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2008年11月15日 (土)

あたし、サラリーマンなんです♪(1)

 

ここは何処なんだろう?

俺は辺りを見回してみたが、記憶にあるどこの景色とも一致してこない。歩道に立ち止まっている俺を、まばらな通行人が胡散臭げに振り返ってゆく。少し離れた所に公園があったので、とりあえずそこに移動する事にした。
一歩、足を進める。(?)違和感が俺を襲う。何かが足にまとわり付いている。それに、身体のバランスがおかしい。何かが頬をくすぐる。(髪の毛?)
俺の頬に触れていたのは、金色の髪の毛だった。俺の毛は黒だし、染めた記憶もない。第一、女みたいに頬に届くまで長く伸ばしたりはしていない。だが、それを引っ張ると、確かに俺の頭から生えていると実感させられる。
鏡はないのか?
辿り着いた公園には公衆トイレがあった。俺は真っ直ぐにトイレに向かった。手洗い場の壁には鏡がある。

…誰だ、この娘は?
鏡に映っていたのは「俺」ではなく、金髪碧眼のガイジンの女の子だった。着ているのはワンピース。俺の足にまとわり付いたのはスカートの裾に違いない。発育の良い胸はブラで固定されているにもかかわらず、俺の胸でプルプルと震えている。これだけの質量があれば、身体のバランスが取り難いのも納得できる…
だが、俺が女の子になっているという事実はどうあっても納得できるものではない。

「…クリス、何処にいるの?」女の声がした。俺…この娘を探しているのだろうか?俺は公衆トイレを出て、公園の入り口に向かった。
「あぁ、クリス。良かったわ、見つかって。」と、この娘と同じ金髪の女が近づいてきた。「ダメじゃないの、勝手にうろついちゃ。」女の勢いに圧され「ごめんなさい…」と謝ってしまっていた。
「あ、もしかしてトイレだったの?慣れない所で大丈夫だった?」俺は用を足すためにトイレにいった訳ではないので首を横に振ったが、彼女は俺がトイレが使えずに未だ我慢していると勘違いしたようだ。
手近の喫茶店に連れていかれ、注文もそこそこに女子トイレに押し込まれてしまった。不思議なもので、便器を前にすると自然と尿意が感じられた。
便座を上げ体勢をとろうとして、今の自分が女になっていた事に気づく。立ったまま小用を足すことはできないのだ。仕方なく便座を下ろし後ろを向いた。スカートをたくし上げ、中のショーツを下ろして便座に座った。
括約筋が緩むと、俺の股間からおしっこが奔った。弾けた滴でお尻が濡れている。ペーパーで拭ったが、そこには男にあるべきシンボルが存在しない事を改めて思い知らされた。

席に戻ると女は珈琲を飲んでいた。向かい側にはアイスティが置かれている。「どうしたの?」彼女はテーブルの前で戸惑っている俺に席に座るように促す。「はい…」と椅子に座る。改めて聞く自分の声は、やはり女の子の声になっていた。
「落ち着いた?」と女。俺は「何とか…」と答えたが、頭の中は疑問符で一杯になっていた。この女は誰?ここは何処?そもそも、何で俺は女の子になっているんだ????

 
「クリス?」と声を掛けられ俺は向かい側の女を見た。「貴女、クリスじゃないのね?」そう言われ、俺はどう答えれば良いか迷った。「心配しないで良いわよ。貴女はクリスの気まぐれに巻き込まれただけなのだから。良かったら貴女の事を話してくれないかしら。名前は何ていうの?」
「…な、何がどうなったと言うのですか?その、巻き込まれたってどういう事?」彼女は全てを知っていそうだった。俺はとにかく、今、自分の置かれている状況を知りたかった。「そうね。貴女もそれは知りたいでしょうね。」彼女は珈琲のカップをテーブルに置いた。
「クリスには特別な能力があるのです。精神を肉体から切り離し、別の人の肉体に入り込んで、その人に成りすますのです。何が面白いのか知りませんが、クリスは時々そうやって他人になって遊んでるのです。彼女がそうしている間、入り込まれた方の人の精神は今の貴女のようにクリスの中に入ることになっているようです。」
「彼女が戻れば、元に戻れるという事?」俺は身を乗り出すようにして彼女に聞いた。
「それは問題ないみたいです。ただ、クリスが何時戻って来るかは判りません。三日後か、三ヶ月後か、三年後か…」「三年って、そんなに長い間も?それは無理よ。その娘に会って直談判しなくちゃ。ねぇ、何処にいるの?」俺がすぐにでも店を出て行こうと腰を上げたが、
「慌てないでね。クリスのいる所は元々貴女がいた所である可能性が一番高いでしょう。だからと言って、彼女がいつまでもそこに留まっているとは限りません。いずれ、彼女の方から接触してきます。」「そ、そんなの嫌よ。あたしは男なのよ。女の子になるなんて耐えられないわ。」
「ぁあ、貴女、男の方だったのですか?それは珍しい。でも、大丈夫ですよ。貴女もその身体に大分順応してきているようです。喋っていても貴女が男だったなんて気づかないくらい女の子していますよ。」「あたしが女の子?」俺は自分の発した言葉に愕然とした。

「あたし…」
俺は「俺」と言ったつもりだった。しかし、俺の耳に届いたのは「あたし」だった。
「これが順応したって事なの。あたしは男なのに女の子してる?」「どこから見ても女の子。そしてクリスそのものね。もう少しすれば、貴女はクリスそのものになってしまうんじゃないかしら。」
「あたしがクリスに?」「何言ってるの?貴女がクリス以外の何者だというの?ほら、ストローに歯形が付いているじゃない。それはクリスの癖だったでしょ?」
俺はアイスティのグラスに刺さったストローの先端を見た。違和感がなかったので気がつかなかったが、そこには俺の歯形が残っていた。そもそも、俺はアイスティを飲む時、ストローを使っていたっけ?しかし、記憶にあるのはマニキュアをした細い指でストローを摘んでいる光景しかない。その先端には今と同じ歯形が刻まれている。
「ネネ、あたし…記憶がおかしくなってる。知らない筈なのに、そこにはクリスとしてのあたしがいる。」得体の知れない恐怖心に俺は女のように泣きそうになっていた。

 

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