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2010年2月16日 (火)

B/A 1-2

気がついたのは病院のベッドの上だった。

今は春の甲子園につながる、大事な試合の最中だった事を思い出した。
既に試合は終わってしまったのだろうか?勝てたのだろうか?

しかし、それ以上に股間の痛みが気になっていた。
コントロールが定まらない相手ピッチャーに四球を選んだ先輩が一塁にいた。ここは何としても送る。俺のバットに奴の球が吸い込まれるように近づいてきた。
そして、1ミリにも満たない誤謬…
弾かれた硬球は俺の股間にめり込んでいた。
そこで意識が途絶えていた。

 
しばらくして監督がやってきた。
試合はボロボロに負けたらしい。俺も早く復帰して力になりたい。と言った途端、監督の顔が曇った。
「順を追って話した方が良いようだな。」と監督はパイプ椅子に腰を下ろした。

病院の手配は取材に来ていたTV局の人がやってくれたんだ。下半身血塗れのお前に手早く止血をすると、シートが汚れるのも構わず彼らの車に乗せ、ここまで運んでくれたんだ。
もう、一週間も前の事だがな。
医師の腕は良く、傷跡が残らないように綺麗に処置してくれたよ。誰もお前が大怪我をしたとは思えない出来だ。
しかし、そんな医師でも無理な事、不可能な事がある事は理解してもらいたい。

お前の金玉=睾丸は完全に潰れてしまっていた。チンポの海綿体も切り子状態で、復元する事は不可能だと言われた。だから、今のお前の股間は女の子のようになっている。
お前は「男にも女性ホルモンがある」って聞いた事あるか?普通は大量の男性ホルモンに隠れているが、お前のように男性ホルモンが作れなくなると女性ホルモンが優位に立つ事がある。

だから、成長期のお前はこれからどんどん女らしくなってゆく。これは避けられない事実だ。
そこで、TV局の人が全面的にお前の女性化をサポートしてくれるそうだ。当然ドキュメンタリーとして番組を作るのに使われる。名前は伏せてくれるし、どうせほっといても女になるんだから、彼等の好意に甘えるのも悪くないと思うよ。

 

 
紆余曲折はあったが、あたしは彼等のサポートを受けて、今、ステージの上に立っていた。
あたしの担当だったお姉さんがプレゼンテーションを続けている。
「グラウンドに立てなくなった彼女はベンチからでも仲間を応援したいから野球部に残してくれと懇願しました。しかし、野球部は熱い男の子達の集う所。そんな中に女の子が居れば間違いが起きる可能性が充分にありました。
そこで私達は彼女にチアリーダーになる事を勧めました。仲間とは少し離れてしまうが、応援する立場は変わらないと納得してくれました。
元々運動神経の良い彼女ですが、男のアイデンティティがそうさせるのか、なかなか笑顔が作れませんでした。
夏の予選が始まろうとしていました。彼女は練習の合間には必ずグラウンドを走り回る元の仲間を見ていました。
そんな彼女を観察していると、彼女の視線の先には必ず特定の選手が居るのが判りました。私は彼女に聞いてみました。
『彼が気になるの?』
彼女は必死になって彼だけを特別視している訳ではないと否定しました。
『貴女はまだ自分が女の子ではないと思っているの?』
私は彼女に恋愛感情を意識させるようにしました。
『今は片思いのままでも良いのよ。彼への一番のエールは貴女の笑顔だと思ってやってみなさい♪』
こうして彼女に笑顔が生まれ、彼女の応援に奮起した部員達はこれまでになく勝ち進んでいきました。惜しくも準決勝で敗れはしましたが、彼等は充分に満足していました。」

 

司会の人があたしを呼び出した。
「本来なら、ここでチアの演技を見せてもらいたい所ですが、今日はユニフォームではなく、制服のままなんですね?何か意味があるのですか?」
あたしは正直に答える。
「お医者様に激しい運動は控えるように言われているんです。」
「どこか体の具合が悪いのですか?」
司会者の言葉は担当のお姉さんが引き取った。
「彼女の片思いは片思いのままでは終わりませんでした。彼女のお腹には彼との間に新しい命が芽生えているのです。」
おお!!と観客のどよめきが広がった。
「ご両親を始め、周りの方々の暖かい祝福を受け、彼女の卒業を待って結婚する事が決まっています。」
「それはおめでとうございます。」と司会者が握手を求めてきた。そして、マイクが向けられた。
「今のお気持ちをどうぞ。」
あたしはプラカードに貼られた昔の写真を見返した。
「ここではまだ昔の名前を使ってますが、昨日、あたしの誕生日に正式に入籍しました。」
再び場内がどよめきにつつまれる。
「いろいろありましたけど、あたしは今幸せです♪」

 

 
鳴り止まない拍手を鎮めつつ、司会者はあたしを袖に下げた。
「さあ、劇的変身ビフォー・アフター。次のターゲットはこの方です…」

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