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2008年4月10日 (木)

アリバイ(1)

ミコは男みたいな女の子だった。
彼女とはコンビニのバイトで出会った。流石に制服はスカートなのだが、言動は男子そのものだった。私服に着替えてしまうと、彼女は声さえ聞かなければ誰が見ても男の子にしか見えない。聞くところによると、声優のトレーニングで男の子の声を出せるように練習しているそうだ。
僕はと言えば、ひ弱でガリガリ、身長も平均男性より低い。どこに行ってもなかなか男扱いしてもらえない。かと言って彼女みたいに反対の性別である女の子に見られる、といったことは決してない。要は、ガキ扱いしかしてもらえないのだ。
僕がミコに惹かれたのは、同年にもかかわらず彼女が一人前として自立しているところにあった。バイト仲間という立場から、一歩踏み込んで「友達」になれたのは、僕とミコがお互いを異性として認識していない所がにあったのかもしれない。

ある日、ミコが自分が性同一性障害だと思うと告白した。「何かの病気なの?全然悪いようには見えないけど。」何も知らない僕はそんな事を口走っていた。「心の病気の一種だよ。でも、直す為には外科的な手術が必要なんだ。お金が掛かる筈だから今のうちからバイトをして、お金を貯めておくんだ。」「病気ならご両親が援助してくれるんじゃないの?」「親達には迷惑掛けたくないんだ。だから、手術も未成年のうちはできないんだ。」
そんな話をした数日後「お願いがあるんだ。」とミコから話し掛けられた。「やはり、もっと割りの良いバイトがしたいんだ。けれど、それには男でないといけないんだ。君の名前を貸してくれないか?」僕は軽い気持ちで了解した。僕は履歴書を書いて渡すと、ミコはそれを新しい履歴書に写していった。ミコが僕の名前を書いて、僕の名前の印鑑を押した。
ミコはコンビニのバイトを辞めた。久しぶりに会ったミコは更に男らしさを増していた。とにかく、声が違った。アニメで使われる青年の声ではあったが、男の声には違いなかった。「いつも、困った時に頼ってしまうな。」ミコの現在の問題は客や従業員の女達にしつこく付きまとわれてしまうことだった。苦肉の策でミコという女の子と同棲している。と言ってしまった。住んでいる所が突き止められ、その表札がミコの名前だったので一旦は収まったが、今度は二人揃った姿が目撃されていないという事実が浮上してきた。「つまり、ミコと僕が一緒にいる証拠を作りたいんだね。」僕は気安く了承していた。
僕はミコの部屋に連れて来られた。彼女の部屋はやはり、女の子の部屋には見えなかった。綺麗に整頓されている。ポスターなどの装飾がないので、無機質な感じがする。クローゼットを開けると男物の服の中に一枚だけワンピースが掛けられていた。「じゃあ、これに着替えてくれないか?」とそのワンピースが差し出された。「僕が着るの?!」「俺とミコが揃ってないとな。店での俺はミコではないから、君にミコを演ってもらう必要があるんだ。大丈夫、サイズは問題ないよ。化粧すれば判りはしない。」

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