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2008年4月10日 (木)

想い_裏話(後)

今日は一日中浩子のままだった。浩子がベッドに入ると、俺は眠気を圧してベッドを抜け出した。確かめなければいけない事がある。あの服で本当に俺の体型が変わっていたのだろうか?あれは俺の中にある浩子の記憶が見せた幻に違いない。俺は風呂場の鏡の前でパジャマを脱いだ。

鏡に写った俺は、どこから見ても「女」だった。胸の膨らみ、腰のくびれ。サラサラの髪、つぶらな瞳、ふっくらとした唇。細い首、小さな肩、白い肌…
股間に視線を落とすと、淡い茂みの向こうには、深い溝が穿たれていた。
この体はもう「女」以外の何者でもない。あの服の所為?いや、あれはきっかけにしか過ぎなかった。俺の体はそれ以前から徐々に変化していたのだ。俺はそれに気付こうとしなかったのだ。俺は俺の記憶にある俺自身の体のイメージを重ねて、自ら幻を見させていたのだ。

記憶を遡る。俺はかなり前から女性化していた。あの日、気分が悪かったのは、本当に生理が来ていたのだ。それを俺は浩子の所為にして、幻を見させられていたと思い込ませていたのだ。
俺は自分の体が女性化するのに耐えられなかったのだ。だから、浩子という人格を作り上げ、全てを浩子の所為にしようとしたのだ。しかし、どこかで破綻が来る。俺の体はすっかり「女」になってしまっていた。胸は膨らみ、腰にはくびれが生じている。もう、男の服を着ても、男装した女にしか見えないだろう。
突然、俺の目に涙が浮かんだ。ヒック、ヒックと子供のように泣きだしていた。俺はもう「男」ではないのだ。突きつけられた現実に成す術のない自分自身が腹立たしかった。
ひと泣き毎に、俺の頭の中から浩子の記憶が消えてゆく。幼い頃が思い出せない。そこにあるのは男の子としての「俺」の記憶だけだった。女子校での記憶が消えてゆく。親友がいた気がする。名前が思いだせない。憧れていた男子がいた気がする。誰だったのだろう?頭の中が真っ白になっていった。

朝、ベッドの中で目覚める。この部屋には俺独り、最初からそうだった。起き上がり、下着を着ける。胸の膨らみが強調され、俺が女であることを知らしめる。スカートを穿き、髪を梳る。鏡の中の俺は女だった。

俺は、唇にルージュを引いた。

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コメント

彼女の想いは、彼といつまでも一緒にいること?
一心同体。う~ん、幽霊の想いには気をつけないと・・・^^

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