔面も、フェイスプレートを別途準備してある。超小型の酸素ボンベが開発できたので、邪魔にならずに装着可能になっている。」
酸素ボンベから延びた管を口に咥え、フェイスプレートが装着されると、思うように喋れなくなってしまった。

電磁溶液を注入するから。と、風呂場に連れて来られた。
バスタブには灰色のドロドロした溶液が満たされていた。
「一時間程、浸かっていてくれ。浸透度合いを確認してから引き上げるから。」と、風呂場に一人残された。
溶液には適度な暖かさがあった。風呂に入っているのと同じで、ついウトウトとしてしまう…

気が付いた時、俺の頭が押さえ付けられ、溶液の中に頭から浸されていた。抵抗しようにも全身タイツが固まったかのようで、指一本動かす事ができなかった。
突然の事でパニクッたが、酸素マスクから新鮮な空気が送られており、窒息する事はない事に思い至った。

しばらくすると、バスタブから溶液が抜き取られた。
「これから回路を作動させる。慣れるまではパワーをノーマルに抑えさせてもらう。先ずはシャワーで残った溶液を洗い落としておいてくれ。」

ピンッと音が聞こえた。スイッチが入れられたのだろう。
あれ程固かった全身タイツだったが、ストレスなく手足を動かせるようになっていた。
皮膚には溶液の残りが貼り付いている感覚がフィードバックされていた。全身タイツなど存在せず、全裸の肉体が溶液に塗れているように錯覚してしまう。

すべらないように慎重に立ち上がった。
全裸ではない事は制御装置が胸に掛かる重のように、その存在を伝えてきていた。
シャワーヘッドを手に持ち、コックを捻った。シャワーの水流が足元を流す。
黒かったタイツが灰色の溶液を含んだもの…の筈が、白い素肌のような色に染まっていた。
つるつるの肌。足先は指が一本一本分かれていて、指先にはピンク色の爪が形作られていた。

…不安に駆られる…

俺は一気に頭の上からシャワーを浴びせた。
「な、なんじゃコリャあ??」
声を出せない筈なのに、俺は叫んでいた。
その声が異常に甲高い事にも気付かない程のショックに打ちのめされていた。

洗い流された溶液の下から洗われたのは、女の裸体以外の何物でもなかった。
制御装置の納められた胸の膨らみは、どう見ても乳房にしか見えない。
フェイスプレートに描かれた顔は、女の顔である。ロングのストレートヘアが頭を飾っている。
あり得ない事に、腰には艶めかしいクビレが生まれ、手足は本物の女のように細くしなやかになっていた。
「ど、どうなっているんだ?」
俺はようやく、発せられた声もまた、女のように甲高くなっているのに気が付いた。

「洗い終えたかね?」
外から声が掛かった。
「どう言う事なんですか?!」
俺が風呂場のドアを開けると奴が立っていた。
「それが新型の軽量化装甲強化服だよ。デザインはかなり制作者の趣味に走ってしまっているようだがね♪」
「そ、そう言う問題ですか?!」
「まあ、そう熱くならずに…  スペックについては説明したな?パワーを上げれば、並みの装甲強化服以上のものがある。胸部の制御装置まわりの装甲が厚くなってしまったが、旨く偽装できているだろう?」
「そ、装甲が[厚くなった]という問題ですか?」
「着用者の要求でBからHまで厚さをカスタマイズできるそうだ。あと、フェイスプレートや発声装置もカスタマイズ可能らしい。」
「発声装置?」
「そう、君の声を出そうとする咽まわりの筋電位の変化を読み取って発声させているんだ。訓練すれば武器としても使える超音波を出す事もできるそうだ。」
「まだ他に聞いていない[スペック]があるんじゃないですか?」
「あ、ああ…マックスパワーにすると、装甲強化服が熱を帯びるため、放熱板が周囲に展開されるのだが…そのデザインも制作者の趣味で、見た目が魔法少女のコスチュームみたいに…」

俺は胸の制御装置を操作し、パワーをマックスに上昇させた…

 
「フレッシュ・ビューティー。モード=マックス♪セットア~ップ!!」
発声装置が勝手に叫び、体が強制的に変身ポーズを描いてゆく。
全身が光輝き、霧のようなものに包まれたかと思うと、放熱板とは決して思えないヒラヒラの布がまとわり付いていた。

鏡を見ようと浴室に続くドアのノブを掴んだ。
ノブは水飴のようにひしゃげた。
「半端なパワーじゃないのだから注意してくれ。」
とは言われても、冷静さを欠いている俺に、手加減などできるものではない。そのままドアを突き破っていた。

 

「この格好で試験をしろと言うのか?」
「そ、装甲強化服の実地試験のために君に来てもらったのだから…そう言う事になる。」
「その[制作者]やらと言うのも来ているのか?」
「ああ、何台もカメラを持ち込んで来ている。」
…俺は、俺の戦う姿が編集され、どこかに流通してゆく様が目に浮かんでしまった。
「これが俺の仕事だから仕方がない。が、他に隠しているスペックはないのだな?」
たとえあったとしても、マックス・パワーの俺の前で迂闊な事を言える筈もなかった。

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