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2007年10月17日 (水)

人形

「さて、お前の一番大切なものは何だろうね?」
床に這ように倒れている俺を見下ろして魔王はそう言った。「お、俺は死しても、勇者の誇りは汚させないぞ。」「そうか、その誇りは生きるということよりも大事とな?されば、慈悲深い私としてはお前の誇りとやらには手は付けまい。」そして魔王は呪文を唱えた。俺の意識が暗黒の闇に飲み込まれてゆく。魔王の嘲笑が最後まで耳に残っていた。

ガハハと下品な笑い声がした。届いてくる喧騒は下町の飲み屋のようである。それは階下から聞こえてくることから、俺が二階に居ると推測できた。手足の自由を奪われ、俺は椅子に座らされていた。自由を奪われたのは手足だけではなかった。首も動かせず、眼球も固定されていた。俺は瞬きひとつできなかった。
しばらくして、ミシミシと階段を昇ってくる足音がした。ドアが開かれ明かりが灯される。「誰か?」と聞こうにも、俺は口が利けなかった。
「ほう、なかなかの上玉ではないか?」と男の声がした。コツコツと床を鳴らして近付いてきた。斜めから近付いて繰るので俺の視界に男が入ったのは、男が俺の前に来た時だった。余りにも近いので男の腹しか見えなかったが、シャツの上からでも十分に引き締まった肉体であることが見て取れた。
「では、お相手をしていただこうかな?」男の腕が俺の腋の下と膝の裏側に廻され、俺はいとも簡単に抱え上げられた。本来の俺であれば相応の筋肉も付いており、いくら鍛え上げた肉体であろうとも易々とは持ちあげられない筈である。が、今の俺はまるで女のようにして彼に抱かれ、運ばれていた。

俺の自我が本来の肉体に納められていない事がはっきりした。今の俺は人間ですらない。俺は男達の慰みモノである性人形の内に封じ込められていた。俺はベッドに運ばれると全裸の男に組み敷かれ、拒絶する術もなく男の逸物に貫かれていた。ただの性人形であればそれで終わりであるのだが、魔王は丁寧にも貫かれた感覚を俺に伝える細工を施していた。俺は女が男に貫かれる快感を知る事となった。
それは確かに快感としか言いようがなかった。男が性交時に感じ得る何十倍も強烈な快感が延々と持続するのだ。俺は自分が男であることを確固として認識し続けていないと、女の快感に翻弄され、撹拌され、溶かされ、俺の自我が女のものに塗り替えられてしまいそうな気がした。
俺は夜毎、男に抱かれた。朝が来ると部屋から出され土から掘り出された野菜のように桶で洗われる。しばらく軒下で乾かされると再び椅子に座らされる。そして、次ぎの男が現れるまで待たされるのだ。幾度かの季節が過ぎる間、それが繰替えされた。俺はモノとして扱われ、女の快感に晒さられ続けた。が、俺は勇者の誇りにかけて自我を失うことはなかった。

その夜は珍しく男の訪問はなかった。それどころか、建物全体が寝静まったようだった。そんな中でこの部屋に近付いてくる足音があった。スッスッとした忍び足がドアの前で止まる。微かな音しかたてずにドアが開かれた。俺の身体が侵入者の肩に担がれた。侵入者は女だった。顔までは見れなかったが、担がれる際にちらりと見えた胸の膨らみと、今、俺の目の前にある尻の膨らみ加減は女のもの以外にはありえなかった。
外は闇に包まれていた。俺はそのまま女の棲家に運び込まれた。目に見える範囲からすると女は占い師か何かを生業としているようだ。しばらくして、俺の前に現れた彼女は占い師ではなく、魔術士の格好をしていた。「立って。」と彼女が言うと、自ら動く事のない筈の俺の身体が彼女の言う通りに立ち上がっていた。立ち上がった俺の身体に彼女は手に持った布を纏わらせていった。
「これで良いわね。」と彼女が指を鳴らすと、目の前に鏡が出現した。鏡に俺の姿が映し出される。衣服を纏った俺はごく普通の町娘にしか見えなかった。「どう?気に入ってくれたかしら。って、このままじゃ駄目よね。」と俺の首に掌を当てた。「これで喋れるわよ。」「え?」と聞き返した俺の言葉が音になって俺の口から出ていた。
「貴方の事はだいたい解っているわ。魔王との戦いに敗れ、その魂を人形の内に封じ込められた、とあたしの易に出ていたわ。」「あ、あんたは何者なんだ?」「見ての通りの魔術師よ。魔王を倒そうとパートナーとなる勇者を捜しているの。」「で俺なのか?」「そういう事ね。ただ、あなたの場合は肉体が無いので、そのままでは魔王と戦えないでしょう?だから、ふさわしい身体が見付かるまではその姿でいてね。」
俺は彼女の言葉に不吉なものを感じたが、魔王に再挑戦するチャンスを獲た嬉しさに無意識の内にその予感を排除してしまっていた。

「あたしは余りあなたの面倒を見ることができないから、自分の事は自分でやってね。」彼女の呪文で俺は自由に身体を動かすことができるようになった。が、人形の肉体である事には違いはなく、鍛えたからといって筋肉が付く筈もなかった。戦う事以外に取りえのない俺は、結局は彼女の雑用を片付ける事になる。炊事、洗濯などをこなし、夜には彼女の相手をさせられる。これがまた想定外な事に、彼女には同性愛嗜好があった。俺は男に戻ったつもりで彼女を愛撫しようとしたが、俺の方が攻めたてられ彼女の性技に翻弄されるのだった。それは男達と違い、精緻で執拗に俺の快感を励起してゆく。女だけが知る女の快感の秘孔を的確に突いてくる。彼女自身も俺と供に幾度も達するのだが、男のように精が尽きることがないので、快感の頂きが際限なく訪れてくるのだ。自ら動けるようになったにもかかわらず、俺は彼女から与えられる快感に身を任せることしかできなかった。

いたずらに月日のみが過ぎていった。
そんなある日、「魔王と戦うための身体は、いつになったら手に入るのかしら?」と聞いてみた。「あら、まだ覚えていたの?もう、すっかり女の快感の虜になっていたと思っていたわ。」その答えに、あたしはただならぬものを感じた。「もしや、最初から魔王と戦う気などなかったと言うの?あたしを女の快感に溺れさせ、戦いを放棄させるつもりだったの?お生憎様、あたしは決して勇者の誇りを失わいはしないわ。」
「あたしがせっかく良い思いをさせてあげたのに、何て事を言う娘でしょう。誰が自分自身を倒させようとしますか?」
彼女の身体が黒い霧に包まれた。次ぎには霧の中から男の声がした。「快感が足りなかったようだな。」霧の中から現れたのは魔王自身だった。
「きさま!」あたしは奴に拳を繰り出していた。が、その腕は易々と絡め取られてしまった。「女の細腕では倒せはせんよ。女は男に愛撫され、快感に浸っていれば良いのだよ。」「あたしは女じゃないわ。」「ほう、気が付いておらぬのか?お前は自分の事をあたしと言っておる。お前の言動は女そのものよ。」
「ち、違う!」あたしは否定してみたものの、奴の言葉を否定しきれない事も解っていた。「では、お前に本当の男というものを教えてやろう。」
そう言って奴は俺の背後で身体を密着させてきた。あたしのお尻に硬いモノが押し付けられた。身体が竦む。「怖いか?」奴の指があたしの内股を撫で上げてゆく。「怖いのは、お前が女だからだ。そして、女のお前は即にでも快感に喘ぎだすのだよ。」
あたしの身体は、充分に開発されていた。奴が触れた所から、次々と快感が涌いてくる。あたしの股間が潤み始める。
「ほら、お前の身体は素直じゃないか。もうこんなに濡らしているぞ。」奴は、あたしの股間の変化を目ざとく見付けていた。あたしの身体から力が抜けてゆく。「ほら、ご主人様にご奉仕しないか?」あたしの中の娼婦のスイッチが入っていた。奴の股間からペニスを引き出すと、あたしはそれを口に咬えていた。
「ずいぶん上達したようだな。可愛い娘にはご褒美をあげよう。」と、奴は白濁した粘液をあたしの口に注ぎ込んだ。あたしはそれを吸い尽くすように飲み込んだが、奴のペニスは一向に萎えようとしない。
あたしは床の上に這わされた。腰だけを高く突き上げさせられる。あたしの大腿に奴の手が掛かると、奴のペニスが一気にあたしの中に入ってきた。
猛烈な快感に一瞬気を失った。

気が付くと、俺は奴の上に跨り自ら腰を振ってていた。膣を締め上げ、捻り、揺すって、奴のペニスに快感を与えていた。奴のペニスから噴き出る精液に悦ぶ「あたし」とそれを見詰める「俺」とに意識が分裂してしまったようだ。しかし、俺は快感に喘ぐ自分自身の身体をどうする事もできない。快感は同じように感じているが、勇者の誇りの塊である「俺」は快感に屈服することなく冷静に状況を分析してゆく。「焦るな!」と俺は自分自身に言い聞かせる。今なら、俺の下に在る魔王を倒すことはたやすい。しかし、それは俺が本来の肉体を持っていた場合である。
再び精液を受け、俺の身体は嬌声をあげて果てていた。快感に四肢が痙攣している。だが、僅かではあるが俺は指先を動かすことに成功した。「あたし」が意識を失っている間であれば、この身体を動かす事ができるに違いない。しかし、それを奴に感づかれてはならない。今しばらくはおとなしくしているべきだろう。
俺は「あたし」の意識に同調させ、悦楽の余韻の中に紛れ込んでいった。

あたしは、いつもと変わらぬ日常を繰り返さすだけだった。奴は再び女魔術師の姿に戻って、あたしに身の回りの世話を言い付ける。違ったのは夜の奉仕だった。奴は魔王の姿に戻ったり、女の姿のままであったり、女の姿で股間だけを元に戻したりと様々なパターンであたしに奉仕させ、あたしが奴になぶられて喘ぐ姿を楽しんでいた。しかし、それもあと少しの間だと思う。あたしの内に居る「俺」が何かを企てているらしい。あたしには「俺」が何をしているのか知る術はないのだけれど、準備は着々と進んでいるようだった。

俺は奴の胸の上で意識を取り戻した。奴のペニスが俺の膣の中で脈動しながら精液を吐き出していた。奴は満足気に軽く寝息をたてていた。
今こそが最大のチャンスである。俺は手首を外すと、腕の中に隠した聖針を取り出した。柔らかな首筋を中心に、奴の急所に次々と聖針を突き立てていった。
「これで貴様も最期だ。」俺が護符を奴の額に貼り付けると、聖針が共鳴を始めた。奴の体液が沸騰したように血管を膨らまし、そこここで破裂してはどす黒い体液を撒き散らしてゆく。水分を蒸発させた奴の身体がカサカサに干からびてゆく。指等の末端部分が朽ち落ちてゆく。
カッと奴の瞳が見開かれた。カサカサの喉が呪詛を唱える。「お、おのれ。わたしは逝かぬぞ。お前の内で生き延びてやる…」奴の精一杯の虚勢かは判断できなかったが、奴のペニスの中をひときわ熱い塊が昇ってきた。それは膣を満たし、子宮にまで入り込み、そこを占拠した。と同時に、奴の身体は粉々に砕け散っていた。
俺は手首を元に戻すと、奴の最後のあがきを無効とすべく、自らの身体を冷静に解体していった。
奴の唯一の誤算は、俺の身体が生身の肉体でない事を失念していた事だろう。自らの身体に奴を倒すアイテムを隠し持つことはもちろん、こうして自らを解体し、取り出した膣や子宮を聖水で清めることができるのだ。俺は内臓のひとつひとつを丹念に洗い清め、再び自らの身体の中に納めていった。そして、俺の身体から落とされた汚れを焼却するため、奴とともに暮らした館に火を放った。

気が付くとあたしは旅姿で焼け落ちた館の前に立っていた。あたしの内に、もうひとりのあたしである「俺」の存在は感じられなかった。文字通り、あたしは独りになってしまった。
脇にある旅行鞄があたしの全財産。いえ、あたし自身も財産のひとつ。そう、あたしは性人形以外の何物でもない。あたしが「あたし」として存在するのは、有る筈のない人形の心の中。あたしの「あたし」以外の部分は男に抱かれるためだけに存在する。
あたしの身体が疼いていた。あたしの中の娼婦が「男」を求めているようだ。
あたしは廃墟に背を向けると、旅行鞄を手に街に向かって歩き始めた。

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コメント

悲しい勝利ですね。
いっそのこと勇者としての心がなかったほうがよかったかも?

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