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2010年7月 9日 (金)

スペース・ヒーロー!!(前編)

銀河を切り裂いて<アーク・フォレスター号>が未知の宙域を目指して突進していった。
艇を操るのは<アクー・フォレスター号>の船主であり、A級航宙ライセンスの保持者である、キャプテン=ガイ・ランドフォース。
助手席で航法支援を行っているのが、僕=スリム・スキンボーン。

僕達は政府の免許を受け、未開宙域にマーカーを設置する仕事に就いていた。
「仕事」ではあるが、半分以上はガイの趣味である。まあ、ガイの航宙テクニックがあっての事だが、
…例えるなら、スキーをする時…
ガイは、整備されたスキー場ではなく、誰も足を踏み入れない奥まった雪山の斜面にシュプールを刻む事に喜びを覚える類の人種なのだ。
普通は足を踏み入れる事のできない未開の宙域に入りたいがためだけに、会社を起こして政府の免許を奪取してきたのだ。
まあ、政府からノルマが課せられている訳でもない。ガイの財力があれば遊んで暮らすのも絵空事の話ではないのだ。僕の方で適当にマーカーを放出していれば、だれからも文句が出ることはない。
だから、ガイは今日も艇を未開宙域に躍らせていた。

 

僕がそのビーコンに気づいたのは、殆ど偶然に近かった。
「ガイ。艇を少し戻す事はできないか?」と僕がパイロットシートに声を掛けると…
「言ってるだろう?キャプテンと呼べと。で、何があった?」
「イェッサー!!」これもガイに言われている事。尋ねられたり、命令された場合には必ず言う事になっている。
「微弱なビーコンを検知しました。このような宙域で…」
「それは救難信号に違いない!!」とガイは大きく舵を切ると、ビーコンを捕らえた場所に艇を戻していった。

 

ガイは「ヒーロー」にも憧れていた。子供の頃に読み漁ったスペースオペラに感化された結果が「キャプテン~」他のこだわりだった。

しかし、ビーコンは正しく救難信号だった。
僕は正規の手続きに従い、ビーコンの詳細情報を「伝書鳩」にセットすると、最寄りの宙軍基地の座標を指定して艇外に放った。
そうこうしている間にも、ガイは艇の先にビーコンの発信元と思われる星系を捕らえていた。

ここは未開の宙域である。特徴のある恒星以外は殆ど情報がない。当然のように、この星系も無機質な記号の羅列で恒星がカタログされていたが、それ以外の情報は一切存在しなかった。
艇の分析装置が第一報をもたらす。
恒星はソル型で、周りには4つの惑星が存在した。木星型が3、地球型が1。地球型には酸素があり生命活動も可能と考えられる…
「発信源はあの惑星しかないっ!!」ガイはそう言って、僕に最短ルートを計算させた。

 

ビーコンは惑星の周回軌道上の宇宙船から自動発信されていた。
乗員は地上に降りているらしく、宇宙船に生命反応はなかった。
僕達は艇を直接大気圏に突入させた。

その惑星は地球と同様、広大な海の中に幾つかの大陸と点在する島々を有していた。大陸には砂漠地帯はあるものの、広い範囲が緑で覆われていた。
「電磁波は自然放電によるもので、意図されて発せられているものはありません。地表には都市をはじめとする人造物も見当たりません。もっとも、地下都市が発達していたらこの限りではありませんが…」
「赤外線探知の結果は見ているのだろう?」分析結果の報告が中断される。
知的生命体が都市を形成する程にあれば、都市活動は何らかの熱を放出する。それが地下都市であれば、不自然な熱放射があると言う事だ。当然、僕は赤外線探知の結果とも突き合わせている。
「今の所は不自然な熱放射はありません…あっ!!」
探知機の特徴的な反応が出た。
「ガイ。金属反応です。今通過した大陸の東海岸側…この惑星に自然に存在するタイプの金属ではありません。」
「あの宇宙船の脱出ポッドか?」
「大きさまでは、まだ特定できていません。」僕がそう答えている間にも、ガイは艇を反転降下させていった。

 

そこに残されていたのは十数名を収容できる救命ボートだった。
不時着してから、かなりの期間があったのだろう、船体のほとんどが植物に覆われていた。
ガイは艇を砂浜に着底させた。
「お前は後方待機な♪」と船内服のまま、ガイは艇の外に出ていった。

「救命ボートは不時着時の損傷も大した事はなさそうだ。乗員は無事だったと思う。しかし、ここ最近にここに訪れた者はいないみたいだ。このまま奥に向かってみる。」
インカムからガイの声が聞こえてきた。

「泉がある。」
しばらくしてガイの声がした。
「ここには頻繁に訪れているみたいだ。しばらくここに張り込んでみる。」

しかし、それを最後にガイからの連絡は途絶えてしまった。
綺麗な夕焼けとともに陽が沈んでいった。心配は募るばかり。だが、僕には何の手の打ちようもなかった。
夜の闇が訪れる。地球のような月明かりはないが、澄んだ空は星の光をそのまま届けてくれる。
外気が下がった所で、赤外線探知機をガイの向かった方向にセットした。が、ガイの痕跡はどこにも残っていなかった。

夜が明けた。
僕は一睡もできずにいた。睡魔は襲ってくるのだが、僕の本能が無意識の内に睡魔を遠ざける。一進一退の攻防のうちに夜が明けたのだった。
その時、分析機は低速で移動する物体を捕らえていた。まだ、この惑星に降りてから「動物」との接触はなかった。
船外カメラを向け、倍率を上げてゆく。
茂みの影からこちらを伺う2体の動物…二足歩行が前提の骨格…
カメラが捕らえたのは二人の人間の子供であった。
樹木の葉を集めたモノをスカートのように腰に巻いている。長い髪の毛は束ねられている。そこには花飾りが付けられていた。
少し小さい方も同じような格好だ。姉妹なのだろうか?僕は彼女達を怖がらせないように、できるだけ軽装にして、ゆっくりとドアを開いた。

外に出て、彼女等に向かい大きく手を振ってみた。
「こんにちわ~♪」
できる限りにこやかに声をはりあげる。
「こんにちわ~♪」
もう一度言ってから、ゆっくりと近づいてゆく。逃げようとはしないみたいだ。
「君達はどこから来たの?」
まだ、距離はあるが顔の表情は判る所まで来た。
こちらがにっこりと笑うと姉の方は顔を引き攣らせながらも笑みを返そうとした。
「艇を見たいのかい?」
そう言うとコクリと頷く。
「規則で中に入れてあげる事はできないが、近くで見る分には構わないよ。おいで♪」
と手招きすると、姉妹は茂みの中から出てきた。

「これが着陸脚。車輪ではなく、スキー板になっているのは、不整地や水上への降下を考えての事なんだ。地表を移動するタキシングには向いていないけど、ほとんどその必要がないからね♪」
姉妹は僕の説明を聞きながら、熱心に着陸脚の構造を観察していた。
「あそこの穴は何?」
とギアボックスの周囲に並ぶ直径2cmの開口部に興味を持ったらしい。
「STOL用の噴射口だよ。氷結惑星に降りてスキー板が凍りついた時に解かすのにも使えるんだ。」
「アイスを解かしちゃうの?もったいないよ。ママ達が甘くて美味しいって言ってた♪」
妹が初めて口を開いた。
「アイスって言っても食べるのじゃないよ。氷結惑星って言ってたじゃない。惑星全体が氷に覆われているんだよ。」
「あ~、食べてみたかったなあ…」
不平を漏らす妹を姉はなんとかなだめようとしていた。ここは赤道に近く、結構暖かい。地軸の傾斜も少ないので、彼女達は雪や氷に接する機会がなかったのだろう。
「ちょっと待ってて。」と僕は艇の中に戻るとイチゴシロップのカキ氷を作ってやった。

「冷たくて甘くて美味しい♪♪」と好評を得た。
大分打ち解けてくれたようなので、彼女達が食べ終わるのを待ってから切り出した。
「君達のパパやママに会いたいんだ。案内してくれるかな?」
二人は顔を見合わせてしばらく考えた。
「パパは無理だけど、ママ達の所になら良いよ。」

こうして、僕は茂みの奥へと足を踏み入れていった。
 

 

 

姉妹に導かれて入り込んだ洞窟の中には、地下都市が広がっていた。それは先住民族の残した遺跡のようだった。現在の住人は機械を使っていないので、空中から感知できる程の排気熱など存在しないのだった。
人工的な照明もない。外光を鏡やファイバーを使って、地の底まで取り込んでいる。地下を流れる水系が、換気にも役立っているようで、息苦しさも感じられない。
僕は姉妹に手を引かれ、一軒の家に案内された。
「あたしたちの家よ。」と姉が説明する。
「ママーッ、お客さん!!」と妹は叫びながら奥に駆け込んでいった。
「あ、ハ~イ♪どなたかしら?」
と奥から大人の女性の声が近づいてきた。

部屋のドアが開いた。
僕は立ち上がり、
「突然、お邪魔して申し訳ない。」と頭を下げた。

「ヒッ!!」と息を飲む音…
頭を上げると、彼女はそこで固まっていた。

「僕はスリム・スキンボーンといいます。救難信号を頼りにこの惑星に降りたのですが、相方が行方不明になってまして、捜査に協力していただけないかと…」
と、僕がこれまでの経緯を話しているうちにも、彼女の顔はどんどん青くなってきた…

「キャ~~~ッ!!」
と上がる叫び声。彼女は脱兎のごとく外に飛び出した。
叫び声を聞いて、ワラワラと人が集まってきた。彼女の後を追って僕が顔を出すと、ざわめきが広がってゆく。
「もう一人いた?」
「パパは?」
「まだ終わってないの?」
彼女達…何故か集まってきたのは女性ばかりだった…の口々に上った言葉から、ガイが捕らわれている事が窺えた。更に、何らかの処置が施されているようだ。処置を施していると言う事は、即に殺されてしまったと言う事はないらしい。
しかし、その「処置」が緩慢な「死」に向かうものでないとは保証の限りではない。処置はまだ終わっていないようだ。
僕は部屋に戻り、姉妹に尋ねた。
「僕の仲間がどこにいるか知ってる?」
「たぶん、パパの所だと思う。」
「それはどこかな?僕を連れていってくれないか?」
「ダメよ。ママ達に叱られちゃうわ。」
「ママには内緒で…そうだ、あとでアイスをごちそうしてあげよう。シロップは掛け放題で良いよ♪」
姉妹が顔を見合わせる。そして、
「ちょっと待ってて。」と自分達の部屋に入って何かゴソゴソやっている。
「お待たせ。こっちから出るわね。」と裏口に案内する。一瞬覗けた彼女達の部屋の中には机に向かって勉強している人影のようなものが見えた。

足音を忍ばせて裏口を出ると、隘路を巡りながら地下都市の奥に向かって進んでいった。
「あの館の中にパパがいるの。でもあたし達はここ迄しか案内できないわ。」
「いや、ありがとう♪戻ってきたら約束通りアイスを食べさせてあげるからね。」
「「約束よ♪」」
姉妹は彼女等の家へと戻っていった。

ここからは僕一人で行かなければならない。流石に正面の玄関から入る訳にはいかないだろう。裏手に廻り、忍び込めそうな場所を探した。
カチャリと音がした。ドアが開き中から籠を抱えた女が出てきた。籠の中には布切れが入っていた。
「!」
その一片にアーク・フォレスターのエンブレムが描かれていた。籠の中身はガイの着ていた船内服なのだろう。女を呼び止め、服を回収しようかと思ったが、騒ぎになるとまずい…
それよりも、女はドアを開いたまま出ていったのだ。このチャンスを逃す手はない!!
僕は館の中に足を踏み入れた。

 
館の中は以外と広かった。人の気配に注意しながら、屋敷の中を探索する。
少なくとも十人位は居るみたいだ。人が集まるような場所は手入れが行き届いていた。逆に、埃の溜まっている場所は普段から使われていないのだろう。その周辺には人の気配はなかった。
そして、人の気配がないのに手入れの行き届いている一角があった。多分、そこが館の主の居場所であり、ガイが捕らえられ、何らかの処置を受けている場所なのであろう。

僕はしばらく様子を窺い、誰も行き来していない事を確認すると、その部屋に突入していった。

 

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