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2010年2月 6日 (土)

アナタと一緒に…(1/2)

俺は…

死んだんだと、思う。

 
目の前に掌をかざすと、うっすらと向こう側の景色が見えるのだ。
多分、俺は幽霊になってしまったのだろう。足元も影が薄く、どこか浮いているようにも見える。
考え事をしながら歩いていると、様々な障害物にぶつかりそうになるのだが、俺の体はその障害物をすり抜けていた。
実体がない…まさに「幽霊」だった。

 

「幽霊」になったら何をするか?だれでも一度くらいは考えた事があるのではないだろうか。
とは言っても「透明人間」とは違う。完全に見えなくなる訳ではない。霊感の強い人間にはしっかり見られるし、そうでなくとも「存在」を感じる者は少なくないようだ。
「幽霊」の強みは「障害物に邪魔されない」と言う事だろう。何でもすり抜けてしまう。ドアを開けずに侵入したり、分厚い金庫の壁を通り抜け、中身を見る事ができる。(金庫の中身を持ち出す事はできないけど…)

で、俺がやろうとしたのは「憑依」だった。
他人の肉体を乗っ取り、そいつに成りきるってやつだ。本当にできるかどうか半信半疑だったが、試して損はない筈だ。
とは言っても、見知らぬ人に憑依するのも気が引けたので、親友の五島悟をターゲットとしようと思った。

悟のアパートに向かった。現金の持ち合わせが無かったので、バスやタクシーを使うのは諦めた。が、これも幽霊の特権か、いくら歩いても疲れる事はなかった。
障害物もなんのその、最短コースで辿り着いた。外階段を上り、ドアの前に立つ。
呼び鈴を鳴らそうかと思ったが、これから憑依するのにそんな事が必要か?と思い直し、ドアをすり抜けて中に入っていった。

悟は机に向かって座っていた。腕を組み、その上に頭を乗せて机にうつ伏せている。
一向に動こうとしない。
俺は彼の背後に忍び寄ると、椅子の背もたれをすり抜けて、彼と体を合わせた。
障害物と同様に彼の体の中に俺の手足が入ってゆく。手と手、足と足が同じ位置になるように調整する。
腰を降ろし、彼と同じ姿勢を取る。頭を腕に乗せると、二つの体がビタリと一致した。
グラリ
と眩暈がした。
と同時に、俺は生命活動を続けている肉体を感じた。
頬を押す腕の感触、腕に掛かる頭の重さ、触れ合う肌の暖かさ…
心臓の鼓動を感じる。
息をしている。
腹が空腹を訴えていた。
(悟、お前どのくらい食っていないんだ?)

「憑依」したには良いが、俺は一向に悟の体を…指一本動かせなかった。
何がいけなかったのだろうか?とは言っても憑依のマニュアルがある訳でもない。自分自身で試行錯誤してみるしかないのだ。
が、時間だけが刻々と過ぎていった。

 

ピンポ~ン
と呼び鈴が鳴った。
「あたしよ。悟居るんでしょ?」
ドアの向こうの声の主は悟の恋人の春日沙織だった。
おもむろに立ち上がると、玄関に向かい、ドアのロックを外した。
目の前に沙織の笑顔があった。
「辛いかも知れないけど元気出しなよ。」
ほら、と手に下げたスーパーの袋を見せる。
「何か作ってあげるから、台所借りるね♪」と、勝手知ったるでエプロンを取り出すとてきぱきと食事の支度を始めた。
悟はそんな彼女を見送ると、再び机の前に戻っていった。
その間、俺は何もできずに傍観しているしかなかった。どんなに頑張っても、悟の行動に干渉する事は叶わなかった。

「ご飯できたよ♪」
エプロン姿の沙織が悟に声を掛けた。
「悟がいつまでも落ち込んでいたって、何も変わらないわよ。先ずはご飯を食べて元気を取り戻さなきゃ!!」と悟の腕を引いて食卓に着かせた。
黙ってだが、悟は食べ物を口に運び始めた。彼一人では沈黙に圧し包まれる筈の食卓に、沙織のお喋りが華を添える。
「ねえ、こんな歌があったわよね?お墓の前で泣かないで、私は風になって貴方の側に居るって。だから、彼も近くに居るんじゃないの?もしかしたら、あたしたちが食事しているところも見てるかも知れないわね♪」

悟が沙織の言葉に反応した。
「奴が居る?今も俺の側に…」

 

それがきっかけとなったのだろうか、悟に生気が戻ってきた。
「確かに、奴は今も俺の側にいるような気がする。」
(確かに俺はお前の側に居るよ。側も側、お前自身に憑依してるんだ。)と俺が言っても彼に届く事はなかった。

「手伝うよ。」と悟は食べ終わった食器を台所に運び、沙織が洗い終わった食器を片付けていった。
「ビデオ見ようか?」と沙織。珈琲を淹れ二人でテレビの前に座った。
流れ始めたのは俺の一番好きな作品だった…

 

エンディングのロールが流れてゆく。
「あぁ、もうこんな時間か…」と悟が時計を見上げた。
「そうよ。もう終電は終わってるわ。だから、今夜は泊めてね♪」

大人の男女が一夜を伴に過ごす…
当然のように、その過程には性行為が存在する。
沙織がシャワーを浴び、その後で悟が風呂場に向かう。バスタオル一枚だけの沙織とすれ違うとき、俺はこのまま憑依を続けていてはいけない気がした。
が、俺は悟と伴にシャワーを浴び、濡れた体を拭いて、寝室に向かっていた。

沙織は既にベッドに横たわっていた。毛布の下には一糸纏わない瑞々しいオンナの裸体があった。
「来て♪」
そう言う沙織は、恋人の親友でしかない俺には一度たりと見せた事のない、憂いを秘めた顔を悟に向けた。

俺は傍観者でしかなかった。
繰り広げられる男女の営みを、男性側の視点から余すところなく観察させられていた。
沙織の艶声が頭の中に焼き付いてゆく。
悟と伴に興奮してゆく。
硬くなった凶器で沙織を貫いていた。

「あん…ああ。ああ~~~ん♪」
沙織の嬌声が高まる。
「ああ、イク…イッちゃうーッ!!」
「お、俺も…」
「イ一緒に…」

悟な射精すると同時に、俺は何かに引っ張られるような感じがした。
(離される?)
しっかりと悟に憑依していた筈が、強引に悟の外に押し出されるっ!!
(ま、待てよ!!)
俺の抗議を聞いた者は一人もいなかった…

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