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2009年7月19日 (日)

幸せの赤い靴 -1-

幸せの赤い靴

-1-
 
仕事から帰ってくると、何とか企画という聞き覚えのない所から包みが届いていた。
「モニターに当選しました。一週間使用していただき、ご感想を同梱の封書で返送ください。」とのメモが入っていた。

包みの中には、何故か女物の真っ赤な靴が入っていた。良く見ると女物ではあるが、靴のサイズは俺のものと同じだった。
モノは試し…と履いてみると、あつらえたように俺の足をぴったりと包み込んだ。立ち上がってみる。女物だけあって、かかとが高い。ふらつく足でフローリングの床の上を歩いてみた。
不思議と歩き易く感じた。ファッションモデルのようにクルリと回ってポーズを決めた。空気を孕んで舞い上がったスカートの裾が落ちてきた。

「?」

何で俺はスカートなんか穿いているんだ?
慌てて洗面台の鏡を覗き込んだ。

それは「俺」の顔には違いなかったが、何故か女のように化粧されていた。着ている服も艶やかな女物である。
「どうなっているんだ?」
視線を下ろすと、そこには胸の膨らみがあった。それが服のデザインだけで盛り上がっている訳ではないと、俺の皮膚感覚が訴えている。
手を胸に充てた。
俺の胸の膨らみは、潰れるどころか、弾力をもって俺の掌を押し返してきた。そして、俺の胸からは押してきた掌の感触が伝わってきた。

まさか?とスカートをたくし上げ、パンツの中に手を入れた。

俺の指先には、あるべきモノは触れることは適わず、代わりにソコに穿たれた溝の存在が知らされてきた。
とにかく、この「目」で確認しなくては…
と、着ている服を脱がし始めた。ブラウスを脱ぐとブラジャーに包まれたバストがあらわとなった。
更にブラを外すと、形の良い(俺が本物の女であれば…)誰もが羨む乳房が現れる。
その先端には程良い色と大きさの乳首があった。

ふと床の上を見た。
そこには脱いだばかりのブラジャーとブラウスがある筈だった。が、そこにはさっきまで俺が着ていたTシャツとワークシャツがあった。もしや…とスカートを脱いだ。
床に落とされたスカートはしばらくするとジーンズのズボンに戻っていた。

俺はパンツ一枚…と赤い靴を履いたまま寝室に向かった。

パジャマに腕を通してみた。パジャマはあっと言う間にネグリジェに変わっていた。
ワイシャツに背広を着てみた。それは女物のスーツに変わった。
押し入れの奥から高校時代の学生服を出してみた。それはセーラー服に変わっていた。

俺は床の上に座り込んでいた。セーラー服のスカートの裾がめくれ、瑞々しい太股を覗かせていた。
こんな娘が目の前にいたら、俺は即、押し倒していただろう。だが、この娘は俺自身なのだ。

俺は靴を履いたままだった事を思い出した。足の先を見ると、確かに俺は靴を履いていた。が、それは包みに入っていた赤い靴とは色合いも形も違っていた。
靴の色は赤ではあったが、最初のような真っ赤ではなく、茶色に近い落ち着いた赤であった。
形もまた変わり、かかとが低く女子高生らしいデザインになっていた。

即にこの靴が普通のモノでないと解る。この靴に全ての原因があると理解した。
次に取る行動は「この靴を脱ぐ」事である。が、ピッタリと俺の足に填った靴はどうやっても脱げなかった。
靴は着ている服に合わせて形を変えているのかもしれないと、セーラー服を脱いでパジャマを着てみた。パジャマは先程と同じにネグリジェに変わった。
靴はどうなったか?と足元を見ると、薄っペラな室内履きに変わっていた。色は淡いピンク色に近い赤だった。
やはり、これも脱げない。

しばらく思案して、俺は海パンを取り出した。
パンツを脱ぎ、見た目は「女」の股間に海パンを穿かせた。

すると、自然法則を無視するように、海パンの上端がするすると昇り、腹と胸を覆った。背面も同様に覆われ、肩のところで結合された。
伸縮性の高い生地が「俺」の体型を際立たせる。海パンは女物のワンピースの水着に変わっていた。
足元を確認する。
思った通り、真っ赤なビーチサンダルになっていた。かかとを上げるとサンダルのゴム底から離れるのが解った。
が、それでもビーチサンダルは俺の足から離れようとはしなかった。鼻緒に指を掛けて隙間を作ったが指の付け根の所がしっかりと密着していた。

とにかく、靴が脱げない事は解った。モニタ期間は一週間となっていたので、一週間後には何らかの変化があるだろうと考えた。
生活する上で「靴」を穿いたままというのには抵抗があったが、パジャマを着れば室内穿きになるし、ビーチサンダルなら風呂で濡らしても問題ないだろう。
問題は、この「女」の肉体だ。顔は良く見れば「俺」と解るが、この体型では端から「俺」だとは見てもらえないだろう。男装でもして体型を隠すことができれば良いが、何を着ても女物に変わってしまうのだ。
つまり、この一週間は「男」の俺は存在を失っていることになる。幸いにも、明日からは大型連休なので最後の2日に年休を取れば、何とかごまかせる。
しかし、食料は買い置きが少ない。到底一週間をこなせる量などない。何かしら買い足す必要がある。その為には外に出る必要があった。
「俺」ではない、それも「女」が、俺の部屋に出入りしている所を見られたらどう言い訳すれば良いだろうか?最悪の場合、「俺」に女装癖があると勘違いされかねない。
とりあえず「女」の俺を従姉妹と仮定しよう。「俺」が長期休暇を利用して旅行に出ているとする。その留守に家の掃除とかに手伝いに来た…と言っても、毎日この部屋にいる理由がない。
逆に、俺が本当に旅行に出てしまったらどうだろうか?この近所をうろついていれば知り合いに合う確率は無視できない。旅先であればそんな事もないだろう。
旅行鞄は出てから買えば良い。必要最小限のものだけ持って、旅に出るのだ!!

 

幸せの赤い靴 -2-

-2-

朝が来た。適当に食事を済ませ、荷造りを始めた。
この状況で必要なものはパジャマと海パンである。何しろ脱げない靴は着ている服に合わせて形が変わるのだ。寝るときと風呂に入る時だけはハイヒールなどを穿いていたくはない。
それ以外の着替えは旅行鞄を買ってからにする。財布の中には現金は乏しかった。カードで引き出すにしても、「本人でない」と問い質されるかも知れない。頻繁に下ろさないでも良いようにしておきたい。
財布の中には免許証とクレジットカードもあったが、しばらくは用を成さないだろう。しかし、元に戻った時には使えるかも、と財布には残しておいた。
折り畳みの傘は広げてみたが服のように女物に変わるような事はなかった。洗面道具も同じだった。男物の歯ブラシや髭剃りを持っていては不審がられるだろう。

荷物がまとまったところで軽く部屋を掃除しておいた。
外に出る前に、もう一度鏡を覗いた。勝手に施された化粧に乱れはなかった。ブラウスもちゃんと着られている。スカートの下では真っ赤なサンダルが穿かされていた。
既に靴を穿いているのでそのまま玄関に降りた。ドアをそっと開け、近所の様子を窺う。だれもいないので、素早く外に出て鍵を掛けた。

部屋の中で練習をしておいたので、女物の靴でもふらつかずに歩けるようにはなっていた。駅前で買い揃えようとしていたが、少し離れた所にした方が良いと思い切符を買って電車に乗った。
結構空いていて座席にも空席が沢山あった。すぐに降りるとは分かっていても、いつもの癖で空いている場所に腰を下ろした。

ふと気づくと、ちらほらと視線を感じた。
俺が「男」だとバレたのか?いやそんな筈はない!と自問自答していたが、すぐに原因が判った。俺はいつもの癖で座ったが、今は女の姿である事を失念していた。無造作に座ったためスカートは乱れ、いつものように脚を開いて座っていたのでスカートの間から、太股がセクシーに顔を覗かせていた。
慌てて膝を合わせ、スカートの乱れを正した。電車が駅に止まると同時に席を立ってホームに降りた。次の電車ではどんなに空いていようとも座るまいと心に決め、待っている間も誰も座っていないベンチを見ないように体の向きを変えて立ち続けていた。

降りた駅は大きなショッピングセンターにつながっている。ここで一通りのモノが揃う筈である。
鞄は最後に買うとして、小物を買い求めていった。歯磨きはトラベルセットで一式を揃えた。ふと見ると化粧品のトラベルセットも置いてあった。
俺は化粧品などなくとも勝手に化粧させられてしまうので、あまり考えてはいなかったが、女のバックの中に化粧道具が何もないのは不自然に見られる。
俺は化粧道具も一式セットになったトラベルセットと口紅を一本買った。
着替えを持ってきていない事にも気付いた。少なくとも下着だけは替えを持っておく必要がある。が、男物の下着が勝手に女物になるとは言っても、この姿で男物を買う訳にもいかない。
俺は意を決してランジェリーコーナーに足を踏み入れた。男物にはないパステルカラーの洪水に圧倒されながらも、手近のブラジャーを手に取ってみた。
AとかBとかCとかがバストの大きさだと言う事は知っていたが、自分がどのくらいなのかは見当がつかない。ブラジャーのタグにサイズが書いてあるとすれば、今俺が着けているのにもあるのでは?と考えた。
とは言っても、この場で服を脱ぐ訳にもいかない。幸いにも、服の売り場には試着室と言うものがあった。売り場をうろついてフリーサイズの服を手にして試着室に入ってみた。
ブラウスを脱ぎ、ブラの肩ひもを外して半回転させた。フックの近くにはタグがあり、サイズもしっかりと書かれていた。

ブラを元に戻し、ブラウスを着ようとした時「いかがでしたか?」と女の声が掛かった。さっきから俺に注目していた販売員だろう。「もう少し待ってください。」そう言って持ってきた服を着てみた。
「どんな感じかしら?」と努めて女らしく話してみた。「お客様はスタイルがおよろしいから…よろしければ、こちらも試着されてみては如何かしら?」と別の服を差し出してきた。
ブラのサイズを確認するためだったので、今着ているのも殆ど選ばずに手にしたものだった。販売員の差し出したものは確かに俺に似合いそうであった。
気がつくと、試着室の中には数着の服が残されていた。俺が試着して気に入ったものがここに残っている。俺は決断をする時と感じた。
「これをお願いします。」と真ん中の服を差し出していた……って、俺は今迄何をしていた?!下着を買いにきた筈が何で服まで買っているんだ?
それも、女の服の好き嫌いを自分で着てみて判断していたのだ。その判断基準は「俺」に似合うかどうかだった。俺は女になりきって服を選んでいたようだ。

紙袋に入れられた服を受けとると、本来の目的である下着と旅行鞄を購入して、近くのファミレスに入っていった。
昼時で昼食を摂るのもあったが、俺はここで旅行鞄に買ってきたものを詰め込むことにしていた。BOX席に陣取り、日替わりランチを頼むと荷造りを開始した。
この先、何が必要になるか判らなかったので、かなり買うものを控えた筈が、すでに鞄の半分以上が埋まってしまっていた。

食事を終えた所でトイレに向かった。一瞬ためらったが、女性用の方に入った。
用を足して出る前に鏡を覗いた。少し口紅が落ちている。席に戻ると鞄の中から口紅とコンパクトを取り出した。
鏡を見ながら唇に口紅を付けながら、ふと食事の度に鞄を開くのも面倒と思い至った。そう言えば、女性はいつも手ぶらという事はない。そこで、ハンドバックも買う事にした。

 

幸せの赤い靴 -3-

-3-
 
箱根に向かう特急電車に乗っていった。端から見れば女の独り旅である。
電車の中で宿を探した。数日の滞在であるが、靴が脱げない状態では和室の旅館は避けなければならない。安めのホテル仕様の宿が予約できた。
一息つく間もなく、電車は小田原の駅に着いていた。タクシーで宿まで送ってもらう。

チェックインは偽名を使った。悪いとは思ったが、この姿で男の名前は不審がられる。さすがに住所は正直に書いておいた。
部屋に入りると、ベッドの上に浴衣が置かれていた。それも、画一的な「旅館の浴衣」ではなく、赤地に百合の花が描かれた女性用の浴衣だった。
巾広の帯もセットになっている。着慣れない娘の為に着付けの冊子が添えられていた。
これなら俺でも着られるかも…と、鞄を放り投げて浴衣に袖を通してみた。

冊子に書かれた通りに着てゆくと、初めての俺でも何とか観られるくらいのできばえになった。穿いていた靴はいつの間にか赤い鼻緒の下駄に変わっていた。
ボ~ンと窓の外から音が聞こえた。見ると夕闇の空に花火が上がっていた。部屋の窓からは立木が邪魔をして良く見えないようだった。俺は浴衣のまま部屋を出ていった。
フロントで団扇を配っていた。ビューポイントも一緒に教えてもらった。
下駄を鳴らして河原に向かう。まだ、そう多くの観客はいないようだ。空いているベンチに腰を下ろすと、次の花火が打ち上げられた。
いつの間にかベンチは満席となり、立ち見の人も多くなっていた。花火が上がる度に拍手と歓声が上がる。俺も雰囲気に呑まれて「タマヤ~!カギヤ~!!」と叫んでいた。

 
花火が終わると集まっていた人々が三々五々と離れて行く。俺は河原を通り抜けてゆく風が心地良くて、しばらくベンチに座っていた。
「お一人ですか?」初老の上品そうな男が声を掛けてきた。
「え?ぁ、はい。」と、俺は答えてしまっていた。
「花火も良いですが、静かな河原もまた風情がありますね♪」と男は俺の隣に腰を下ろした。「東京の方ですか?」と続けて聞いてくる。俺は「ええ。」とだけ答えておいた。
「私は山梨の生まれですが、全国を転々としていました。それでも東京が長かった所為か、何故か箱根に来ると落ち着くのですよ。」と男は空を見上げた。
 
話の流れで、俺は男に食事ご馳走になった。そのままの流れで男の宿にもついていった。玄関で下駄を脱ぎ、畳敷の廊下を進んでゆく。
部屋に入ると卓の上に急須があったので、お茶を入れてあげた。
男が俺の隣に座った。
その手が肩に廻る。もう一方の手で卓を部屋の隅に追いやった。俺の口が男の唇に塞がれる。
頭の中がボーッとしてきた。いつの間にか帯が解かれ、胸がはだけていた。男の手がブラをずらして直に乳房を揉みしだいていた。
甘美な刺激が俺の全身から力を抜き去ってゆく。俺はゆっくりと畳の上に横たえられた。
「あぁん♪」俺の口から愛らしい吐息が漏れていた。胸を揉んでいた手の指が、先端の蕾を弄び始めた。
もう一方の手は腰から太股を撫であげてゆく。今まで感じた事のない快感に翻弄されていた。
ジッ!!と俺の股間から音がしたように聞こえた。それが想像上の音だとしても、俺の股間には顕著な変化が現れていた。

俺は濡れていた。

男の手がショーツの中に入ってくる。割れ目に指を這わせ、濡れ具合を確かめているようだ。
「良いよね?」
それが何を意味するか判っていたのは俺の男の意識であった。女として、これから俺がどうされるかなど想像できてはいなかった。
それでも俺は首を縦に振っていた。
「ここでは不味いな。場所を変えよう。」と男はその年には似合わない逞しい腕で俺を抱きあげていた。
隣の部屋には布団が敷かれていた。俺はその上にそっと下ろされた。

俺はショーツしか着けていなかった。
男の手が最後の一枚を剥がそうとした。
「恥ずかしいわ。暗くして…」俺の言葉に部屋の明かりを消し、隣の部屋との境の襖が閉ざされた。
俺は腰を浮かせ、男がショーツを脱がすのを手伝った。俺の上に男が伸し掛かってきた。素肌が触れ合う。男の肌の暖かさに心が癒される…

俺の脚が持ち上げられた。
男の腰が俺の股間に割り込んでくる。逸物の先端が俺の股間に触れていた。
「いくよ♪」
男の優しい声とともに俺の内に異物が侵入してきた…

 

幸せの赤い靴 -4-

-4-
 
気がつくと、俺はホテルのベッドで寝ていた。
股間に手を充てると、ショーツが湿り気を帯びている。その奥の秘洞は、男のモノに満たされていた余韻を残していた。
ふと足元を見る。

俺は素足だった。

赤い鼻緒の下駄は壁際に揃えられていた。
(靴が脱げている?)
俺はベッドから降り立ち、鞄の中からシャツとズボンを取り出してみた。
シャツに袖を通したが、それはブラウスになる事はなかった。ズボンもスカートにならない。何が起こったのだろう?
鏡には男物のシャツとズボンを穿いた素面の女がいた。

 
時計を見ると、男との約束の時間が近づいていた。
出掛けに販売員に売りつけられた(でも、俺としては気に入っている)女物の服を着た。当然だが、勝手に化粧がされる筈もない。俺は他の女性と同じように鏡の前に化粧品を並べ、自分の顔に塗り込んでいった。
男から電話が入った。「あと少しだから下で待っててもらえます?」と答えて、俺は鏡の中の自分の姿をチェックした。
一点を除き問題はなかった。
問題は靴である。壁際には赤い鼻緒の下駄に並んで、あの赤い靴が置かれていた。もう一度穿いて、再び脱げる保証はない。
しかし、下駄で行く訳にもいかない。それに、下では彼が待っているのだ…

俺は赤い靴を履いた。

 

登山電車に揺られて箱根の奥に向かってゆく。終点の先にはケーブルカーが待っていた。更にロープウェイを乗り継いでゆくと、眼下に芦ノ湖が見下ろせた。
「綺麗ね♪」俺が景色に見入っていると、彼が湖に浮かぶ船を指した。「次はアレに乗ろう。」

水面を渡る風が俺の髪をなびかせる。
「気持ち良い!!」俺が両手を広げると「タイタニックかい?」と聞かれた。「何それ?」と返すと「いや、いいんだ…」と何故かしょんぼりしている彼が、どこか可愛いと思ってしまった。

箱根の関所跡を巡り、湖畔のレストランで食事をした。
美術館で絵画に親しみ、夕暮れまで湖の脇を散策した。
俺はごく自然に彼の腕に身体を寄せていた。

彼が立ち止まる。俺が彼を見上げると、彼の顔が近づいてきた。
俺はそのまま、ゆっくりと瞼を閉じた。
彼の腕が俺を抱き締める。
俺の口が彼の唇で塞がれる。俺が閉じていた唇を開くと、彼の舌が入り込んできた。
俺もまた彼を抱き締め、彼の口から甘露を吸い取ってゆく。全身に疼きが始まる。股間がしっとりと潤みを帯びてきた。
「だめ…立ってられない…」もたれ掛かる俺を彼はしっかりと抱き止めてくれた。「君は感じ易いんだね♪」
フッと首筋に息を吹きかけられただけで、俺は「ああぁん♪」と艶めかしい媚声をあげてしまうのだった。

俺達はタクシーでホテルに戻っていた。
即にも服が脱がされた。下着も外される。熱気を帯びた肉体は寒さを感じない。
俺は四つ這いになって彼の下に行く。頭を撫でてくれた彼の太股に子犬のように頬を擦り寄せた。
「良い?」と尋ねながらも、俺は彼のズボンのベルトを外していた。チャックを下ろすと「男」の匂いが漂ってきた。
トランクスの中から彼の逸物を引き出した。指先で感触を愉しんだ後、おもむろに口に含んだ。
口蓋と舌先で弄んでいると、次第に硬さを増してくる。俺の口の中がペニスに溢れる。
納め切らなくなり、一旦口を離した。年齢を感じさせない逞しさで、ソレは俺の目の前で反り返っていた。
俺は口を近づけた。今度は舌先だけで責めあげた。シャフトの部分だけでなく、袋の裏側まで舐めあげた。
先端に戻り、鈴口に舌を這わせた。充血してはち切れそうな尖端を唾液まみれにした。
しかし、それは俺の唾液だけではなく、鈴口から漏れてきた彼の先走りも含まれているみたいだった。
再び先端を口の中に入れた。太いストローを使っている感じで吸い上げていると「ううっ」と彼がうめいた。
ドクリと塊がシャフトを上ってくる。そして、俺の口の中に彼の精が吐き出されていた。
ゴクリと喉を鳴らして飲み込んだ。
「良いのかい?」と彼
「貴方のだから平気よ。」と俺…
「じゃあ今夜はサービスしてあげなくちゃな♪」

俺は彼の上に跨っていた。
今夜の俺は昨夕のような受身ではなく、積極的に快楽を求めていた。どうすれば一番感じるか?試行錯誤を繰り返した。様々な体位を試し、何度も絶頂を経験した。
「あん、ああん♪」俺は嬌声を上げ、自らの手で乳首を摘み上げた。前後左右に腰を振り、快感のボリュームを上げていった。

 

幸せの赤い靴 -5-

-5-

「どうしよう…」
素肌にバスタオルを巻いたままの姿で、俺は思案に暮れていた。「着て行く服がない…」
俺の手元にあるのは、昨日着ていた服しかない。壁には浴衣が掛かっているが、花火とかのイベントでもない限り着ることはない。
着てきたブラウスは男物のシャツに戻っていた。ホテルの売店にサマードレスが置いてあったが、似合いそうもなかった。
結局、昨日と同じ服で彼の前に立つことになってしまった。
「ごめんなさいね。こんな事になるとは思っていなかったので、これしか着るものがないの…」
「なら、買いに行こう。小田原はそれなりの都市だから買うのに困らないよ。お城もあるから観光にもなる。」「じゃあ観光が先ね。女の買い物に付き合わせちゃ悪いからね♪」「いや、買い物が先だね。僕はまた違った君を見てみたい。もちろん服は僕のプレゼントだよ。」「そ、そんな…悪いわ。」「大丈夫だよ♪」
俺は彼に促されて、タクシーに乗り込んでいた。

小田原は城下町とは言いつつも、古くさい感じはしなかった。どちらかと言うと若者の街という感じがした。
何軒かブティックを巡ってみた。試着もしてみる。
とは言っても俺の好みではなく、彼が気に入ったものが着させられる。結局エプロンドレス風のワンピースに決まった。
幼っぽく見えるが、可愛くて俺も気に入った一品だ。「このまま着て行くから、着てきたのは他のと一緒にホテルに送っておいてくれ。」と俺自身が買った服と一緒に荷造りされていた。

俺達はそこから歩いてお城に向かった。

「あっ、ゾウさんだ♪」
思わずはしゃいでしまった。お城には動物園があり、天守閣の下を像が歩き回っていた。もちろん像以外の小動物や鳥達もいたが、こんな所に像がいるとは思ってもいなかったのだ。

そのまま夜まで小田原の街にいた。「ZOO(動物園)」というラブホテルでご休憩。女として抱かれる事が当然のようになっていた。
彼との交わりは旅先でのアバンチュールと片付けなければいけないとは判っていたが、彼との関係にどんどんのめり込んでゆく自分がそこにいた。
女の快感に嬌声を上げている。このままの時間が永遠に続けば良い。彼に抱かれて悦楽に身を任せていたい…

俺は自分が男であった事を忘れ果てていた。

 

「もう、長い休みも終わりね…」俺は彼の胸を撫でていた。
「そうだな…僕達は旅先で知り合い、そこで別れる…それだけの関係だったな。」「良い思い出になったわ。」
何故か、俺の目が潤み、涙が落ちていった。
「最後にもう一度…」
彼が俺の上に伸し掛かってきた。そのまま股間に割り込み、俺の中に入ってきた。俺は脚をM字に開いていたが、彼と更に密着するように彼の腰に足を廻した。
優しい挿入が繰り返される。彼も俺も静かに高まりを迎えていった。
俺の中に彼の精が吐き出された。
快楽の絶頂とともに、俺は意識を失っていた。

気が付いた時
彼の姿は、もうどこにもなかった…

 

箱根に来たのに、今まで温泉に入っていなかったのを思い出した。
チェックアウトまでまだ時間があったので、大浴場に向かった。
誰もいない湯船に身体を浮かべる。自分の肉体が「女」であることに違和感が無くなっていた。寝湯、サウナ、打たせ湯と一通り入っていった。
露天風呂で休んでいると新客がやって来た。若い女の子だった。
「お独りでご旅行ですか?」と声を掛けられた。
「えぇ、でも今日のうちに帰ることになってるの。」「何日か居られたんですか?どこか良い所があったら教えていただけません?」
俺は彼に連れられて巡った場所を話していた。
みんな覚えていた。
女として彼に愛された全てが鮮明に甦ってきた。
「大丈夫ですか?」
彼女が身体を寄せてきた。俺の隣に全裸の女の娘がいる。何の警戒心もなく、俺に触れてくる。
が、今の俺はそれに対して性的な興奮を覚えることはなかった。
「少しのぼせちゃったかしらね。この辺で失礼するわ。良いご旅行をね?」
俺は露天風呂から上がり、脱衣所に向かった。

鏡に映っているのは、何の変哲もない女の裸体だった。さっきの娘より幾分か年を経ているが、まだまだ若い女の裸体だ。
これが「俺」なのだ。
別に手術とかをした訳でもない。不可思議な力で「女」にされた俺は、生まれた時から女であった娘と何ら変わる所がない。俺に無いのは女の子として成長してきた記憶だけだろう。

幸せの赤い靴 -6-

-6-

「女」としての生活ももうすぐ終わる。
あと二日だ。
自宅に戻り荷物を置くと、残りを外に出ないで済ませるよう、食料を買い溜めておく。
商店街を歩いているとショウウィンドウに可愛らしい服が飾られていた。欲しいなぁと思ったが、あと二日で男に戻ってしまうのだ。これ以上女の服を買っても着る機会はない。
誘惑を追いやって、スーパーで食料品を買い込んでゆく。いつもなら惣菜モノだけで済むのだが、何故かあれもこれもと目移りしてしまう。出来合いのものより、食材を買って自分で調理する方が安いし、バリエーションが得られる。
カゴの中にはいつもの「俺」が買うものとは全く違ったもので埋まっていた。

トントントンと包丁を鳴らして下ごしらえをしてゆく。パットに野菜が切り揃えて並べられた。
普段は義務的な感じで料理をしていたが、何故か今日は調理をする事自体が楽しくて仕方がない。
フライパンを揺らして、次々に料理が仕上がってゆく。できたものから食卓に並べてゆく。ご飯も炊けたので、箸と茶碗を並べて置いた。

…って、何で二人分の食器が並んでいるんだ?
との疑問は即に回答されることになった。
ガチャリ
と玄関のドアが開いた。「ただいま。」と男の声。俺はエプロンを外して玄関に向かっていた。
「お帰りなさい♪」と当然のように返事をしていた。
玄関から上がってきた男は…「俺」だった。

俺の目の前にもう一人の=男の「俺」がいた。
「何故?」と頭の中は疑問付で埋め尽くされながらも、俺の体は「俺」に抱きついていた。「俺」の腕に抱かれて唇を合わせる。
キスが終わると「晩ご飯出来てるわよ♪」と「俺」を食卓に誘っていた。

「美味しいよ。」と褒められて、俺は上機嫌だった。
「旅行は楽しかったかい?」「えぇ。でも、あなた独りにさせちゃってごめんなさいね♪」「良いんだよ。君が満足してくれればね。」
俺の意思とは別に、会話が進んでゆく。それは俺が思い描いていた家庭の情景であった。こんな風に自然な感じで会話できる女性が妻になってくれないかなぁ…などと思っていた。
ピピピッと音がした。
「お風呂が沸いたようね。お先にどうぞ♪」と夫を風呂場に送り出す。夫のパジャマとトランクスを用意し、俺は再びエプロンを着けて食器を洗い始めた。

風呂から上がった夫は、いつもの俺と同じように床に寝転がりTVの野球中継に見入っていた。
洗いモノを終えた俺は、風呂に入った。
化粧を落とし、洗い終わった髪をタオルで巻いた。ネグリジェを身に着け夫の下に向かう。
脚を崩して床に座ると、夫の頭が俺の太股に移動してきた。俺は野球中継が終わるまで、夫の顔とTVを交互に見続けることになる。

それは俺が理想としてきた夜の一時だった。そして、TVが終われば二人で寝室に向かう。俺の妻は人一倍感じ易く、誰よりも淫乱なのだ…

 

朝、目覚ましが鳴る前に俺は起きていた。
まだ寝ている夫を起こさないようにベッドを抜け出し、朝食の支度を始める。
普段はトースト一枚を齧るだけだが、俺の理想は白いご飯に海苔と卵焼だ。冷蔵庫から卵を取り出し、殻を割り、手早くかき混ぜる。調味料で味を整え、フライパンで焼上げてゆく。我ながら会心の出来だ。
味噌汁と漬物の準備ができた所で夫を起こしにゆく。「あなた♪朝ですよ。起きてくださいな。」俺がこうやって起こされたいなと思っていた通りに夫を起こしていた。
布団の中から二本の腕が伸びると、前屈みになっていた俺を捕らえた。「きゃん♪」と小さく叫んで、俺は布団の中に倒れた。
そのまま数度、キスが繰り返すされた。「お早う。」と夫。「夕べのキミは素敵だったよ。」その一言で俺ね顔は真っ赤に染まった。
夫婦の営みとはいえ、毎晩、あれ程までに乱れていては体が保たないと思われるくらい、俺は激しいSEXに酔い痴れていたのだ。
俺は昨夜の記憶から強引に抜け出すように、上体を起こし、首を左右に振った。
「思い出させないでよね♪もう朝なのよ。早く支度しないと遅れちゃうでしょ?」とベッドから降り、夫のワイシャツとネクタイを用意した。

 
「いってらっしゃい♪」とキスをして夫を送り出すと、俺には主婦としての一日が待っていた。
洗濯機に俺の下着と夫の下着を放り込む。洗剤と柔軟剤を入れ、スイッチを入れた。
ベランダに布団を干し、部屋に掃除機を掛ける。洗濯機が完了を告げたので、取り出してハンガーに吊るしてゆく。元は俺のものであった男物の下着と、今の自分が身に着けている女物の下着が並んで干されてゆく。
男物の衣類は、もう俺のものではない。それは、俺の愛する「夫」のものなのだ。

俺は「夫」を愛していると再認識していた。再び昨夜の光景が脳裏に展開される。ソレを意識した途端、ジュンと股間が潤む。
俺はエプロンを外し、寝室に向かっていた。

そろそろ昼ご飯の支度を始める時間だった。しかし、それは俺一人の分だけである。一食くらい抜いても問題ない。それよりも、貴重な午後のひと時を有効に使いたかった。
スカートを外し、ベッドに上る。濡れかけたショーツの上に指を這わせた。
昨夕はこの中に逞しい夫の分身を迎え入れていたのだ。俺の膣を満たしたモノを思い出す。それだけで愛液の量が倍増した。

俺はショーツを降ろした。サイドテーブルの引き出しから、バイブレータを取り出していた。
脚を開き、股間に圧し当てる。バイブはズブズブと俺の中に沈み込んでいった。
昨夜の快感を反芻する。俺の膣を埋め尽くしたペニスが与えてくれた快感を思い出す。

俺はバイブのスイッチを入れた…

 

幸せの赤い靴 -7-

-7-

気が付くと陽は西に大きく傾いていた。
俺は慌てて濡れたショーツを替えると、ベランダに干していたものを回収した。夕食の支度の前には食材の買い出しがある。
服の乱れだけではなく、化粧の乱れも直さなければいけない。と、自分が女であることを疎ましく思いながら、鏡の中の顔に見入っていた。

程なくして食材の詰まったレジ袋を腕に提げて戻ってきた。
エプロンを着け食材と格闘しているうちに、夫の帰宅時間になっていた。チャイムが鳴る。「開いてるから、入って来て♪」
カチャリとドアが開いた。「それでは失礼します。」
「だ、誰?!」
それは女の声だった。料理の途中だが、火を止め、振り返った。
「あ、貴女は…」

彼女は箱根の温泉で出会った女の娘だった。しかし、あの時は2~3の言葉を交わしただけで、住所など話した筈もなかった。

「今夜が最後よ。」
と彼女が言う。
「何の事?」と俺
「モニター期間は一週間と書いてあったでしょ?」「あ、貴女があたしを?」「そう、あなたを女にしてあげたのはわたし。二重の意味でね♪」
「二重の意味?」俺が理解していたのは、あの赤い靴を送りつけてきたのが彼女であったという事。つまり、俺を「女」にした張本人であったと言うこと。「二重の意味」と言うからには、もう一つの「何か」がある筈だ。
「解らないわよね。でも、これならどうかしら?」
と、俺の目の前で彼女の姿が大きく歪んだ。

次の瞬間、俺の前に居たのは別の人になっていた…彼は、俺が箱根で知り合った男だった。
俺は彼とSEXをして「女」の快感を教えられたのだ。そう、もう一つの意味で「女」にされたのが彼であった。
「どうでしたか?あなたの理想の家庭は?ご主人とのSEXは私より良かったですか?」彼がにっこりと微笑み掛けてくる。
俺の頭の中は混乱していた。
彼は俺を女にした彼女と同一人物だった。彼は俺が女にされた事を知った上で俺に近づいてきた。
「何故?」

「貴女が理想の家庭を経験するためには必要な事だったのですよ。貴女が女である事に慣れ、男を受け入れる事に嫌悪感がないように導くのが私の役目だったのです。」再び彼の姿が歪む。
「で、今夜が最後の夜だから、君の一番相性の良い相手とSEXさせてあげようと思って彼らを呼び寄せた。っていう訳だ。」
そこに現れたのは俺の夫…男の時の「俺」…の姿だった。
「最後の一夜だ。俺に抱かれるもよし、初めての男に抱かれるもよし。目先を変えて女同士ってのもアリかもね♪」彼女は元の女の娘の姿に戻っていた。

「ふう~」と俺は溜め息をついた。
「兎に角、今は晩ご飯の支度をしてるから、TVでも新聞でも見てて待っててくれないかしら?貴女があたしの夫でないとしても、料理は二人分作っちゃっているから、ちゃんと食べてちょうだいね!!」
俺はそれだけ言うと料理を再開した。

無言のまま食事が終わった。俺は洗いものを終えると、ゆっくりと風呂に浸かった。
女の体とも今夜で最後となる。女の肉体をひとつひとつ確認するように磨きあげていった。
俺は俺の最も好みの「女」なのだ。もう二度と出会う事はないだろう。この一週間の出来事が次々と思い浮かんできた。
俺の手は自然と自らの股間を慰めていた。

彼女は寝室で俺を待っていた。
「ねえ、決まった?」と彼女。俺の答えは決まっていた。「別に夫や箱根の彼でなくても良いでしょ?貴女は何にでも変身できるのでしょ?」「え?ええ、まあ。」俺の質問は彼女の意表を突いたようだ。
「なら、あたしはあたし自身としてみたい。あたしが理想としていた女を一度で良いから抱いてみたいの。」
「貴女の相手が貴女自身という事は了解したわ。」俺の目の前で彼女の姿が歪み、俺の理想の「女」…今の俺自身と同じ姿が現れた。
「でも、ひとつだけ表現が違ったわね。」彼女は俺に近づくと、俺をベッドに押し倒した。「あくまでも、抱かれるのは貴女の方なのよ。貴女は貴女自身に抱かれて思う存分にイって頂戴ね♪」
 

…俺は…

 
俺は俺の「理想の女」の手でイかされてしまった。
何度か、彼女を組伏せようとしたが、その度に俺の感じる所を責められて、逆に俺の方が喘ぐことになってしまう。
肉体は女同士であるが、俺の意識は男のままであった。しかし、その立場は彼女に主導権を握られ、俺は受け身の立場でイかされ続けた。
男と違い、出すものが尽きればそれでおしまいとはならない。気を失っていても、新たな刺激に目覚めさせられ、再び快感の坂道を昇って行くのだった。

 

 

 

ベッドの上で目覚めた時、部屋の中は俺一人だけだった。
机の上に置き手紙が残されていた。
「モニターのご協力、ありがとう御座いました。貴重なデータが収集できました事、感謝致します。お礼といたしまして、この度の「幸せの赤い靴」は回収致しません。末永くご愛用くださいますよう、よろしくお願いいたします。」

俺はもう、何も考えない事にした。
一人分の朝食を作り、一人で食べ、スーツに着替え、会社に向かった。
タイムカードを打って更衣室に向かう。俺はロッカーに吊るされた制服に着替えると、自分の席に座る。
いつものように仕事を始めようとした時、課長から声を掛けられた。「今晩、プライベートで飲みに行かないか?」

「幸せの赤い靴」の効果が早速現れたようだ。独身の課長は女性社員達の憧れの的だった。俺も彼となら結婚したいな♪と思っていたのだ。

その夜、俺は彼に抱かれていた…

病める時も… -1-

病める時も…

-1-

会社の健康診断の最中に、俺は別室に移された。

最近、気にはなっていた。乳首が煮豆のように膨らんでいたのだ。担当医の2~3の質問に答え、胸囲を計られた。
「TS病だね。」と一言。それは、最近話題になっている病気である。伝染性はないが、都会の成人男性の間で急速に広まってきていた。
TS=トランス・セックス、すなわち性転換を起こす病気である。死ぬことはなく、熱や痛みも伴わない。単に、男性の肉体が徐々に女性のものに変わってゆくだけである。
しかし、病気自体で死ぬ事はなくとも、精神的に追い詰められ、自殺者が多く発生したため、異例の速さで法整備が行われていた。

翌日の朝礼で俺は部長に呼ばれ皆の前に立たされた。
「加藤君が昨日の健康診断でTS病と診断されました。この病気は伝染性はありませんので、これまでと変わらずに接してあげてください。また、この病気を理由に中傷・不利益な待遇が行われた場合、パワハラ・セクハラと同様に懲戒の対象となる事を覚えておいて下さい。」
部長の言葉の間、同僚の男達の視線が俺の胸に集中していた。ワイシャツには乳首の膨らみがくっきりと浮き出ていた。

席に戻りパソコンを起動すると、社内の掲示板に社長の名前で、部長の言っていた事がそのまま掲載されていた。
すなわち、俺の病気の事は全社に知れ渡っている事になる。誰も直接俺に話し掛ける事はないが、遠くから物珍しげに俺を見ている。それはフロア内に限らず、社内の至るところから視線が感じられた。

 
今まで浴びたことのない視線に一日中晒されただけで、俺はくたくたになってしまった。
重たい気分を引き擦って家に辿り着くと、妻が小冊子を手に待ちかまえていた。
「会社から速達で送られて来たのよ。何で病気の事、即に話してくれなかったの?」
小冊子の表紙には「TS病のご家族の方へ」と書かれていた。

「昼間のうちに市役所の手続きは済ましておいたわ。」と一枚のカードが手渡された。「これを見せれば、下着や化粧品が安く買えるのよ。まあ、無いとは思うけど、これを見せれば女性専用車にも乗れるし、映画館なんかでのレディース割引もしてもらえるそうよ。」
カードの裏面には名前をサインする欄が二つあった。上が男性名、下が女性名らしい。「女性名が決まるまでは空白で良いそうよ。決まったら市役所にも届け出が必要だから忘れないでね。」
そうは言われても、乳首以外に変化はない。これから自分が女になり、女の名前で呼ばれるようになるとは、どうやっても想像できなかった。
「明日は休みだから、下着とか買いにいきましょうね。」と言う妻に「良いよ」と返事をしてしまったが、それが自分用の女物の下着を買う事であるとは、下着売り場に連れてこられ、胸にメジャーが当てられるまで、一切頭に思い浮かばなかった。

 

妻は最初にカードを店員に見せた。
「この人、初めてなんでサイズから計ってもらえないかしら。」て俺の背中を押し出した。「上着を取ってもらえますか?」と店員に言われると、妻がさっさと脱がしにかかった。
「Aカップでは、この胸囲の物はありませんね。Bで詰め物と言う選択もありますが、形が崩れ易いですね。それに、初めてですからBでも違和感が大きいと思いますよ。」
「やはりフックのアタッチメントですかね?」「では貼り付けタイプでは如何でしょうか?」「そうね。これでは上下の揃いは無理だしね。」
当事者の俺をさしおいて、話しが進んでゆく。もちろん、俺には当事者と言う意識は皆無であり、彼女達の話しについていくだけの知識も持ち合わせていない。
見せられたブラジャーのデザインの良し悪しなど解る訳もなく、適当に返事をしていた。当然、それを俺自身が着ける事になるとは思ってもいなかった。

次にブラウスのコーナーに連れてこられた。
「ブラをしたら男物のワイシャツじゃ胸が苦しくなるわよ。」と、再びカードを店員に見せ、俺の体にメジャーがあてられた。
最初に持ってこられたのはフリルの沢山付いた華やかなものだった。「サイズを確かめるだけだから、取り敢えず着てみて。」と試着室に押し込められる。
シャツを脱ぎ、上半身裸になると、さっき買ったブラジャーが取り出された。「まだ一人では着けられないでしょ?」と俺の胸に巻き付けると背中のフックが閉じられた。
「まだ、胸がないからコレを詰めておいて♪」とブヨブヨした肌色の塊が手渡された。ブラのカップに詰め込んでみると、俺の胸には女のような膨らみが出来上がっていた。
ブラウスはボタンが左右逆転しているので、なかなか止められない。胸の膨らみが余計に感覚を狂わしている。胸元のリボンは見かねた妻が結んでくれた。

鏡には俺の顔で男物のズボンを穿き、ブラウスに包まれた胸だけは女の様に膨らんでいるアンバランスな姿が写し出されていた。
「良かったら、下も替えてみる?」と妻。俺にスカートを穿かせようとしていると解り、丁重に辞退した。更に、ブラジャーも詰め物の要らない物に替えてもらった。
気は進まなかったが、ブラジャーをする事で膨らんだ乳首に与えられる刺激は格段に減少した。「詰め物がなければ、普通のシャツでも大丈夫じゃないか?」との提案にも何とか応じてくれた。
その条件として、何かで必要になるかも知れないから、1~2のブラウスを購入する事と、肌着としてキャミソールを着なければならなくなった。
ブラウスは必要がなければ着なくても良いし、キャミソールも肩が狭いランニングシャツと思えばそれまでの事。ブラジャーをする事を承諾した限りは、肩紐がワイシャツに浮き出る事は判っているのだ。

その後、いくつかの化粧品を買って家に戻った。

病める時も… -2-

-2-

「加藤さん♪」
朝、席に座る前に女の子に呼び止められた。「いずれ必要になると思うから、ロッカーを用意しておいたわ。見に来てくれないかしら?」と言われ、彼女の後についていった。
「ここは…」俺は声を詰まらせた。「女子更衣室よ。」と彼女がその後をつなぐ。「さあ、入って♪」
「俺なんかが入って良いのか?」「加藤さんはもうすぐ女性になるのでしょ?女が女子更衣室に入るのに何か問題があるの?」
俺は「まだ男だ」と反論しようとしたが、それより先に更衣室のドアが開き、中から伸びてきた腕に引きずり込まれてしまった。

「これが貴女のロッカーよ。」と示された一番端のドアの上部には「加藤」と名前が貼られていた。
ドアを開けると中に服が吊るされていた。「貴女の制服よ。服務規定では女子は制服着用となっているからね。サイズは奥様から伺っていますから問題ありませんよ。」それは彼女達が着ているものと同じ黄色のベストとタイトスカートだった。
「ねえ、着てみてよ♪」その声をかわきりに幾本もの腕が、俺の上着を剥がし、ズボンを擦り下ろしていった。

「あら、綺麗な脚をしているのね。」との声があった。
俺は体型は男のままであったが、女性化は着実に進んでいたのだ。特に体毛は薄くなり、すね毛はまったく姿を消してしまっていた。
病気を告げられてから床屋に行っていないので、男としては大分伸びた髪の毛も、サラサラとした女の髪に近づいていた。
当然、髭等は生えて来ない。眉毛は薄く、細くなっていた。良く見れば、睫毛が長くもなっているのだ。
スカートを穿かされ、ベストを着た俺は胸の膨らみがないのさえ気にならなければ、彼女達と何ら変わらないように見えた。
「ロッカーにパンプスが入ってたわ。これに履き替えて♪」「こっちを見て。口紅付けてあげる♪」「耳元が寂しいわね。このイアリングなんかどうかしら?」
と最後の仕上げが一通りすんだ。俺達はそのままトイレに移動した。もちろん女子トイレだ。
洗面台の鏡に「俺」が写し出された。
俺はもう「女」にしか見えなかった。

 
「次は給湯室ね。お昼には交代で自席で弁当を食べる殿方にお茶を配るのよ。これは規則とかじゃないんだけど、ココでの慣習なのよね。」「ときどきケーキなんかの差し入れがあるから、それで相殺としてるの。」「ついでだから、お茶を入れてみない?」

「ど、どうぞ。」
俺はお盆から湯飲みを部長の机に移した。
「ああ、ありがとう。」と書類を見ながら空返事が返ってきた。折角入れてきてやったのに、もう少し感謝の気持ちを表してくれても良いんじゃないか?と、何故か腹立たしくなった。
「ん?」といつまでもそこを離れない俺を不審に思ったのか、部長が書類から目を上げた。
「君は加藤君か?」と目を丸くする。「ハイ」と答えると「なかなか似合ってるね。今度は私服の君も見てみたいな。」
「部長。それセクハライエローですよ。」と脇から女の子の声が上がった。俺はその場から逃げるように給湯室に戻っていった。

 
結局、その日は一日中制服を着て過ごす事になってしまった。
昼は制服を着たまま、女の子達と近くの喫茶店でランチを食べた。俺にとっては初めての女装外出であった。女の子達に囲まれていたので、不審に思われる事はなかったようだ。
トイレも女性用を使わざるをえなかった。「あたしも」と必ず誰かが一緒に行こうとする。当然、手前で分かれて男子側に行く訳にもいかず、小用にもかかわらず個室に座り込む事になるのだった。

定時後も女子更衣室から集団で出てくると、そのままお茶にしようという事なった。
女の子達に囲まれ、一人だけ「男」がいる状態は羨ましがられるかと懸念したが、雰囲気的にはどこにでもいる女の子達の集団にしか見られなかったようだ。
喫茶店に行くと言いつつも、通り道にあるブティックのショウウィンドウで服のセンスを語らい、アクセサリーショップではあれやこれやと選び始めてしまった。
「加藤さんも髪止めとかでオシャレしてみたら良いんじゃない?」と並んだカゴの中にあった一つを俺の頭に付けた。「どお?」と鏡を向けられた。
「!!」
鏡を見て、俺は口紅を付けたままであった事に気づいた。耳にはイヤリングもしたままだった。
「まだ返してなかったね。ごめん。」と外すと「ついでだからコレも付けてみて♪」と髪飾りと同じデザインのイヤリングが手渡された。
「良いんじゃないの?」と皆が評価する。「加藤さんがあたし達の仲間になった記念に、コレをプレゼントするわね。」と店員に声を掛け正札を外し、会計を済ましてしまった。
俺は、どうやら彼女達と別れるまで、口紅を落とす事ができないと諦めるに至った。

 

「ごめんなさい。アイロンの掛かったワイシャツを切らしてしまったの。悪いんだけど、今日はブラウスにしてくれないかしら?」
多分、今日も制服を着させられるのだろう。そうなれば、ワイシャツだろうとブラウスだろうと大した違いはない。俺はブラウスを着て会社に向かった。

「お早う♪」と女の子に声を掛けられる。「今日はブラウスなのね。」と早速チェックが入った。
結局、そのまま女子更衣室に連れて来られていた。
着替えが終わると、俺は着てきた上着のボケットから昨日買ってもらったイヤリングを取り出した。
ボケットにはもう一つ忍ばせていたものがあった。
口紅だった。
最初に妻と買い物に行った際に買い揃えた化粧品に入っていたものだった。自分の物があるにもかかわらず、他人の口紅を借りるのは気が引けていたのだ。
鏡を見て唇に塗ってみた。

病める時も… -3-

-3-

体型に大きな変化は見られないまま、俺の肉体は着実に変化を続けていた。
先月の病院での診察で、股間に膣が形成される兆候が見られた。そこで、今月からは婦人科で検診するように言われていた。
今日がその検診日であったが、男の姿で待合室に並ぶのが恥ずかしく、妻からワンピースを借りてでかける事にした。
「口紅くらいは付けていきなさいよ。」
玄関に向かおうとすると、妻にそう言われた。俺は会社に着ていってるジャケットのポケットから口紅を取り出し、風呂場の鏡の前で手早く塗りあげた。
「随分手慣れてきたわね♪」
その言葉に俺はドキリとした。妻には会社で女子の制服を着せられている事を話していなかったのだ。
「大丈夫よ。こそこそお化粧する必要なんてないのよ。」ほらと妻は携帯画面を俺に向けた。そこには制服姿の俺が写っていた。
「ミサキとは昔からの友達なのよね♪」ミサキとは俺の会社の女子社員の事だった。そう言えば、制服のサイズも妻に聞いていたと言っていたのを思い出した。
「そのワンピースもあたしのじゃないわよ。いつか着ると思って買っておいたの。」
「行ってくる!!」
俺は何も言えなくなり、語気荒くそう言うとサンダルをつっかけて外に出ていった。

 
気が付けば、俺は制服以外の女装姿で街を歩いていた。ワンピースを着て、女物のサンダルを履き、花柄のショルダーバックを提げている姿はもう、女として街に溶け込んでしまっているみたいだった。
バスに乗り、中央病院前で下車する。エントランスを突っ切り、婦人科のカウンターに診察カードを差し出した。
「あっ加藤さん。」と窓口の娘に呼び止められた。「何か?」と振り向くと、「下の方のお名前、まだ決まっていませんでしたよね。お呼びする際、奥様のお名前を使いましょうか?」
確かに、この姿で男名を呼ばれるのも違和感がある。「それでお願いします。」と言って待ち合いコーナーのソファに腰を下ろした。

 
診察台から降りて、医師の前の椅子に座った。「順調ですね。来週には生理も始まると思います。」

「?」

医師は何気なく言ったが、それは俺にとり重大なキーワードであった。
「生理」
それは俺の肉体が完全に女性化した事を証明するものだった。俺の腹の中に子宮や卵巣が出来上がり、それが「女」として機能し始めたという事なのだ。
いくら、股間にペニスがぶら下がっていようと、生理があるということは、俺が疑いようもなく「女」となったと言う事なのだ。

 
家に戻り、この事を妻に話した。
「生理が来たら、俺もけじめを付けなければいけないと思う。正式に女名を登録し、女として生活する事にする。」
「じゃあ、お赤飯の他にバースデーケーキも用意しなくちゃね♪」
「そういう事ではなく、俺が女として生活するようになったら、お前とは夫婦でいられなくなる。正式に離婚も考えているという事を伝えたかったんだ。」
「あなた、もう誰か好きな男でもできたの?」
「い、いや!愛してるのはお前だけだよ!!  ただ、女同士では夫婦でいられないだろう?」
「そんな事はないわよ。海外では男同士、女同士でもちゃんと結婚できる所だってあるのよ。それに、これまでずっと夫婦できたんじゃない。病気になったからと言って、それこそ…健やかなる時も病める時も…よ♪」
「俺はもう、男としてお前を満足させてやれない…」
「心配ないわよ。女同士でも十分に満足できるわよ。言ってなかったけど、あたしとミサキはそう言う関係でもあったのよ。」

 

俺はその晩「女同士の快感」を十分に味わう事になった。主導権は妻に奪われ、受け身の快感を享受した。
俺は「オンナ」のように喘ぎ、悶え、嬌声を発していた。

 

翌日から、俺はスカートを穿いて出社した。化粧も口紅だけでなく、しっかりと下地を作り、眉も描き込み、目の周りにも塗り込んだ。
「お早う御座います。」俺が女子更衣室に入るとミサキさんが真っ先に声を掛けてきた。「聞いてたけど、すっかりOLさんね♪」
「わたしは今日から、女になります。名前も変えますので宜しくお願いします。」と俺は皆に頭を下げた。

昼過ぎから、下腹部がシクシクと痛みだしてきた。俺はポーチを手にトイレに向かった。
医師の言葉もあったので、今日はサニタリーショーツを穿いてきていた。
ショーツを下ろすと念のために貼り付けておいたナプキンに赤い染みが付いていた。俺は妻に電話した。

「今夜はお赤飯ね♪」

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