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2008年5月 7日 (水)

戦士(3)

-母子-

俺は戦いを辞めざるを得なかった。
俺の腹の中に新しい生命が宿っているのは、誰の目にも明らかだった。「男」であった俺が子を産み、「母」となろうとしている。旅先の村で廃屋を借り受け、出産に備えていた。近くの老夫婦が何かと援助してくれている。「娘ができて嬉しいわ。」と夫人が言う。俺は「女」としての生活も長くなったが、気持ちの上では今だに「男」である。夫人の期待する「娘」として振る舞うことはできないが、今は剣を置くしかなかった。

腹が膨れだしてからは戦士の服が着れなくなっていた。仕方なく、ひらひらするスカートを穿いていた。自分で購入していた時は地味なものが選べたが、夫人が俺のためにと揃えてくれたものはどれも、赤やピンク地で可愛らしい花柄や小動物がデザインされており、更に縁取りにはレースがあしらわれていた。「わたしには派手過ぎませんか?」辞退できる訳もないが、言わずにはおけなかった。
「貴女はずっと戦士をしてらしたのでしょう。女の子らしいオシャレもせずに剣の稽古とかしていたんでしょう?これを機会に少女の時間を取り戻しましょう。あたしも若い娘とお喋りしたいのよ。」
俺には「失われた少女の時間」などはある訳もない。が、妊娠などと言う男が経験する筈もない事を控えていては女性としての経験が豊かな夫人の助言は不可欠である。俺は夫人の娘の代役をするしかなく、出産までの間にしっかりと「花嫁修行」をさせられることになった。

「おぎゃー!!」元気な産声が上がった。「男の子よ。」しわくちゃな顔の赤ん坊を見せられた。俺の腹の中で育ち、たった今、俺の股間から生まれ出てきたのだ。
我が子を抱き乳を与えていると、自分の肉体が「女」に変わってしまった事を実感する。おむつを替え、風呂に入れる。全てが我が子を中心に動いていた。

息子の便の色が気になったので、俺は薬草を採りにいくことにした。別に山の中に分け入る訳でもないが、我が子の体調を考え夫人に預けることにした。彼女にとって俺は娘であり、我が子は愛孫であった。
安心して預けられると油断したのがアダとなった。薬草を摘んでいると、不意に血の匂いが漂ってきた。頭を上げ振り向くと、村の方角に黒い煙が立ち上っていた。それは、ただ一軒の家が燃えた程度ではない。村全体に火が廻っている。
俺は摘み取った薬草を入れた篭を放りだすと最速で村に駆け戻った。人の気配が感じられない。まだ火は燃えている老夫婦の家に飛び込んだ。

義父も義母も…
我が子も…
大量の血を撒き散らし、事切れていた…

どこにも抵抗の跡はなかった。賊は村人に抗する時も与えずに、この村を滅ぼしていた。俺は村から少し離れて建つ我が家に戻ると、戦士の服を引きずり出した。
胸を除けば、体型は以前に戻っていた。ひと回り大きくなった乳房を無理矢理胸当ての中に押し込んだ。剣を抜き、素振りをする。今も剣は俺の手に馴染んでくれていた。

そこに砦はあった。賊の跡を追い、ここまで来ていた。俺はいつになく興奮していた。空腹も疲労も一切感じていない。体が軽く感じる。闇の中でも賊の一人一人の動きが判った。
空が白み始めるまでは、まだいっ時はある。俺は死角を伝って砦の中に潜り込んだ。雑魚の寝ぐらに忍び込み、音を発てないようにして一人づつ着実に仕止めてゆく。
雑魚の寝息が静まると、見張り番の始末に取りかかる。さすがに、起きている奴ん殺るには多少なりとも物音は出る。しかし、俺の侵入に気付かれた頃には雑魚の粗方は片付いていた。
俺は戦いを中断し、食料庫に向かった。油を撒き火を放つとそこに置かれていた食材が燃え上がる。炎は壁や天井を伝い、燃え広がっていった。俺は場所を変え、もう二カ所程火を放つと再び戦いに戻っていった。
砦を燃やし始めた炎に気付くと奴等の注意力が分散される。その隙に乗じて残りを仕止めてゆく。何とか体力を残したまま、敵の首領の前に立つことができた。
「女っ!!」そいつが立ち上がった。鍛えられた筋肉が脈動する音さえ聞こえそうだ。「お前ひとりか?」奴は未だ構えてはいないが、奴の発する気だけでも圧倒されそうだ。
「そうだ。」辛うじて言葉を発せられた。「良い腕だ。わしの女にならんか?」「な、何を戯言!」「ならば」と奴は剣を抜きざま、真上から振り下ろした。
俺は真横に飛んで刃を躱した。奴の剣は床を叩くことなく、その寸前で静止していた。奴は俺がこれまで戦った誰よりも強かった。
俺は躱しきれずに何箇所も傷を負った。致命傷ではないが、長引けば不利になる。それよりも、俺の剣が奴に届かない方が重要だった。俺の体力は限界を超えていた。気力だけが俺を支える。奴の剣が頭上を掠める。腕を伸ばすと切っ先が辛うじて奴に届いた。奴の攻撃に備え体を飛ばす。俺の剣が初めて奴の肉体を切り裂いていた。
「うおぉぉぉぉ!!」突然、奴が絶叫した。何が起こったのか?奴が床の上を転げ廻る。奴の輪郭がぼやける。そして、奴の正体があらわとなった。「幻術か?」床の上には小男が転がっている。俺の体の傷も全て無くなっていた。
俺は奴の喉を切り裂いた。あとは砦を包む炎が始末してくれる。とにかく、今は一刻も早くこの場所を去りたかった。あの「呪い」が発動を始めようとしていた。が、実際に剣を交えた敵であればこそ、その分身と交わることも厭わないが、目の前の小男と交わるなど、俺のプライドが許さなかった。実際に剣を交えた者であればどんな雑魚でも構わないと思っていた。

砦が焼け落ちてゆくが、俺の目には何も写ってはいなかった。俺は男に跨り、呪いの洗礼に晒されていた。男のモノを咥え、快感に喘ぐしかない自分自身が情けなく、涙が落ちてゆく。

張りきった乳首から、吸われることのない「母乳」が止めどなく噴き出していた…

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コメント

なんだかものすごく悲しい呪いですね。
彼、いや彼女には安住の地って見つからないいでしょうね・・・でも、面白かった。^^

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