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2007年2月24日 (土)

ピンク

僕は独りホテルに残されていた。
社会人になった先輩は仕事があるからと朝早くに出ていった。僕は下半身の疼きが収まるまで幸せの温もりとともに毛布に包まっていた。しかし、チェックアウトの時間が近付いていた。僕はベットを抜け出し、洗面所の鏡の前に立った。
家を出る時には奇麗にしていても、一夜を明かすとそこここに髭が頭を出していた。ハンドバックからシェーバーを取り出し、丁寧に剃り落としてゆく。
化粧水で肌を整えた後、ファンデーションで髭の剃り跡を隠してゆく。男物の着替えなど用意していない。先輩に買ってもらったお気に入りのワンピースを着てホテルを出るには、ちゃんとお化粧しておかなければならない。ましてや太陽の下に出るのだ。念入りに、かつ、あまり濃過ぎないように気を付けなければならない。

このまま学校に行っても良かったが、天気も良かったので自主休講することにした。
僕は今、予備校生だ。先輩とは中学三年の時、高校入試のための家庭教師として出会った。先輩が大学一年の時だった。翌年は晴れて先輩の卒業した高校に通うことになった。
その時に先生から先輩に変わり、今の二人の関係が始まったのだ。もちろん、最初から女装していた訳ではない。先輩の部屋に行ってはゲームをしたり本をよんだりビデオを見たりして過ごしていた。
僕にはその気はなかったのだが、先輩は最初から僕を女の子として見ていたらしい。何度か泊まるようになると洗面台に歯ブラシが並ぶようになった。見分け易いようにと、僕のはピンク色だった。同じ理屈でコップやタオルが揃えられていった。ブルーが先輩ので僕のはピンクだ。バジャマに至っては「色で選んだらこれになってしまった。」とボタンが左右逆に付いた女物になっていた。
Tシャツやトレーナを揃いで買うときも色違いと、ブルーとピンクで統一された。ここまで徹底されるとピンクのものに違和感がなくなる。先輩と揃いでなくとも無意識にピンクのものを手に取ってしまう。そして、ピンク色のものは女性向けの方が充実しているのだ。当然の如く僕の持ち物に女物が増えてゆく。ハンカチ、靴下、財布にカバン。可愛らしいものが増えてゆくと男物の武骨さが厭になる。男が着てもおかしくないような中性的な服に始まり、とうとう下着に至った。ブリーフとショーツでは機能に差異はないと思い始めるとショーツのデザインにばかり目が行ってしまう。人前でズボンを脱がなければ判りはしないと買ってしまった。僕は一線を越えた。Tシャツはキャミソールに代わり、ワイシャツがブラウスになった。
「なぁ、これを着てみてくれないか?」ある日先輩が差し出したのは僕の学校の女子の制服だった。ピンクのスカート、ピンクのベスト、ピンクのボレロとピンク尽くめに曳かれるものがあった。が、さすがにスカートを履くことはためらわれた。「髢を付ければらしく見えるよ。」とロングのウィッグを取り出した。ここまでする先輩に厭とは言えず、僕はスカートを履くことを了解した。

確かに鏡の中の僕は女の子だった。髪形一つでこうも変わるものかと感心した。「俺と付きあってくれないか?」最初は何を言われたのか理解できなかった。それが女の子への告白であると気付くまでしばらく時間がかかった。
先輩の目は真剣だった。僕には「はい」以外を答えることはできなかった。「ありがとう」先輩が僕を抱き締めた。その暖かさに僕は満ち足りたものを感じた。先輩の顔が近付いてくる。僕は彼の接吻を受け入れていた。

最初は部屋の中だけだったが、やがて女子の制服を着たままファミレスやバーガーショップに出掛けるようになった。
さすがに人前に出るようになると髭や無駄毛が気になり出す。自分が「女装」しているのだと意識し始めた。お化粧を覚えるようになると、先輩は「日曜日にデートに行こう。」とワンピースを買ってくれた。

先輩の部屋には更に僕の持ち物が増えていった。女物の洋服が先輩のタンスを占領した。ハイヒールなどの靴も増えていた。僕は学校が終わると先輩の部屋で女の子に変わる。部屋を片付け、洗濯を始める。外での食事が決まっていない時は買い物に出掛ける。最近覚えた料理を準備するのだ。先輩に買ってもらった可愛らしいエプロンを付けて台所に立つ姿は新妻に見えるかしら?
先輩に裸エプロンをしてくれと頼まれたが、それだけは許してもらった。その代わりに常にブラジャーを着けるように言われた。いままではデートの時に服の見栄えを良くする為にパンストを詰め込んでしたことはあったが、先輩は映画の特殊メイクに使うような疑似バストを用意していた。学校にもブラジャーをして行くことになったが、僕のこれまでの言動のせいか、誰も何も言わなかった。

初体験は三年の夏休みだった。先輩と二人で旅行した時だった。ホテルの窓から海に打ち上がる花火を見ていた。ホテルで用意してくれた女物の浴衣を着てベットに並んで座っていた。ふと横を見ると先輩は僕の方ばかり見ていた。「花火見ないんですか?もうすぐ終わっちゃいますよ。」「良いんだ。俺は花火より、花火を見ているお前を見ていたいんだ。」
僕はそれから先の花火を見ることはなかった。暗闇の中で音だけを聞いていた。が、それさえも、いつしか僕の喘ぎ声に掻き消されていた。

結局、大学は先輩の後輩なはなれず、今は予備校通いを続けている。高校と違い制服がないのでどんな格好で行っても咎められることはない。たまにズボンを履いていっただけで「男装している」と言われてしまう。高校の卒業と同時に先輩の所に転がり込み、今は同棲生活をしている。予備校に通っても、今の僕の成績では、到底先輩の行っていた大学には入れそうもない。いっそ、このまま先輩のお嫁さんになれないだろうか?

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コメント

ふ~む、これって続くんですか?
これからどう変わっていくのか興味しんしんです。

続編としてみましたが、取り止めのない作品になってしまいました。>>努力

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