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2010年6月 4日 (金)

肝試し

俺達がこの場所に訪れたのは三年ぶりの事だった。
「なんの変哲もない所なのにね。」
すっかり女の子らしくなった優子が振り返った。長い髪が風に舞う。
「僕等も、もう振り返らない方が良いのかも知れないね。」
一樹も大分逞しくなっていた。
俺は独り取り残されたような気分になっていた。

「ほら、あそこにお地蔵さん。何も変わっていないわね。」
草臥れた祠に地蔵尊が立っている。屋根の下とは言っても、かなり風化していた。

***
 
俺は三年前の夏の日を思い出していた。
仲良しの三人は優哉の田舎に遊びに来ていた。何もない所だけれど、自然だけは豊富にあった。
まだ遊び盛りの俺達は都会のような決まりきったような遊び道具が無くとも、何かしらを見つけ出しては、遊ぶネタに事欠かなかった。
野原を駆けまわり、林の中を探検し、池の中で泥まみれになって遊びまくっていた。

「肝試しをしないか?」
と言う優哉の提案に、俺達は村外れのお地蔵さんまでの往復を決行する事にした。深夜の母屋から忍び出ると、女の子の一美を間に挟んで、俺が前、優哉が後ろになって進んでいった。街路灯等なかったが、月明かりでそれなりに足元も解り、互いの顔も確認できていた。
が、林の中に入ると状況は一変する。
俺は懐中電灯のスイッチを入れた。足元は照らされるが、人工の光は陰影をはっきりさせる。得体の知れない影が木々の間に見え隠れする。一美の手が一層強く俺達の手を握りしめた。

永遠のような闇の時間は、突然終わりを告げた。
「林の出口だ。」と俺は足を早めた。
「は、走んないでよ。」と一美の声が後ろでした。つないでいた手はいつの間にか離れてしまっていた。
一美の声に立ち止まった俺の所に優哉と一美が辿り着くと、
「やっぱり怖かったんじゃない?」と責められた。多分、それは当たっているのだろう。が、俺はその事を認める事ができず、
「そ、そんな事ないよ。それより、先に行こう。あと少しだ。」と懐中電灯のスイッチを切り、再び歩き始めた。

地蔵の前まで来た。
「やったね。肝試し完了。」と俺がポーズを取る。
「何言ってるんだよ。まだ半分だよ。家まで戻らないと終わりにならないじゃないか?」と優哉。
「えー、またあそこを通るの?」
「他に道はないしね。一度通った所なら怖くないだろ?」
「そんなコト言えるの優哉くらいよ。ねえ。」と一美が同意を得るかのように、俺の方を向く。
「お、俺だって大丈夫だ、よ…」とは言ったものの、俺の足は小刻みに震えていた。
「男の癖にだらしないな。」と優哉が俺を見下す。
「怖いのに男の子も女の子も変わりはないわよ。あんたも男の子だからって虚勢張らなくても良いんじゃない?怖いものは怖いのよ。」一美が、優哉と俺にそれぞれ言い放つ。
確かに俺が一美みたいに女の子だったら、素直に怖いと言っていただろう。そんな事を思っていると…

(うるさいな。夜中だぞ、静かにせんか?)

突然、お爺さんの声のようなものが聞こえた。しかし、辺りには俺達以外の人のいる気配はなかった。
「ちょっと静かにして。何かいるよ。」と俺…
「空耳だよ。怖がっているから、ないものが見えたり、聞こえたりするんだ。」
「違うよ、…このお地蔵さんが喋ったんじゃ…ないかな?」
「や~!! 変な言わないでよ。」と一美が叫ぶ。
「地蔵が喋るかよ?」と優哉がペシリとお地蔵さんの頭を叩いた。
「だ、だめだよそんな事しちゃ。」
「お前も女みたいにうるさいな!!」
「それ、女の子に対する偏見よ!!!!」

(うるさーい!! 言っても判らん奴にはこうしてやる!!)

今度は皆にも聞こえたようだ。三人の視線がお地蔵さんに注がれた。

ふと、辺りが暗くなる。月明かりが消えていた。見上げると、黒雲が夜空を被っていた。そして、大きな雨粒が地面を打つ…

ピカッ!!
辺りが一瞬の光に包まれた。

「キャア!!」

悲鳴をあげていたのは俺自身だった。
「急いで戻らなくちゃ。」と手を引かれる。俺の手から懐中電灯が奪われ、優子の手に渡された。一樹が中に入って三人を結びつけた。
落ちてくる雨粒は即に全身を濡らしていた。スニーカの中も濡れている。歩き辛いのは、太股に貼り付くスカートの所為?

 

三人が家に戻ると、大人達が待ちかまえていた。
「いくら一樹君がいるからと言って、女の子が夜中に出歩くものではありませんよ。」
もっぱら、優子に非難が集中する。
「皆で決めた事だから…」と援護する俺の声は、いつも以上にか細く、大人達の耳には届かなかった。代わりに…
「クシュン♪」と愛らしいくしゃみが俺の口からこぼれる。それに気付いたおばさんが、
「お説教も程々になさいな。いつまでも濡れた服でいると、夏とはいえ風邪を惹いてしまいますよ。」と俺達を風呂場に向かわせてくれた。

一樹は服を脱いで体を拭けば済むからと、俺達を先に脱衣所に送り込んだ。
「何で俺が優子と一緒なんだ?」
「決まってるでしょ。女の子同士なんだから♪」
「お、俺は…」
「女の子でしょ?」
と、優子は姿見に写る俺の姿を指差した。
「何故か、あたし達は元から女の子だった事になっているようね。あたしには優哉としての記憶も残ってるけど、優子として育てられた記憶もあるのよね。」

俺は自分の記憶を辿ってみた。
優哉、一美と遊んだ記憶に被さるように、優子、一樹との存在しない筈の「思い出」が沸き上がってきた。

「ぐずぐずしないで暖まっちゃいましょう♪」と優子が勝手に俺の服を脱がしていく。
姿見には二人の少女の裸体が写されているだけだった。

***

「三年も経てば、男の子だった記憶ってどうでも良くなっちゃうわよね。」
優子がお地蔵さんの頭を撫でながら言った。
「僕も、生まれた時から男だったと思う方が自然に思えているな。今更女に戻っても大変だろう。と言うか、男から女に性転換させられたと感じてしまうんじゃないかな?女の体を経験するのも、それはそれで萌えるシチュエーションらしいね♪」
「一樹ったらエッチなんだからぁ♪」
笑い声が田舎の空に吸い込まれてゆく。彼等は今の状態を疑いもなく受け入れている。
「何、うだうだ考えてるんだい?お前は昔からハッキリしない所があるよな?」
「ホント。男に戻れるとでも思ってるの?女の子でいるのも楽しいよ。SEXなんて男の比じゃないんだから♪」
「優子?!もう初体験しちゃったの?」
「あたしのコトわぁ、どうでもイイからぁ、この娘の行く末が心配じゃな~い?良かったら一樹がシてあげたら?一樹ってモテ~るから、シテもらいたい娘も後を絶たなぁいんでしょ?」
「だからって…」
一樹が俺を見ている。
三年前は背丈もそう変わりなかったのに、今では頭二つ分彼の方が高い。
首を上げて仰ぎ見る一樹を、俺は「男」と…「異性」として見ることができるのだろうか?
確かに「一美」の事は好きだった。三年前はまだ幼かったとはいえ、俺は彼女の事を「異性」として認識していた。「一樹」は…「男」ではあったが「異性」ではない。俺が自分自身を「男」として意識している限り、彼とは男同士の友達関係以外の何物でもないのだ。

しかし、彼の手が俺の肩に触れた時…
俺は初めて彼が「男」である事を意識した。いや、意識したのは、俺が「女」だという事…
見かけは男の子のように振舞っているが、俺は自分の肉体が「女」である事を認めざるを得ないと思い始めていた。
学校では女の子に混じって授業を受けたりしていた。しかし、それは女装した男が混じっているだけだと思う事ができた。膨らみ始めた胸にブラジャーを当てたのも、ショーツを穿き、スカートを着るのも男の自分が女装しているだけの気分だった。
しかし、月に一度の生理だけは、俺の体に子宮があり、卵巣がある事を見せつけてくれる。俺の肉体が「女」である事の証であった。

更に、今…
一樹に触れられた時、俺の肉体にある「子宮」が、その存在を主張したのだった。

男とSEXをする…
当然、俺は「女」として「男」を受け入れる事になる。
膣にペニスを受け入れ、放出された精子は卵子と結ばれ、子宮の中で育ち始める。それは女にしかできない生命の営みであり、今の俺はそれが可能なのだ。

(俺は「女」なんだ…)

 

俯いてしまった俺を、一樹が優しく抱き締めてくれた。
「そのままキスしちゃっても良いんじゃない?」
優子の一言で俺の意識は現実に戻ってきた。ゆっくりと押すようにして一樹の抱擁から逃れた。
「俺は一美の事は好きだったけど、一樹も同じ様に好きかと言うと違う気がする。だからといって一樹が嫌いな訳じゃないんだ。」
「先ずはオトモダチからと言う事ね。一樹もそれで良いでしょう?」
「僕はそれで十分だよ」と、二人が視線で合図を送り合う。

「な、何だよ、その雰囲気は?」
「実を言えば、あたしが一樹に付き合って欲しいって言ったら断られたんだ。なんか、あんたに気があるらしくて。で、告ったの?って聞いたら、まだだって言うし…」
優子はお地蔵さんの頭を撫でながらそう言った。
「この際、良い機会だからって焚き付けてやったんだ。」
ペシペシとお地蔵さんの頭を叩いて祠を離れた。

(わしも大人げなかったかな?)

あの声がした。

(罪滅ぼしと言っては何だが、お前さん達の未来を少し見せてやろう)

 
*** *** ***

 
「優子のお腹、ずいぶん大きくなったわね♪」
マタニティのドレスの優子がいた。
「あんたも即にこうなるからね。ヤる事はヤってるんでしょ♪」
優子の結婚式がちょうど一年前。
その夜、優子からもらったブーケに気分が高揚していたのだろう。一樹のプロポーズを何の抵抗もなく受け入れていた。
そして今日、ウエディングドレスに包まれている。
「さあ、一樹くんが待ってるわよ。」と優子に手を引かれ、木製の大きなドアの前に立たされた。
オルガンが鳴り始める。
パパの手を取ると扉が開かれた。
バージンロードの先には…

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