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2009年5月31日 (日)

交差点(7/7)

 
「何があったのかな?」
嶋田教授が言った。
「どうしたんですか?」あたしが聞くと、「奇石が消えてしまった。」
「どういう事ですか?」
教授はあたしの身体から電極を外し始めた。
「もう、ここに来なくても良いよ。奇石だけでなく、素体自体も変質してしまっている。奇石が失われた事は残念だが、それ以上に私は君に謝罪しなければならないようだ。奇石が失われたという事は、もうそこから過去の記憶を引き出せないと同時に、融合してしまった君自身を分離させる事も不可能となってしまったんだ。君はこの先の一生を春日純子という一人の女性として人生を全うすることになる。」
「あたしには良く判らないんですが、どうなったという事なんですか?」
「素体の電子頭脳の代わりをしていた奇石は、もう無機物ではなくなってしまった。俗な表現では生体脳と言われるが、既に人間の脳そのものとなっている。そして、その器であった素体も生体化している。君はもう、普通の人間と何も変わらない肉体を有しているのだ。皮膚の下に流れている体液は、疑似血液ではなく、本物の血が流れている。骨も筋肉も、それが人工物であった形跡はどこにも見当たらない。更に言えば、君は妊娠して子供も産めるようになっている筈だ。君はもう、完璧な女なのだ。」

あたしに判ったのは、あたしが子供を…大樹の子供を産むことが出来ると言う事。あたしは、自分が純也という男であった事など、ほとんど忘れかけていた。
いえ、あたしの頭の中には女の子として成長してきた記憶が詰まっている。
これが造られたものだとは信じられないくらい。その、どこにも純也という男の子は存在しない。
七五三で着た赤い着物も覚えている。毎年、ママとお雛さまを飾っていた。仲の良かった美知子、中学の時の淡い初恋、去年の夏は浴衣を着て花火を見たでしょう?

 

あたしは交差点に立っていた。
何故か涙が零れ落ちてゆく。
赤い信号が青に変わった。

歩き始める。

その先に…大樹がいた。

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