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2007年12月14日 (金)

侵略者?(前編)

雨が降っていた。
窓の外を色とりどりの傘を差して小学校の子供達が通り過ぎていった。街は平和な光景で溢れかえっていた。

ひゅ~~っと何かが風を切る音がした。
ドンッと床が突き上げられる。
街の中を衝撃波が突き抜け、そこここで窓ガラスが割れていった。

いくつもの車のクラクションが鳴り渡り、あたりが騒音に包まれていた。空が黒雲に塗り潰されてゆく。誰かが叫んでいた。女の悲鳴と泣き声がそれに重なる。
何が起きたのか?それが途方もなく悪い事象であろう事は容易に想像がついた。
「避難しろ。ここから離れるんだ。」警官でも消防でもない私服の男が叫び走り回っていた。人々は本能的に彼の指示に従うべきだと思った。そして、それを行動に移す。傷付いた人に肩を貸し、お互いに励ましあって歩き始めていた。

その中心には宇宙から飛来したモノが在った。それは手足の生えたオタマジャクシのような姿をしていた。半透明の体を自ら発する光で輝かせながら宙に浮いていた。
「お前!」そいつが男を呼んだ。 実際には声ではなく、男の頭の中にそう響いていた。声は強制力を伴っていた。男は抗うこともできず、倒れていた女の子を腕に抱いたまま、そいつの下に近付いていった。
「お前はこの星の支配的な種の一員だな。ここではこの姿を維持できない。お前の身体を貰い受ける。」未知の生物がそう宣言すると、男の身体が光に包まれた。彼を包む光は未知の生物の発する光と融合する。やがて光が褪せると、そこに未知の生物の姿はなくなっていた。

どさり!
何かが落ちる音とともに、彼は正気を取り戻した。「いたたたっ」と落ちた時に打ち付けた尻をさする。と、同時に彼は違和感に気付いた。着ている服が違う。声も彼本来の声ではない。何より、目の前にかざした手は子供のように小さかった。
「え?」彼は脇に立っていた男に気付き、見上げるようにその顔を見た。「俺、なのか?」脇に立っていた男は彼自身であった。状況から察するに今の自分は抱いていた少女になってしまったのだろう、と彼は思っていた。では、彼の元の身体はどうなったのだろうと彼が考えていると、「ふむ。何とかなりそうだ。しかし、言葉を音にしなければならないとは面倒だな。」そう言って男の身体を手に入れたモノは彼を見下ろした。
「おい、お前。いつまでそうしてるんだ。さっさと立つんだ。」男の言葉に彼は立ち上がった。子供の身体では立っても男を見上げるしかない。「お前は私の命令には逆らえないようにしてある。お前にはこの世界の事を教えてもらう。ついてくるんだ。」男はそう言って歩き始めた。彼は男の指示に従い、その後を早足でついて行くしかなかった。

男は本当に何も知らないようであった。しかし、目の前の惨状と彼自身の現実を考えると、男をそのままにしておくには危険極まりないと思えた。彼はひとまず男を自分の家に招き入れた。傍から見れば男が小学生の女の子を連れ込んでいるようにしか見えない。が、既に辺りの人々は避難所に移動していて彼等を見咎める者は一人もいなかった。
電気もガスもない暗い部屋の中で男は彼に聞いた。「で、これからどうすれば良い?」彼は男をここに留めておく事だけを考えていた。「夜だからベッドに入って眠るんだ。」そう言って男を寝室に案内した。「寝る時はパジャマに着替えるんだ。」とタンスから彼のパジャマを出した。
男は着替えが済むと「お前も着替えろ。」彼に言った。彼は男の言葉に逆らう事はできない。着ていた物を脱ぎ、Tシャツをパジャマ代わりに着た。男をベッドに上がらせると、彼は床に寝ようとした。すると「寝る場所はベッドなのだろう。」男は彼の発言に忠実であった。そして彼にも同じ事をさせるのが当然に如く、彼をベッドに上がらせた。
狭いベッドで二人の身体が密着する。幼くとも彼の肉体は女であった。当然、男は生理現象に遭遇する。「何なんだ?これは。」男は彼に説明を求めた。彼は説明するしかなかった。そして…
男は彼の発言に忠実であった。そして彼は男の言葉に逆らえなかった。男は彼の説明を実行に移す。彼の幼い少女の肉体は男の…彼自身のモノを受け入れるにはあまりにも未熟であったが、彼はそれを受け入れるしかなかった。男が疲れ果て眠りに就くまで、彼は痛みに耐え続けた。

窓の外に朝日が差し込んでいた。彼は男が今だ熟睡しているのを見届けてからベッドを抜け出した。男の言葉さえなければ彼は自由に行動することができる。男の声の届かない所まで離れる事ができれば良い。彼は外に出ることにした。もちろん、ダボダボのTシャツのままでは外に出られない。彼は気が進まなかったが他に着るものがないので、昨日着ていた少女の服に着替えた。
外に出る。とにかく、今は男から離れる事が全てであった。近くの避難所には男が現れる可能性がある。また、子供の姿であるので、だれかに見付かれば強制的に避難所に連れていかれてしまう。この子は通学途中であったことを考えると、親は男の近くの避難所にいるはずだ。そこに戻される訳にはいかない。彼は人目に付かないようにして移動していった。

事件から数ヶ月後、彼のアパートからベッドの上で餓死している男が発見されていた。安眠マスクを付けて寝続けていたようで、それは自ら食事を採ることを断っていたようにも見えたという。

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