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2007年8月19日 (日)

泉の秘密

親友の誘いに乗って、夏休みを彼の故里で過ごすことになった。
故里と言っても、彼が幼い頃に過ごしていた彼の実家は既に無く、僕達は小さな別荘を借りてひと夏を過ごすことにしたのだ。観光地ではないが、それなりに観る所はあった。しかし、炎天下を歩き回るより僕等は別荘のある木立に連なる森の中の小川で涼を取ることが多かった。「この森は部落の氏神様の森で、その奥にある神聖な泉がこの小川の源になっているんだ。」晃司の話に、「その泉を見てみたい。」と僕が言うと晃司は猛烈に反対した。
反対されると余計に気になるなが人の性である。僕は朝早く、まだ晃司が眠っているうちに別荘を抜け出していった。空はまだ暗かったが、別荘の周りはだいたい解っている。そして、森の中の小川に着く頃には空も明るさを湛え始めていた。僕は小川に沿って上流へと向かった。途中、何度か木々の間に朱塗りの鳥居が見えた。
朝日が顔を出した頃、僕は問題の泉の前に立っていた。泉はしめ繩で囲まれ、供え物が置かれていた。僕は縄をくぐり、泉に手を差し延べた。小川の水も奇麗であったが、涌き出たばかりの水は更にキラキラと輝いているようだった。
僕は泉の水を掬い上げ、口に含んだ。
その直後、僕の意識はプツリと途絶えていた。

「…、ゴロー、吾郎!」
僕を呼んでいたのは晃司だった。「気が付いたか?」心配そうな晃司の顔が覗き込んでくる。どうやら僕は別荘に戻されていたようだ。起きようとすると「もう少し安静にしていた方が良い。」とベッドに押し戻された。
「吾郎、しばらくの間、僕の話を聞いて欲しい。」そう晃司は寂しそうに言った。「この部落の昔話なんだ。」彼の申し出を断る理由もなかったので、僕は頷き先を促した。
「昔、一人の女の子がいた。彼女は好奇心が旺盛で、何でも知りたがった。当然のように森に流れる小川の源に興味を持った。大人達から源が泉である事と同時に、そこに行ってはいけないと、きつく咎められた。しかし、小さな子供にとって大人の言い分は決して理解できるものではない。ある朝、彼女は独りで森に出掛けていった。
程なく女の子はしめ繩に囲まれた泉の前に立っていた。泉は水を流しているのに水嵩が減っているようには見えない。見渡したところ、どこにも水道の蛇口はなかった。彼女はどこかに蛇口はないものかと、探しまわった。気が付くと、彼女は泉の中に足を踏み入れていた。
やがて女の子は泉の底から水が涌き出ている所を発見した。もっと良く見ようと彼女は泉の水に顔を浸けた。水は岩陰から出ていた。さらに首を延ばすと岩に隠れるように大きな水晶玉があり、その下の穴から噴き出す水流で少しだが浮き上がっている。それは朝日を受けてキラキラと輝いていた。
わぁ、奇麗。女の子はそう呟いた。が、その拍子に水を飲んでしまい、そのまま意識を失ってしまった。
女の子は小川に流されている所を近所の人が見付け、すぐに病院に運ばれた。命に別状はなかったが、彼女の身にはとんでもない事が起こっていた。
両親が呼ばれ、医師が口を開いた。私は彼女を生まれた時から看てきています。確かに彼女は女の子でした。医師は夫婦に宣告した。今の年令なら隠せるでしょう。長じても手術で外見をそれらしく見せることは可能です。が、あなたがたのお嬢さんは既に完璧な男の子です。女の子として育てるよりは、肉体に合わせた育て方をする方がより自然な事と考えます。
一家はしばらくの後、ひっそりと部落を離れた。女の子は晃司と言う新しい名前と、男の子の戸籍を手に入れて、戸惑いながらも男の子として生活を始めたのでした。」

僕はハッとして股間に手を延ばした。パジャマの上からでは良く判らない。パンツの中に手を入れる。腕が胸の障害物に当たるが、とにかく指先を延ばしていった。
そこには、ある筈の物は無く、縦に刻まれた溝に指が挟まれた。
「な、ない…」僕の発した声は、いつもと違い甲高くなっていた。晃司の話に出てきた女の子が彼自身の過去である事は容易に理解できた。泉に落ちて女の子から男の子になった事は、不思議なことではあるが事実なのだろう。だからと言って、泉に落ちた僕が男から女になるなんて考えられない事だった。妙に女の子と同じような行動をとっていたからと言って、僕が女になったなどある筈がない!!
しかし、僕の指は何にも触れることはなかった。なにより、腕を圧迫している存在をこれ以上無視する事はできない。腕に触れる胸の感触、そして胸から伝わって来る腕の存在が、その肉塊が僕自身のバストであることを証明していた。
「まだ寝ていた方が良いよ。君は一週官の間眠り続けていたのだからね。ただでさえ栄養不足で弱っているのに、君の身体は全てが作り替えられたようなものだからね。」僕は晃司を見た。「鏡はあるか?」「あぁ、ちょっと待ってな。」と晃司は僕の側から離れた。僕はそっと胸に手を充てた。パジャマの上からバストの膨らみを確認した。ボタンを外し胸元から掌を差し込む。直接触れた僕のオッパイは柔らかく、弾力があった。
「吾郎、持ってきたよ。」と晃司が現れた。肩を抱くようにして僕の上半身を起こした。「あっ!」と僕が声を上げると「どうした?」と僕を覗き込む。「何でもないよ。」と言ったが、僕は胸の重さをはっきりと感じ、驚きの声を上げたのだった。
「どう?」と晃司が聞いてくる。鏡の中の僕は確かに僕自身ではあったが、眉毛が淡くなり、唇がふっくらとしていて、見ようによっては女に見えないこともなかった。「大丈夫だよ。吾郎は美人だよ。髪の毛をセットして、お化粧をすれば、だれもが振り返るよ。」美人と言われて少し心がウキウキした感じがしたのは、僕の心も女性化し始めているのではと心配になった。「よかったら着替えてみないか?」晃司の提案に同意すると、紙袋が渡された。「サイズは合っている筈だよ。」紙袋の中からは上下揃いの下着-ブラジャーとパンティが入っていた。「これを僕が着けるのか?」「女の人はみな、そうしているよ。今の君の身体では必需品に違いないね。着けかたは判る?」僕は自分の胸を見下ろした。確かに必要であるには違いない。僕はパジャマを脱ぐとブラジャーのストラップに腕を通した。
なかなかフックが掛からないでいると晃司が見兼ねて手伝ってくれた。ブラウスもまたボタンが左右逆に付いていて嵌るのに苦労した。「すぐに馴れるよ。」と晃司は笑って言う。「男には戻れないのか?」「僕が女の子に戻れないくらいね♪」
ベッドを降りてスカートを履かされた。椅子に座ると晃司は僕の顔に化粧を施していった。眉毛を切り揃え、その上から鉛筆で塗ってゆく。まつげが挟まれ、小さなブラシで何度か撫でられる。刷毛で頬に白粉が乗せられ、最期に口紅が塗られた。晃司はスティクから筆に付けて丁寧に唇の輪郭を描いていった。
全てが終わると「ちょっと待ってて。」と鏡を僕に渡して晃司は姿を消した。鏡を覗くとその中には見知らぬ女性がいた。「これが僕?」その女性はどこかに僕の面影はあるものの、どうしても自分自身とは思えなかった。しかし、僕が口を開けば彼女も口を開き、片目を潰れば彼女も同じようにする。僕は時間の経つのも忘れて鏡を覗き込んでいた。

「お待たせ。」晃司の声でようやく鏡から目を離した。振り向いた、が晃司はそこにはいなかった。そこにいたのは白いワンピースを着た女性だった。「どう?」その女性の話した声は確かに晃司のものだった。
「お、お前晃司か?」「そうよ、でもこの姿の時は光子ってよんでね♪」今度の晃司…光子の声はその姿に合った愛らしいものに変わっていた。
「お前、そんな趣味持っていたんだ。」「趣味じゃないよ。さっきも言ったでしょう?あたしは元々女の子だったの。男の子として生活していても、どこか違う気がしていて、結局心の病気になっちゃったの。そんな時、ママが言ったの。辛い時には光子に戻ってごらんなさいって。」「それを僕に言いたいがために、僕を女にしたのか?」「違うわ。信じて頂戴。あなたをこんなふうにするつもりはなかったの。確かに、この場所であたしの事を知ってもらいたかったのは事実だわ。あの泉も一緒に見にいくつもりだった。だけど、あなたを女にしたいなど、これっぽっちも思っていなかったのよ。」
僕はふうと溜め息をついた。「話は判った。晃司が光子になることも理解した。あとは、この先をどうするかだ。」「パパやママに相談すればあたしの時のように戸籍の変更はできると思う。学校の方もなんとかなる筈よ。」「女になった僕の姿をみんなに晒のか?とりあえず、しばらくはじっとしていたいな。」「だめなの?」「子供じゃないんだ。体形の変化は隠せるものじゃない。僕は女としては赤ちゃんのようなものだ。これからひとつづつ女を身に付けていかなければならないんだ。」「それは、あたしも協力するわ。女としてならあたしの方が先輩だものね。」

僕は夏休みの残りを女に馴れることに費やした。自宅に戻っても戸惑うばかりだからと、晃司の家に厄介になることにした。僕は「いつみ」という名前を付けられ、晃司とその母親から毎日、24時間、女になるための特訓を受けることになった。
服や化粧のみだしなみ、女らしい言葉や所作、家事一般をたたきこまれた。今日は休みだといってはショッピングに付き合わされる。

夏休み最後の日曜はプールに行くことになった。さすがに光子としては行けないので、僕は独りで女子更衣室で着替えることになった。他の女性達に混じって真新しいビキニの水着に着替えた。誰も僕の事を不審に思う事はなかった。
「いつみ!」と晃司が声を掛けてきた。彼のはだけられた胸を見て、一瞬どきりとする。男だった時には何度も見た筈なのに、何だってこう胸が高まるのだろうか?照れ隠しに準備体操もそこそこに、僕はプールに飛び込んでいた。

「水着の跡が付いているね。」僕はノースリーブのワンピースを着て晃司と夕暮れの公園を歩いていた。「光子ちゃんは水着を着ないの?」「跡が残ると物議を醸し出すからね。」
他に誰もいない公園を二人はしばらく無言で歩いていた。が、不意に晃司が立ち止まった。僕が振り返ると、そこには真剣な顔をした晃司がいた。「いつみ、これは責任を取るとか、そういった話ではないんだ。僕は男として、本気でいつみの事が好きになってしまったみたいなんだ。だから、僕と正式に付き合ってもらえないだろうか?」
「好き」という言葉に僕はどう反応して良いか判らなくなっていた。彼と同じように、僕も彼のことを好きになっているのではないだろうか?俯いた僕の肩が彼の腕に抱き寄せられた。
驚いて顔を上げると、そこに晃司の顔が迫っていた。明らかにキスを求めている。俯いたのが肯定と受け取られたのだろう。
僕は今更、否定することもないと、ゆっくりと瞼を閉じた。

鐘が鳴っていた。目の前の扉が開かれると赤い絨毯の上に白い布が道を作っていた。オルガンが鳴り響く。僕はゆっくりと一歩を踏み出した。その先には僕の愛する人が笑顔で待っている。
僕は女の幸せに満たされているのを感じていた。

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因果はめぐる糸車・・・・でも、連れ合いが見つかるならいいかも?

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