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2009年5月31日 (日)

望んだモノは…

「望むモノは何だ?」
煙とともに壷の中から出てきた魔神はそう言った。

 

僕達は顔を見合わせた。
「代償は何だ?!」和樹が魔神に向かって言った。「俺達の望みを叶える代償として、何を要求する?」
頭の回転が早く、物知りの和樹だからそう言えるんだ。僕だったら何も考えずに(可愛いガールフレンドが欲しい)って言ってしまっていただろう。
「そうか。可愛いガールフレンドとな?宜しい。叶えてやるぞ。」と魔神。
「なっ!!考えを読まれた?」と和樹。
僕は何が何だか判らずに、魔神の煙に包まれていた。

煙が晴れた後には、魔神も和樹もいなかった。そこには、魔神の入っていた壷を抱えた、僕好みの可愛い女の子がいるだけだった。
壷には栓がされ、さらに女の子の手で押さえ込まれていた。その女の子の目は怒ったように僕を睨みつけている…

これが、僕と香月の最初の出会いだった。

 

魔神の能力で「僕の可愛いガールフレンド」になってしまった和樹は、今も僕と一緒にいる。
「可愛い」というキーワードの所為で、香月はアノ時から成長が止まってしまっていた。若作りとかという範疇ではない、三十路を向かえても十代の服を着て違和感がない。逆に年相応の格好ができないので、僕と一緒でなければ生活に不自由することも多々あったのだ。
だから、香月とは長年生活を共にしている。

香月は元がどうあれ、女である。男と女が一つ屋根の下で暮らしていて、何もない事はない。当然のように大人の男女の関係にはなっていた。が、僕らは夫婦にはなれなかった。
「ガールフレンド」のキーワードが香月との間を友達以上にしてくれないのだ。
僕と香月が結婚しようにも、彼女は戸籍上は男性のままだった。性別再判定のために病院に行くには、成長しない身体が邪魔をしていた。
成長しない身体は病気にもならないが、子供が産めないようにもなっていた。いくら励んでも妊娠する事がないのだ。子供が出来れば僕達の関係も変わるのだが、それさえも阻止されていた。

このまま、僕一人が歳老い、朽ち果ててゆくのだろうか?愛らしい姿のまま、残される香月はどうなってしまうのだろうか?
全ては僕の不用意な行動から始まったのだ。壷の蓋を開け、魔神を呼び出したのも。和樹を女に変えてしまったのも…

僕は香月の留守にアノ壷を掘り出してきた。魔神を呼び出す前に、もう一度僕の望みを整理した。
「僕は香月と一緒に歳老いていきたい!!」

 

ピ、ピ、ピッ!
携帯が鳴っていた。この音は香月の携帯だ。何で僕が香月の携帯を持っているのか不思議に思いつつ、鞄から取り出した。発信元は僕の携帯だった。
訳も判らずに出てみると「こらっ!!何てコトをしたんだ?すぐに家に戻って来い。」と若い男の声??
戻ってみると、昔のままの和樹がそこに居た。
「和樹?元に戻れたのか?」とぼくが声を掛けるが「バカ野郎!お前は自分が何をしたのか判っているのか?」と怒鳴られた。
「な、何怒ってるのよ?」ボクは和樹の顔を見上げた。
「お前は魔神を呼び出して、何を願ったんだ?」
「魔神?」そう言えば、そんな事をしたような、しないような…
「あたし、わかんない…」何故か、目に涙があふれてきた。
「バ、バカヤロウ…」和樹はそう言って、優しく抱き締めてくれた。

 

 
今日、あたしは和樹のお嫁さんになる。お腹の中には新しい命も宿っていた。
結婚と同時にあたしの名前も正式に「香月」となる。

和樹が不安そうな顔であたしを見ていた。「あたしは、最高に幸せよ♪」と満面の笑みを浮かべると
「バカ、心配掛けんなよな♪」と和樹。
「バカじゃないモン!!」とあたしが頬を膨らませると、プッと和樹が笑った。

教会の鐘の音が青空に吸い込まれていった。
 

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