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2010年3月26日 (金)

あたしは誰?(1/4)

目の前に立っていたのは「俺」だった。
しかし、そこには鏡がある訳ではない。
俺ではないもう一人の「俺」が、そこに立っているのだ。

 

何が起きたかは解らない。一瞬のうちに辺りが白い光に包まれていた。
得体の知れない振動が魂を揺さぶる。肉体は石化したかのように、指一本動かす事ができない。
振動は俺の魂を肉体から切り離そうとしていた。肉体の感覚が薄れてゆく。周りの音が遠退き、ノイズの中に埋もれてゆく。
視界に靄がかかり、色を失ってゆく。灰色の世界が漆黒に染め上げられる。
五感が失われていた。

しかし、ふと目を使わずに辺りを見る事ができる事に気付いた。
肉体を介さずに空間を把握しているようだ。それを無意識のうちに「見る」という感覚に置き換えていた。
俺は「魂」として存在しているようだった。
俺は俺の肉体から離れてみた。
肉体は3Dの映像のようだった。容易に肉体から抜け出てゆく。振り返ると、そこに「俺」がいた。

これが今の俺の置かれている状況だった。

 

辺りを見ると「俺」以外にも様々な人がその場に石像のように立ち尽くしていた。
すぐ脇には可愛い女子高生が立っていた。俺は好奇心に逆らう事はできず、その娘の傍らに移動していた。

手を伸ばす。
彼女の肉体もまた3Dの映像のようてある。簡単に俺の手を彼女の中に呑み込んでしまった。

俺は彼女の背後に回り、彼女の脚に俺の脚を重ねた。
手のポーズも同じにし、頭を重ね、同じ方向を向いた…

ふと、眩暈のようなものを感る。そして、騒めきが聞こえた。
耳だけではない。五感が復活していた。魂が肉体をまとっている。融合し、肉体と魂が同じものとして感じられる。
辺りを包んでいた白い光は消えていた。いつもの光景が戻っている。
石像のようだった人々も動きだしていた…
ただ一体を除いて。

「俺」は未だ、その場に立ち尽くしていた。

 

俺は「俺」に近づき触れてみた。暖かく、血は通っているようだ。
しかし、このままでは何かの拍子に倒れてしまう。怪我をするかも知れない。
俺は近く見つけたベンチの端に鞄を置くと「俺」をベンチに座らせようした。
石像のような「俺」であったが、本物の「石」となっている訳ではない。
しかし、成人男性の質量は、いかんせん、この肉体には負荷が大きかった。
それでも、ベンチのところまで引きずっていった。

座らせようとしたが、腰を曲げる事ができない。
仕方なく、ベンチの上に横たえる事にした。
俺も疲れたので座ろうとしたが、ベンチは鞄を枕に「俺」が占拠している。
かと言って近くに座るところもない。俺は「俺」の頭を持ち上げ、その隙間に座る事にした。端から見れば膝枕をしている格好になる。
今の俺は「可愛い女子高生」にしか見えない。そんな娘に膝枕してもらえるなど「俺」にはあり得ない事象であった。

 

まあこれで、なんとか俺も一息つける。
今の自分の状況を確認する余裕がでてきた。鞄を「俺」の胸の上に置き、中を確認してみた。
ノートには「3-2 広瀬美香」と名前が書いてあった。
パスケースには彼女の学生証が入っていた。学校名も書いてある。制服の感じから思っていた通り、北高の生徒だった。
鞄の中には鏡もあった。そこに写っていたのは学生証の写真と同じ…より、少し大人びた…顔があった。

俺は本当に「広瀬美香」という女の子になってしまったのだろうか?
意識を凝らすと、胸を締め付けるブラジャーの感覚を感じられた。制服の上から胸に手を当てる。服の下にブラジャーのカップがある。更にその下には、確かに「女の子の膨らみ」が存在した。
下の方も確認したかったが、太股の上には「俺」の頭が乗っている。下半身に意識を凝らすと、スカートの下の下着がトランクスなどではない事がわかる。
更に意識を凝らす。股間にあるべきモノの存在は一向に感じられない。逆に、その隙間に熱気がこもり、汗をかきだしたような感じがした。
俺は何かを否定したくなり、「俺」の頭を抱えるとギュッとその後頭部を股間に押しつけていた。

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