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2007年4月18日 (水)

入れ替え授業

今日は月に一度の入れ替え授業のある日だった。気合を入れて身嗜みを整える。今回は体育の授業が重なっているのでこれにかち合う確立は高い。案の定、校庭に整列した途端に入れ替え授業開始のチャイムが鳴った。

入れ替え授業とは、「他人を思いやる気持ちを育てる」という名目で今年から導入されたものだ。月に一度、一時限の間だけクラスの他の人と入れ替わって授業を受けるのだ。誰と入れ替わるかは全くのランダムである。もちろん男の子であれば女の子と入れ替わってみたいと思うものである。だが、僕達のクラスには女の子は五人しかいない。かなり高い確率で男のままになってしまう。
しかし、今日はついている予感がした。僕はどの娘になれるかを朝からずっと考えていた。お嬢様系の宮園あけみ、お姉様系の久藤洋子、スポーツ娘系の長谷川翔子、可愛子系の今野ひとみ、文学少女系の本村愛。どの娘も捨て難かった。体育の時間になった。短い休み時間に着替えを終えて校庭に出てゆくと、今野だけが独り制服のまま外にいた。今日は見学ということらしい。
体育は男子と女子が別々に授業を受けるので今野は僕等から離れた女子の更衣室近くに移動していた。いち速く長谷川が体操服に着替えてでてきた。僕等が整列を終える頃には彼女等も揃っていた。そこに入れ替え授業のチャイムが鳴ったのだ。
「久藤、今野、長谷川、本村、宮園」と先生が点呼を取ると同時に誰と入れ替わっているかを確認してゆく。「宮園」と呼ばれた時、僕は「ハイ、田中です。」と返事をした。宮園さんの少し鼻に掛かった声が僕の口からこぼれた。「田中、」先生が名指しする。「慣れない体でバランスを崩して怪我をさせないように注意するんだぞ。」確かに、だれもが自分の体ではないのでバランスを崩し易いが、特に宮園さんは胸が大きかった。
ラジオ体操で体をほぐすが、ブラで固定されているのにかなり勝手に動きまわる。これでは全力疾走は無理だな。と、ふらつく体と戦いながら考えていた。
最後の近くにジャンプがあった。自分の体のつもりで飛んだとたん、バストが思い切り引っ張られた。
「いてて!」僕は思わず胸を押さえてしゃがみ込んでしまった。「どうした?」と先生の声に顔を上げると、向こうから一人の男子生徒が物凄い勢いで走ってきた。
彼は「僕」だった。「何してんのよ!」「僕」の中の宮園さんが僕を睨みつけていた。「勝手にあたしの体に触んないでよね。」「でも、胸痛いし、」「あんたは触っちゃ駄目!どこが痛いの?」と「俺」が宮園さんを触り始めた。他人に触られたことでヘンに感じてしまった。僕が「ああん」と艶かしい声をあげた途端、僕の胸をさすっていた「僕」の手が不意に遠退いた。
「あ、あんたは見学!ひーちゃん、見張っててくれる?」と制服姿の今野を見てそのまま足早に去っていった。「って俺、中身は西田だよ。」と言う今野の声は宮園に届いたようには思えなかった。
「まぁ何だ、怪我させるといけないから、見学していろ。」と先生。僕は今野の姿の西田と木陰で見学することになった。
「そんなに痛かったのか?」と西田が声を掛けてきた。「まぁ、我慢できない程じゃないが、今まで経験したことのない痛みだったんでビックリした方が強かったかな?」「そうだね。女の子にしか解らない痛みってあるよね。」「逆にキンタマをぶつけた痛みは女の子には解らないよな?」と西田を見ると、西田は少し顔を歪めていた。
「何だ?どこか痛むのか?」と聞くと、「どうも生理痛らしい。すごいよな女の子って。月に一度はこの痛みに耐えなくちゃならないんだぜ。尊敬しちゃうぜ。」「お、おい?大丈夫か?顔が青いぜ。」僕と西田の様子に気が付き、先生が僕に西田を保健室に連れていくように指示した。保健室には誰もいなかったので、僕は西田をベットに上がらせた。しばらくすると落ち着いたのか、軽い寝息をたて始めていた。

遠くで授業の終わりのチャイムが鳴っていた。今回の入れ替え授業は散々なものになったが、女の子の強さを知る良い機会にもなったと思った。来月もまた女の子になったら、もう少し考えて動かないといけないな。と、チャイムの音を聞いていた。

「?」
確かにチャイムは鳴り止んでいた。交換授業は終わりの筈である。しかし、僕はまだ宮園さんのままだった。
ドタドタと廊下を走ってくる二人の足音がした。ガチャリとドアが空く。「あんた、田中だよね。」と体操服姿で僕を指さしたのは「僕」だった。その後ろにいたのは西田だった。彼の中にはまだ今野さんが入っているのだろう。「僕」が宮園さんの口調で続ける。「あんた達、ずっとここにいたんだよね?」僕が「ああ」と肯定の返事をすると「僕」は「ああ」と言って目頭に手を当てて天井を仰ぎ見た。
「あけみちゃん、どういうことなの?」と西田が「僕」に聞く。「パパから聞いた事があるんだけど、入れ替え授業で使っているシステムには死角があって、うまく各教室が効果範囲に収まるように調整しているんだって。うちの学校は保健室がその死角にあたっていたみたい。」「それで?」「範囲外にいると入れ替わりができないらしんだけど、たぶん元に戻る時もその範囲にいないといけないんだと思うの。」「じゃ、じゃあ、あたし達どうなるの?」「下手すると来月の入れ替え授業まで、このままかもね。」「う、うそぉ。今度の日曜、半沢君とデートなのよ。どうしよう?」「はいはい。デートもいいけど、これからの日常の方がもっと大変よ。」

宮園の意見はもっともであった。しばらくして現れた校医の先生に話すと、学校中を騒ぎに巻き込んでいった。四人の親達が集められ説明される。僕等は制服に着替えて応接室でまたされることになった。もちろん僕は宮園さんの服を着ることになる。最終的に出された結論はそれぞれの中身に従ってこの一ケ月を過ごすという事だった。僕は宮園さんの服をしばらく借りることになった。

日曜日。僕は西田と出掛けることになった。西田とは言っても中身は今野さんだ。西田(外見は今野さん)がデートするのを尾行するのだ。もちろん西田の相手は半沢(男)だ。西田は今野さんに指示されたのか、結構お洒落をしていた。はた目からみれば初々しいカップルに見える。今野さんにとっては西田が変なことをしないか気掛きではないのだろう。木陰に隠れて二人を見詰めながら、僕の手をぎゅっと握り締めていた。今野さんにとっては宮園さんと一緒にいるつもりになっているのだろうが、僕は握られている手を西田のではなく今野さんのだと思う事でささやかな幸せを感じていた。
二人の後を付いて僕等も移動してゆく。公園から喫茶店へ、映画を見てファミレスで食事をする。当然のことながら僕等も同じ事をしていた。やはり、映画の内容が良くなかったのだろう。僕は尾行という当初の目的を忘れ映画に見入ってしまった。ストーリの進行に合わせて泣き笑いしているうちはまだ良かった。しかし、次第に劇中の人物に感情移入していった。映画が終わった時には、僕はヒロインに成り切っていた。
僕は男の子とデートする一人の女の子だった。彼にエスコートされて食事に向かう。「どれにする?」と聞かれて「同じので」と答える僕は、つつましやかな女の子に見えるだろうか?店内の鏡に写る自達に不自然な所があるとすれば、あまりにも僕がお嬢様然としている所だろうか?もっと彼にふさわしい女の子になれないだろうか?彼の好みはどんな娘なのだろうか?直接聞いてみたいけど、僕と正反対だったら困る。怖くて聞けない…などと逡巡しているうちに「ねぇ、行かないと。」と彼はレシートを手に立ち上がろうとしていた。
見ると半沢君と西田が仲良く外に出た所だった。「待って♪」と今野君の後を追う。あたふたと財布を探していると「後で良いから。」と僕の分まで払ってくれていた。「行こう。」と僕の手を曳いていった。
ゲームセンターでひとしきり遊んだあと、ふたたび公園に戻っていた。「今日はありがとう。楽しかったわ。」と西田がほほ笑む。「今度は俺の方から誘いたいな。良いかい?」西田が頬を紅らめる。「ええ♪」と言って下を向いた。その肩を半沢君が抱き寄せる。「おやすみ。」そう言って西田の額にキスをした。

「どうしよう。」その夜、西田から電話があった。「今野さんの代わりに半沢君とデートしたんだけど、俺自身が彼に魅かれている気がするんだ。彼といると、どんどん自分が女の子になっていくんだ。気が付くと自然に女の子の考え方で、女の子のように喋っていたんだ。彼と手をつないでいるだけで幸せな気持ちになっちゃうんだ。別れ際、彼が俺のおでこにキスしてくれたとき、男にキスされたというのに嫌だとは思わなかった。それどころか、おでこでは物足りなく感じていたんだ。」「それは、なんかヤバそうだな。」と相槌を打ちながら、僕は自分に起こったことを思い返してみた。僕も今野さんに魅かれていた。最初は男として西田の内側に居る女の今野さんを見ていた筈が、映画が終わってからは女として外見通りの男として彼を見ていた。彼はもう西田でも今野さんでもはなく、今野君だった。「来週もデートに誘われたんだけど、行くのが怖いんだ。なんかどんどん深みに嵌まってしまいそうなんだ。」僕は元に戻った時の今野さんの事を考えてデートにはいくべきだとアドバイスした。が、電話を切った後に本当に元に戻れるかを考えてみた。
いや、既に僕はもう元に戻らない方が良いのでは?とも考えていた。今野君を思う、この幸せな気持ちは女の子だからこそ持てるものだと思う。僕はこの幸せを手放したくはなかった。西田にしても同じ筈だ。半沢君が好きになったのは今野さんの姿をした西田であり、西田の姿に戻った時、彼の隣にいるのは今野さんの筈である。今の西田がそれを平然と受け入れられるとは思えない。ならば、いっそこのままでいられないかと思うのも解ってもらえると思う。

次の入れ替え授業が週末に行われる。西田は最後の日曜日も半沢君とデートしていたようだ。月曜の朝、西田がこっそりと僕に耳打ちした。「昨日、半沢君とシちゃった♪」「って、アレ?」「驚く事ないじゃない。あんただってヤったんでしょう?今野君と」
そう、僕は先々週に初体験を済ましていた。西田と半沢君の進展について相談する名目で今野君を僕の部屋に呼んだのだ。外見は西田なので親も気を許していたようだ。一度関係ができてしまえば後はなし崩し的に深みに嵌っていった。「半沢君との事は決して忘れないわ。」西田は目にうっすらと涙を浮かべていた。

僕は一つの賭けをすることにした。放課後、宮園君を呼び出していった。「まだアレが来ていないんだ。」」宮園君も僕と今野君の関係には気が付いているようだった。「妊娠したって事?」「調べた訳じゃないから。そね可能性もあるってこと。」「あ、あたしの体で何て事してくれたの?」
そして、その月の入れ替え授業は中止となった。僕はすぐさま病院で検査を受けさせられた。結果は単なる生理不順だった。しかし、僕が検査を受けた時に医師の下した所見が更なる波紋を呼ぶことになった。他の三人も病院に呼ばれ、僕等は精密検査を受けさせられた。

僕には詳しい説明を理解する事はできなかったが、入れ替え授業の廃止が決定された。結局、僕等は元の体に戻る事はなく今の性別に合った新しい名前をもらうことになった。
「あけみちゃん?」声を掛けてきたのは西田だった。「あ、西田か。何の用だ?」「んもう。今まで通り、ひーちゃんて呼んでって言ってるでしょ?それより、忘れてないわよね。放課後に買い物に付き合ってくれるって。」
医者が言っていたが、入れ替わりが長時間に及ぶと精神が肉体に同化してしまうらしい。個人差はあるが、西田の場合、肉体に残った今野ひとみの記憶が重なって、西田ひとみとして生まれた時から女の子であったと錯覚してしまっている。
僕等は日曜のダブルデートに着ていく服を買いに行った。なんの躊躇もなく女の子の服を買えるようになった僕も宮園あけみの肉体との同化が進んだせいなのだろうか?

思い立った事があり、僕は西田に電話していた。「ねぇ、ひーちゃん。日曜日にお弁当作っていかない?」「あ、あけみちゃんがお弁当を作るの?やっぱり恋をすると変わるものなのよね。でも、その心意気だけにしておいた方が今野君の為よ。どうしてもって言うんならあたしん家で一緒に作らない?朝早く起きられないならうちに泊まっちゃえばいいんだし。」
僕は西田の提案を受ける事にした。久し振りに訪れた西田の部屋はすっかり様変わりしていた。少女趣味満載の女の子の部屋は昔の面影も褪せさせていた。「久し振りよね、あけみちゃんがうちに来るのって。」前に訪れたのは、あの事件以前だった。その時は男同士でエッチなビデオの鑑賞会となった筈だ。今は女の裸など見放題なのだが、それで興奮することもなくなっていた。
部屋の中にはパジャマ姿の女の子が二人。他愛もないお喋りで夜が更けていった。

台所でキャアキャア騒いでできあがったお弁当はそれなりに仕上がっていた。おニューのワンピースに袖を通し、少しだけお化粧した。
待ち合わせ場所には男の子達が二人揃って待っていた。「お待たせ~♪」小走りに駆け寄ると、「おはよう♪」と爽やかな笑顔で迎えてくれた。
それだけで僕は幸せな気持ちで一杯になった。

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コメント

画期的な授業だったのに、とんでもない事故が起こってしまったんですね。^^

これを読んでて思ったのですが、教育実習生も、現場で生徒になめられないように指導教師と身体を入れ替えたりして。^^
サラリーマン教師でやる気のなかった先生が突然熱血教師になったり、ムキムキマンの教師がなよなよとなったり、オールドミスの教師が、初々しくなったり、英国人の英語教師の発音が、急に悪くなり、ヒヤリングがまったくできなくなったりとかが起こったり、ベテラン教師が、まだ若い実習生の女子大生に起こられたりして・・・
TSFというよりも、シチュエーションコメディですね。^^;

>画期的な授業だったのに、とんでもない事故が起こってしまったんですね。^^

「事故」だったんでしょうか? このシステムには宮園家が関わっていたそうです。男子のいない宮園家の当主はこのシステムを使って…

(まあ、裏設定はいろいろと)

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