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2009年7月19日 (日)

幸せの赤い靴 -5-

-5-

「どうしよう…」
素肌にバスタオルを巻いたままの姿で、俺は思案に暮れていた。「着て行く服がない…」
俺の手元にあるのは、昨日着ていた服しかない。壁には浴衣が掛かっているが、花火とかのイベントでもない限り着ることはない。
着てきたブラウスは男物のシャツに戻っていた。ホテルの売店にサマードレスが置いてあったが、似合いそうもなかった。
結局、昨日と同じ服で彼の前に立つことになってしまった。
「ごめんなさいね。こんな事になるとは思っていなかったので、これしか着るものがないの…」
「なら、買いに行こう。小田原はそれなりの都市だから買うのに困らないよ。お城もあるから観光にもなる。」「じゃあ観光が先ね。女の買い物に付き合わせちゃ悪いからね♪」「いや、買い物が先だね。僕はまた違った君を見てみたい。もちろん服は僕のプレゼントだよ。」「そ、そんな…悪いわ。」「大丈夫だよ♪」
俺は彼に促されて、タクシーに乗り込んでいた。

小田原は城下町とは言いつつも、古くさい感じはしなかった。どちらかと言うと若者の街という感じがした。
何軒かブティックを巡ってみた。試着もしてみる。
とは言っても俺の好みではなく、彼が気に入ったものが着させられる。結局エプロンドレス風のワンピースに決まった。
幼っぽく見えるが、可愛くて俺も気に入った一品だ。「このまま着て行くから、着てきたのは他のと一緒にホテルに送っておいてくれ。」と俺自身が買った服と一緒に荷造りされていた。

俺達はそこから歩いてお城に向かった。

「あっ、ゾウさんだ♪」
思わずはしゃいでしまった。お城には動物園があり、天守閣の下を像が歩き回っていた。もちろん像以外の小動物や鳥達もいたが、こんな所に像がいるとは思ってもいなかったのだ。

そのまま夜まで小田原の街にいた。「ZOO(動物園)」というラブホテルでご休憩。女として抱かれる事が当然のようになっていた。
彼との交わりは旅先でのアバンチュールと片付けなければいけないとは判っていたが、彼との関係にどんどんのめり込んでゆく自分がそこにいた。
女の快感に嬌声を上げている。このままの時間が永遠に続けば良い。彼に抱かれて悦楽に身を任せていたい…

俺は自分が男であった事を忘れ果てていた。

 

「もう、長い休みも終わりね…」俺は彼の胸を撫でていた。
「そうだな…僕達は旅先で知り合い、そこで別れる…それだけの関係だったな。」「良い思い出になったわ。」
何故か、俺の目が潤み、涙が落ちていった。
「最後にもう一度…」
彼が俺の上に伸し掛かってきた。そのまま股間に割り込み、俺の中に入ってきた。俺は脚をM字に開いていたが、彼と更に密着するように彼の腰に足を廻した。
優しい挿入が繰り返される。彼も俺も静かに高まりを迎えていった。
俺の中に彼の精が吐き出された。
快楽の絶頂とともに、俺は意識を失っていた。

気が付いた時
彼の姿は、もうどこにもなかった…

 

箱根に来たのに、今まで温泉に入っていなかったのを思い出した。
チェックアウトまでまだ時間があったので、大浴場に向かった。
誰もいない湯船に身体を浮かべる。自分の肉体が「女」であることに違和感が無くなっていた。寝湯、サウナ、打たせ湯と一通り入っていった。
露天風呂で休んでいると新客がやって来た。若い女の子だった。
「お独りでご旅行ですか?」と声を掛けられた。
「えぇ、でも今日のうちに帰ることになってるの。」「何日か居られたんですか?どこか良い所があったら教えていただけません?」
俺は彼に連れられて巡った場所を話していた。
みんな覚えていた。
女として彼に愛された全てが鮮明に甦ってきた。
「大丈夫ですか?」
彼女が身体を寄せてきた。俺の隣に全裸の女の娘がいる。何の警戒心もなく、俺に触れてくる。
が、今の俺はそれに対して性的な興奮を覚えることはなかった。
「少しのぼせちゃったかしらね。この辺で失礼するわ。良いご旅行をね?」
俺は露天風呂から上がり、脱衣所に向かった。

鏡に映っているのは、何の変哲もない女の裸体だった。さっきの娘より幾分か年を経ているが、まだまだ若い女の裸体だ。
これが「俺」なのだ。
別に手術とかをした訳でもない。不可思議な力で「女」にされた俺は、生まれた時から女であった娘と何ら変わる所がない。俺に無いのは女の子として成長してきた記憶だけだろう。

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