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2008年11月15日 (土)

あたし、サラリーマンなんです♪(3)

 

俺の記憶はそこで途切れていた。気がつくと俺はベッドで寝ていた。記憶とは違う寝間着を着ていた。股間にも不快感はない。汚れは拭い取られ、新しいパンツに替えられているようだ。
そして、俺がクリスのままである事には誤りはなかった…

「おはよう♪」ネネがワゴンを押して部屋に入ってきた。「朝ご飯にしましょう。」とワゴンに乗せられた皿をテーブルに移していった。
「お、おはよう。」とベッドを降りた。寝ぼけてはいない。頭はいつもより冴えている気がする。椅子に座り、ネネと一緒に食事を始めた。
トーストにバターとジャムを塗る。「クリスはマーマレードが好きなのよね。」
俺は普段はジャムなど付けない…っかと思う。無意識のうちにイチゴやブルーベリーではなくマーマレードを塗っていた。そう言えば、さっきホットミルクに砂糖を入れていたようだ。そして、それを美味しいと感じている自分がそこにいた。

「今日はどこに行きましょうか?」食事が終わり、片付けられたテーブルの上にネネが観光ガイドを広げていた。クリスとネネは観光のためにこの街に来ていたのだ。
「昨日は途中で帰ってしまったから、その続きで良いかしらね?」と俺に同意を求める。俺にはどうでも良かったのだが、ふと頭に浮かんだ。「もう一度…」
俺はそれをはっきりと言葉にしてみた。「もう一度、昨日と同じにできないかしら?できれば、服も似たような格好にしてみたいわ。」俺は立ち上がるとクローゼットの扉を開き、服を選んでいた。

 
「じゃあ、ココで待っていてね。勝手にあちこち動くと迷子になってしまうから。」
そう言ってネネは立ち去っていった。
俺はこの場所を覚えていた。あの時、俺は「ここ」にいたのだ。
ここまではクリスの記憶にあった通りに進んでいた。この体に俺の意識が宿るまで、あとどれくらいの時間があるのだろうか?それまでクリスは何を考えていたのだろうか?
俺はクリスの記憶を再現しながら、クリスの考えを読み取ろうとした。

あの時、街にはまばらではあったが、様々な人々がいた。話に夢中の女子高生のグループ、腕を組んだ若いカップル、散歩する老人、買い物途中の主婦…
そして、忙しげに歩き去ってゆくサラリーマン。
何であんなに急いでるんだろう?
それはクリスの想いだった。これまでクリスは優しい女性達に囲まれ、ゆったりとした時間を過ごしてきていた。それは、クリスの特別な能力により、他の人に入り込んでも違和感がないようにとの配慮だった。
そんなクリスの目に写ったサラリーマンにクリスが興味を引かれたとしても不思議はなかった。
しかし、クリスの特別な能力は相手との相性があるらしく、彼女の目の前を往くサラリーマンに入り込むことはできなかった。そして、クリスが次に精神を飛ばした時「俺」はクリスとなっていた。

俺は自分が何者であったかを確かめることはできなかった。ただ漠然とサラリーマンであった事だけは確かなようだ。だが、名前はおろか、どこに住んでいたとかの情報さえ得ることができなかった。

 
「クリス?」
と声を掛けられた。ネネではない。それは男の声だった。
振り向くとそこに見知らぬ男が立っていた。「あのォ、どなたでしたっけ?」彼はどこにでもいそうなサラリーマンであった。「あら、忘れちゃったの?」と男が首を傾げる。
…変質者?…俺はその場から逃げ出そうとしたが足が動こうとしない。少しでも触れられたら、その場に座り込んでしまいそうだ。
叫ぶ事もできず、俺は男の顔を見つめたまま固まっていた。

「クリス?」
その均衡を破ったのはネネの声だった。声のした方に首を向ける。
「「ネネ!!」」
俺と男が同時に叫んだ。
ネネと俺の視線が男に集中した。
「ネネ、あたしクリスよ♪」

 
俺は頭の中が真っ白になっていた。俺の他にクリスがいる。クリスは見知らぬ男の姿をしている。俺もクリスだけど、俺はクリスではない…
俺の頭はオーバーヒートした。
崩れ落ちる俺の体は、男の腕に抱き止められていた。

 

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