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2009年7月19日 (日)

幸せの赤い靴 -2-

-2-

朝が来た。適当に食事を済ませ、荷造りを始めた。
この状況で必要なものはパジャマと海パンである。何しろ脱げない靴は着ている服に合わせて形が変わるのだ。寝るときと風呂に入る時だけはハイヒールなどを穿いていたくはない。
それ以外の着替えは旅行鞄を買ってからにする。財布の中には現金は乏しかった。カードで引き出すにしても、「本人でない」と問い質されるかも知れない。頻繁に下ろさないでも良いようにしておきたい。
財布の中には免許証とクレジットカードもあったが、しばらくは用を成さないだろう。しかし、元に戻った時には使えるかも、と財布には残しておいた。
折り畳みの傘は広げてみたが服のように女物に変わるような事はなかった。洗面道具も同じだった。男物の歯ブラシや髭剃りを持っていては不審がられるだろう。

荷物がまとまったところで軽く部屋を掃除しておいた。
外に出る前に、もう一度鏡を覗いた。勝手に施された化粧に乱れはなかった。ブラウスもちゃんと着られている。スカートの下では真っ赤なサンダルが穿かされていた。
既に靴を穿いているのでそのまま玄関に降りた。ドアをそっと開け、近所の様子を窺う。だれもいないので、素早く外に出て鍵を掛けた。

部屋の中で練習をしておいたので、女物の靴でもふらつかずに歩けるようにはなっていた。駅前で買い揃えようとしていたが、少し離れた所にした方が良いと思い切符を買って電車に乗った。
結構空いていて座席にも空席が沢山あった。すぐに降りるとは分かっていても、いつもの癖で空いている場所に腰を下ろした。

ふと気づくと、ちらほらと視線を感じた。
俺が「男」だとバレたのか?いやそんな筈はない!と自問自答していたが、すぐに原因が判った。俺はいつもの癖で座ったが、今は女の姿である事を失念していた。無造作に座ったためスカートは乱れ、いつものように脚を開いて座っていたのでスカートの間から、太股がセクシーに顔を覗かせていた。
慌てて膝を合わせ、スカートの乱れを正した。電車が駅に止まると同時に席を立ってホームに降りた。次の電車ではどんなに空いていようとも座るまいと心に決め、待っている間も誰も座っていないベンチを見ないように体の向きを変えて立ち続けていた。

降りた駅は大きなショッピングセンターにつながっている。ここで一通りのモノが揃う筈である。
鞄は最後に買うとして、小物を買い求めていった。歯磨きはトラベルセットで一式を揃えた。ふと見ると化粧品のトラベルセットも置いてあった。
俺は化粧品などなくとも勝手に化粧させられてしまうので、あまり考えてはいなかったが、女のバックの中に化粧道具が何もないのは不自然に見られる。
俺は化粧道具も一式セットになったトラベルセットと口紅を一本買った。
着替えを持ってきていない事にも気付いた。少なくとも下着だけは替えを持っておく必要がある。が、男物の下着が勝手に女物になるとは言っても、この姿で男物を買う訳にもいかない。
俺は意を決してランジェリーコーナーに足を踏み入れた。男物にはないパステルカラーの洪水に圧倒されながらも、手近のブラジャーを手に取ってみた。
AとかBとかCとかがバストの大きさだと言う事は知っていたが、自分がどのくらいなのかは見当がつかない。ブラジャーのタグにサイズが書いてあるとすれば、今俺が着けているのにもあるのでは?と考えた。
とは言っても、この場で服を脱ぐ訳にもいかない。幸いにも、服の売り場には試着室と言うものがあった。売り場をうろついてフリーサイズの服を手にして試着室に入ってみた。
ブラウスを脱ぎ、ブラの肩ひもを外して半回転させた。フックの近くにはタグがあり、サイズもしっかりと書かれていた。

ブラを元に戻し、ブラウスを着ようとした時「いかがでしたか?」と女の声が掛かった。さっきから俺に注目していた販売員だろう。「もう少し待ってください。」そう言って持ってきた服を着てみた。
「どんな感じかしら?」と努めて女らしく話してみた。「お客様はスタイルがおよろしいから…よろしければ、こちらも試着されてみては如何かしら?」と別の服を差し出してきた。
ブラのサイズを確認するためだったので、今着ているのも殆ど選ばずに手にしたものだった。販売員の差し出したものは確かに俺に似合いそうであった。
気がつくと、試着室の中には数着の服が残されていた。俺が試着して気に入ったものがここに残っている。俺は決断をする時と感じた。
「これをお願いします。」と真ん中の服を差し出していた……って、俺は今迄何をしていた?!下着を買いにきた筈が何で服まで買っているんだ?
それも、女の服の好き嫌いを自分で着てみて判断していたのだ。その判断基準は「俺」に似合うかどうかだった。俺は女になりきって服を選んでいたようだ。

紙袋に入れられた服を受けとると、本来の目的である下着と旅行鞄を購入して、近くのファミレスに入っていった。
昼時で昼食を摂るのもあったが、俺はここで旅行鞄に買ってきたものを詰め込むことにしていた。BOX席に陣取り、日替わりランチを頼むと荷造りを開始した。
この先、何が必要になるか判らなかったので、かなり買うものを控えた筈が、すでに鞄の半分以上が埋まってしまっていた。

食事を終えた所でトイレに向かった。一瞬ためらったが、女性用の方に入った。
用を足して出る前に鏡を覗いた。少し口紅が落ちている。席に戻ると鞄の中から口紅とコンパクトを取り出した。
鏡を見ながら唇に口紅を付けながら、ふと食事の度に鞄を開くのも面倒と思い至った。そう言えば、女性はいつも手ぶらという事はない。そこで、ハンドバックも買う事にした。

 

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