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2009年8月12日 (水)

翠(3)

 

気が付くと、もう結婚式の当日になっていた。
朝早くからあわただしく、前取りの写真の為に何度も着替えさせられていた。
ようやく気持ちが落ち着いたのは式場の大きな木製の扉を前にした時だった。
俺の隣には正装した父さんが立っていた。俺は純白のウェディングドレスに包まれている。荘厳なパイプオルガンの音とともに扉が開かれると、祭壇の前にいる博章さんに向かってバージンロードが続いていた。

姉さんの目論見通りに「翠」は博章と結婚する事になった。今では俺も「翠」でいる事に慣れてきている。
お化粧もファッションも楽しむ余裕さえでてきている。すべては博章さんに抱かれる快感があればこそなのだ。
結婚する事で、博章さんとは毎晩一緒にいられるのだ。

俺の目の前に博章さんの顔があった。
フッと目元が潤んでいた。
「翠…」
呼びかけられ、俺は「ハイ♪」と応えていた。
博章さんの逞しい腕が俺を抱く。「このままヤッてしまいたいね。」と耳元で囁かれた。「…」俺は何も言えず顔を紅らめたが、同時に股間をたっぷりと潤ませていた。

 

 
更に1ヶ月後、ひきこもりを続けていた「俺」が失踪した。
博章さんからは予定の行動だと聞かされていたが、両親には心配を掛ける事になる。
「本物の裕也はここにいる!!」と叫びたかったが、それが許される筈もない。
それ以上に、予想外の事態が俺の身に降りかかってきていた。

俺が「妊娠」していると言うのだ!!

「皮」は「皮」でしかない。中の俺自身は男なのだ。どうやったら妊娠できるのか解らなかったが、俺の腹の内には、子宮や卵巣などひと揃いの女性器が正常に機能しているらしい。妊娠していなければ、毎月生理を経験していた筈だと言う。
俺にはいまだ理解できていないが、つわりが来るまで妊娠に気づかなかった事を責められてしまった。

 

 
両親は黙っていたが、「俺」の事故死が確認されたと聞いた。もちろん、中身は博章さんだった人ではない。
それは全て計画されていた事だった。しかし、これでもう俺は「裕也」に戻ることができなくなったという事になる。
入れ替わった後の様々な事を思い返しながら、俺は今、分娩台の上にいた。

「はい、いきんで!」
指示される声に従って息を制御する。
「もう少しですよ♪」
痛みに気が遠くなりそうだった。

「ギャー」と泣き声が上がった。

「おめでとう。元気な男の子ですよ♪」

助産婦さんの掌の中に、産まれたばかりの命があった。
俺はまだ「女」であることにためらいがあったが、目の前に我が子を見て、自分が「母」となった事を実感した。
「男の子ですか…」

 
俺…アタシはこの子を「裕也」と名付けようと心に決めた。

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コメント

自分を奪われ、花嫁にされて・・・さらに、戻ることもできなくなって。
ところで、彼の、いえ、彼女のだんなさんて、本当にあのひとなんでしょうかね。
それすらも怪しいなぁ。

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