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2010年3月26日 (金)

あたしは誰?(2/4)

いつの間にか、あたりは暗くなっていた。
多分、さっきのように白い光に包まれないと元に戻る事もできないのではないのだろうか?俺の中ではそう結論付けられていた。
それまでは、俺が「広瀬美香」なのだ。だから、今は「美香」として行動しなければならないのだろうか?

俺は「俺」の服から携帯を取り出した。

「もしもし、あたしは広瀬美香と申します。大木寿人さんですね?」わざわざ聞かずとも寿人の声は判っている。しかし「美香」はそれを知ってはいないのだ。
「工藤晃良さんが大変なんです。すぐに来てもらえないでしょうか?」自分の事を他人事のように話すのは恥ずかしかったが、今は親友の寿人に頼るしかない。
俺が場所を告げると「すぐ行くから。」と言い、奴には似合わない「ありがとう。」と続けて通話が切られた。
その「ありがとう」という言葉に、俺の心臓がドキリと鳴動した。
(何なんだ、この感じは?)これはまるで「恋する少女」のようではないか?確かに、今の俺の姿は「少女」である。
まさか、肉体の性別に俺の意思が引きずられているとでも言うのだろうか?この先、元に戻れずにいると、この俺が女のように考え、女のように行動するようになってしまうのか?
俺は両腕で体を抱いてブルブルと震えていた。

 
バタンと音がした。
音のした方を見ると、いつの間にかそこに寿人のクルマが止まっていた。近づいてくる人影は寿人…
ホッとすると同時に、何故か目から涙が落ちてきていた。
「良かったら、一緒に僕の家に来て晃良がどうなったのか話してくれないか?」
俺は首を縦に振り「俺」を抱えてクルマに乗り込む寿人の為にドアを開けてやっていた。

 

クルマは寿人の家に着いた。
「俺」を降ろし、寝室のベッドに横たえると、俺達は居間に移動した。
寿人がホットココアを注いでくれた。俺としてはコーヒーを飲みたかったが、見た目は女子高生である。奴もその辺を考えたのだろう。思っていた以上に美味しかったので、奴の選択はあながち間違ってはいなかったようだ。

「晃良は何と言っていた?君の知っている事を教えてくれないか?」寿人が聞いてきた。
俺は… 俺は俺の体験した事を素直に話す事に決めた。
「その瞬間、何が起きたか解らなかった。一瞬のうちに辺りが白い光に包まれていた。」
寿人の前では「美香」を装う事は難しいし、俺はこれから俺が「工藤晃良」である事を語ろうとしているのだ。
「得体の知れない振動が魂を揺さぶり、魂を肉体から切り離そうとした。周りの音が遠退き、視界に靄がかかる。五感が失われたと思った次の瞬間、辺りを見る事ができる事に気付いた。その時はもう、魂は肉体から切り離されていたんだ。」
寿人が俺を見ている。俺は口調など一切気にせずに先を続けた。
「そこには様々な人が石像のように立っていた。すぐ脇には可愛い女子高生がいた。俺は好奇心に逆らう事はできず、その娘の肉体に魂を重ねた。」
俺は寿人の瞳を覗き込んで言った。
「その時、光が消えた。そして、俺はこの娘になった。寿人。俺が晃良なんだ!!」

寿人は大きく息をついた。
「信じられない話しだ。が、お前が晃良だという事は間違いなさそうだ。それに、この騒動の一端も見えてきたようだ。」
「騒動?」
「ああ、お前はそれ所ではなかったんだよな。巷ではお前のその肉体と同じように動かなくなった人が、ほぼ同時に何人も現れたんだ。皆が皆、そうなった訳でもないのに、質の悪い伝染病か何かのように、町中パニックのようになっているんだ。」
「知らなかった…」
「結局は、その光の所為で魂が抜けてしまったと言う事なのだな。お前のように魂の行き先が判っていれば、元に戻せる可能性もあるというものだ。」
「すぐには戻れないのか?」
「無茶を言うなよ。俺は可能性があると言っただけだ。今の状況では元に戻れないと覚悟しておいた方が良かも知れないな。」
「なっ?戻れない?? 俺にこの先、広瀬美香という女の子として生きて行けと言うのか?」
「戻れなければ、そうするより他にあるまい? 今のお前はだれが見ても愛らしい女の子だよ。それに、お前がその姿でお前自身であると主張してみろ?彼女の両親は何と思うだろうな?」

俺の脳裏には彼女の両親の悲しむ姿が写し出されていた。
「パパ…ママ……」
俺は無意識のうちに呟いていた。

 

「おお、そうだ。お前は今未成年の女の子だったんだな。もう、夜も遅い。ご両親が心配しているだろう。電話の一本でも入れておいてあげなければな♪」
「俺の親は心配などしないぞ。」
「お前のじゃない。美香ちゃんのだ。電話番号判るか?」
「えっ? あぁ…」突然聞かれて口を突いたのは、俺が知る筈のない美香の家の電話番号だった。

「すいません。長々と引き留めてしまいまして。即に送っていきます。」と寿人が電話の向こうの人に向かって深々と頭を下げていた。

再び寿人のクルマに乗り、美香の家に向かった。
「俺はどうすれば良いんだ?」
「お前の事を美香の両親に言うかどうか、と言う事か? 先ずは正直に言っておいた方が良いだろう。その時点で拒絶されたら、このクルマで帰ることはできる。」
美香の家は意外と近く、寿人とはそれ以上の話はできなかった。

 
父親は何も言わなかった。
「美香は元に戻れるのでしょうか?」母親は心配顔で寿人に尋ねる。
俺は寿人を振り返った。
「今は何とも言えません。」寿人は正直に答えるしかなかった。
「私も研究者の端くれです。お嬢さんと私の親友を元に戻すべく努力します。」

寿人の真摯な態度が功を奏したのか、俺はこの家に置いてもらえる事になった。
もちろん、美香として振る舞う事が絶対条件だった。
そして、美香として学校に通った後、寿人の所で元に戻るための研究を手伝う事が加わる。
寿人は毎日、美香を送り届けるとともに、研究の成果を報告する事になった。

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