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2010年3月26日 (金)

ピンクの携帯電話(1/2)

「この特性シリコンパットは、お前の体内に女性ホルモンを供給し続けると同時に男性ホルモンの活動を押さえ込む働きがある。つまり、お前の肉体は徐々に女に変わってゆくのだ。」
専用の接着剤だと言う液体が胸に塗られ、ヒヤリとする。その上に女性のバストを模したシリコンパットが押しつけられた。
俺の胸にブラジャーが巻かれ、前面のフックが掛けられると、俺の胸に女のような谷間ができあがっていた。

「無理に取ろうとするなよ。専用の剥離剤で取らなければ大変な事になるからな。」
「ど、どうなると言うんだ?」
「まず、お前の男性機能は一気に破壊される。ものの数日で股間のモノは朽ち落ちてしまうだろう。胸には醜い傷跡が残る。お前は男でなくなると同時に女として生きるにも辛い状態となるのだ。」
「そ、そんな…」
「我々の指示に忠実に従ってくれれば、即に外してやる。良いかな?」
俺は答えに詰まったが、シリコンパットは思った程大きくなさそうだ。ブラの効果で大きく見せているだけの事に気付いた。
この程度の膨らみならば誤魔化す事もできる。奴等の話に乗るフリをして隙を見て逃げ出す事ができれば、何食わぬ顔で元の生活に戻れるに違いない。
更には、コレを外す手立ても見つかるかも知れない。
「わ、判った。」と俺が言うと、
「指令はこの携帯を通じて行う。」とピンク色の携帯が渡された。

「先ずは、その身体に見合った格好をする事だな。」と女物の衣服が手渡された。
ブラと揃いのショーツを穿かされる。ストッキングが脚を覆い、ブラウスが胸の膨らみを強調する。タイトスカートにハイヒールを履かされると、首から下は「女」にしか見えなかった。
次に化粧台の前に座らされた。セミロングのカツラが被せられた。眉毛が細く整えられ、ファンデーションで肌が白く滑らかにされる。
刷毛で陰影が付けられ、目の周りと唇がしっかりと造り込まれると、鏡の中に写るのはどこから見てもひとりの「女」でしかなかった。
「喋るとボロが出るから、気を付けるんだぞ。」
「ああ。」と答えた俺の声は、華麗な姿に似合わない「男」の声であった。

 
ピロロロロッ
と携帯が鳴った。
「おお、早速の仕事か。頑張って来るんだぞ♪」と、ケープを外して俺を立ち上がらせた。
メールを開く。こいつとは別の奴が指示を出しているのだろう。
<入り口にタクシーを呼んである。目的地に着いたら指示があるまで立っていろ。>
これだけでは何をさせられるのか判らない。指示に従い待っていたタクシーに乗り込む。
中身はどうであろうと、見かけは「女」である。何とか女らしい所作でシートに座った。
運転手は何も言わず車を走らせた。

車はしばらく走ると、とある駅のロータリーに滑り込んだ。
「到着しましたよ。オブジェの前で待っているようにとの伝言です。」とドアが開かれた。
既に料金は支払われているのだろう。俺を降ろすと即にタクシーは離れていった。
駅前の待ち合わせ場所として使われているのだろう。オブジェの周囲には待ち人を待つ人がパラパラといた。
俺もまた、オブジェの近くに立った。駅ビルのガラスに辺りの様子が写っていた。そこに写る俺は、単なる人待ちの女でしかなかった。

「お姉さん♪カレシと待ち合わせ?」
若い…いかにも軽そうな二人組の男が俺に声を掛けてきた。いわゆるナンパなのだろう。
喋る事のできない俺は無視を決め込んだ。が、
「さっきからずっとでしょう?スッポかされたんだよ♪」
確かにここに来て、それそろ一時間近くになる。
「時間を守れない奴なんて放っておいて、オレ達と楽しいコトしない?」と執拗に迫ってくる。
既に退路は断たれている。女のように叫べば何とかなるかも知れない。
しかし、俺にはそれは出来なかったし、彼等も俺の事を「叫ぶこともできないか弱い女」と見下しているようだ。

「ごめ~ん♪待たせちゃって。」とそこに、女の声が割り込んできた。
俺の腕がグイと引かれ、男達の壁から取り出された。呆気に取られる男達を残し、近くのブティクに連れ込まれた。
「あんた大人しそうだから、あんな奴等につけ込まれるのよ。少しはガンと言ってやらなくちゃ。」
どうやら俺はこの女性に助けられたようだ。喋れないので、お礼の代わりに頭を下げた。
「だから、少しは声を出しなさいよ。喋れない訳じゃないでしょ?」
(実はそうなんです)と言う事も出来ずにいると…
「ひャん!!」と、俺の口から女の叫び声が出ていた。
彼女に尻を撫でられ、咄嗟に叫んでいたのだ。
「ほら、声は出るじゃない。」
確かに出た。それも女のようなかん高い叫び声だった。
もしかして、今の俺は女のような声を出せるようになっているのか?
「ぁー、ありがとう…ござい…ました…」
ゆっくりと、高さを確認しつつ、声を出してみた。ちゃんと女の声になっていた。

彼女はこの店のオーナーで、俺の事を見ていられずに声を掛けてくれたらしい。
ここまで親切な彼女を騙し続けて良いものか?と思っている所に…
ピロロロロッ
と携帯が鳴った。

ピロロロロッ
と携帯は鳴り止まない。
今度はメールではなく、通話なのだろう。受電ボタンを押し、携帯を耳に当てた。
「おい、どこに居るんだ?オブジェの所に立ってろと言ったろ?」その声は近くにいる彼女にも届いていたようだ。
店のガラス越しに外を見ると、人相の悪い男がオブジェの所から誰かを探すように辺りを見廻していた。
「い、行かなくちゃ…」俺が立ち上がろうとすると、
「あいつ、あんたの何なの?」と腕を引かれた。
「尋常でない関係なようだけど、出来るなら行かない方が良いわよ。」
俺は彼女の優しくかつ意志の強い瞳を覗き込んでいた。彼女は本当に俺の事を心配してくれているのだ。
「おい!!聞こえてるのか?」と男の声が響く。
彼女は俺の手から携帯を奪っていた。
「貴方に彼女は渡さないわ。」と言い、切ってしまった。

ピロロロロッ
と即にも再び携帯が鳴り出した。
彼女は委細かまわず、携帯の電源を落としてしまった。
「あんな男の元になんか戻っちゃ駄目よ。帰る所がないんなら、あたしの所に居たら良いわ。」
「良いのですか?見ず知らずの…私にそこまでして…」
「何を今更♪あたしがあんたを気に入ったの。それで十分でしょ?」彼女の向けてくれた笑顔に、俺はこれまでの事を話す事にした。

 

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