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2007年1月31日 (水)

適性検査

その日は適性検査の結果が通知される日だった。
担任から配られた通知を開いてはほとんどの級友が喜んでいた。そうでない場合でも落ち込むことはない。適性検査とはいっても自分の希望通りになるようになっているのだ。
就職率の低下が深刻な域に達していた。若者の勤労意欲が低下していたのだ。その打開策として学生のうちに勤労に対する動機付けを行うべく導入されたのが適性検査だった。その基準には容姿は含まれない。現在の外科技術は、極端に言えばどんな容姿の男であろうと二枚目俳優にでも美少女アイドルにでも仕立てることができる。但し、邪な動機からそのような職業を選んでも適性検査で弾かれるようになっている。
早い段階で整形を含む適性処置を施し自己暗示を掛け続けることで、勤労意欲が高められると言うことらしい。だから、皆は喜々として適性処置を受けに行く。配られた紙には適性化のメニューまで付いていた。

しかし、僕に渡された結果は予想外のものだった。単に希望が適えられないどころか、適性処置として性別の変更が記載されていたのだ。
僕が女になる?何かの間違いではないか?両親は何度も抗議に役所を訪れた。が、決定を覆すことはできなかった。僕は適性処置の為に病院に通わなければならなかった。
適性処置は外科的なものだけではなかった。自らも回りからも、僕が女の子となることを意識付けさせられる。女の子の名前を付けられ、女の子の服を着させられ、女の子として行動させられる。
適性処置が始まってからは、男女別の授業は女の子の方に入れられた。男子トイレからは締め出され、おしっこをするにも個室に押し込められた。他の女の子達と一緒に行動することが求められ、話しを合わせるために女性向けのドラマを見たり、少年アイドルの情報を仕入れておかなければならなくなった。そうしているうちに、次第に僕が女の子でいることに違和感がなくなってきた。
逆に、自分自身を女の子として意識し始めていた。胸元や大腿に男子の視線を感じる。ついこの間まで、一緒に並んで小便していた男友達に声を掛けられ、ビクついている自分がいた。僕は男子を怖がるようになっていた。
それは、僕の肉体が彼らの欲望の対象となるものになっていたからに他ならない。胸も立派に膨らんでいるばかりか、僕の股間には女性の証が造りあげられていた。それは十分に機能を果たすものであり、既に生理もあった。
つまり、僕は妊娠し、子供を産む事が可能なのだ。それは、適性検査の結果からも必要な機能であった。僕が子供を産み育てることが適性であると言われたのだ。子供を産む場合の適性化メニューは特に充実していた。妊娠から出産、子育てのサポートはもとより、適齢期になると優秀な配偶者の斡旋、出会いからプロポーズまでのコーディネートと、女の子の間では垂涎のメニューが用意されていた。その甲斐もあって就職率の向上はもとより、出生率もアップしていた。
しかし、僕にとってはいま一つピンと来なかった。僕が男と結婚する。子供を産むためにはまず男とセックスする。僕には想像できないもろもろが頭の中を渦巻いていた。

気が付くと僕はショーツの上から秘所をさすっていた。クロッチに谷間が刻まれている。更に指を動かしていると汁が滲み出して来る。堪えられずにショーツの中に指が入っていった。指は秘所の中に入ってゆく。
いずれは指の替わりにペニスがそこに入るのだ。僕は指をペニスに見立てた。そのペニスに所有者は存在しないので、ペニスにだけ意識を集中できた。
ペニスが僕の胎中で動いている。「あ、あぁん♪」僕はオンナの快感に呑み込まれていった。

絶頂

僕は自分の身体を見下ろしてみた。どう見ても胸が女のように膨らんでいる。右手で圧してみると、それが詰め物ではないと判った。胸からは押された感覚と供に、その膨らみが独立したパーツで被われ肩から吊られていることも判った。つまり、僕はブラジャーをしているということだ。意識が自分の着ているものに移っていった。すぐに判ったのはストッキングだった。脚全体を被うそれは幼いころ履かされたタイツとはまた違った感触があった。靴は踵の高いサンダルで足首の所のストラップで止められていた。
ズボンは履いていないようだ。大腿の辺りをくすぐっているのはスカートの裾なのだろうか?いつものベルトよりも高い位置で胴回りが締め付けられていた。
肩から提げていたのは女性が持つハンドバックだった。中に手鏡があったので自分の顔を映してみた。母さんを若くしたらこんな感じなのだろうか?化粧をしていたので、一目見ただけではそれが自分の顔だとは判らなかった。が、鏡に映っていたのは確かに僕自身だった。

僕は「女」になっていた。それは動かざる事実であった。ハンドバックに隠しつつスカートの上から股間に手を当ててみると、そこには平たくペニスの存在は感じられなかった。掌の下にはスカートの布地があり、ストッキングの薄い膜の下のショーツが僕の股間をピタリと被っている。そこには消えてしまったペニスの替わりに、一筋の溝が穿たれていた。僕はそこに存在する筈の女性自身を想像した。ビデオや写真で見たものを思い出していると、不意に股間が暑く蒸れ始めた。肉の合わせめから雫が垂れてショーツのクロッチに染みを作ってゆく。溝の奥に膣がある。その肉壁から体液が滲み出てきたのだ。それは膣に挿入されるペニスをスムーズにその奥まで送り込むためのものでもある。
僕は膣に挿入されるペニスを想像した。僕が持っていたあの「ペニス」だ。勃起し硬くなったペニス。それを入れるのではなく、今の僕はそれを受け入れることになる。ベットに横になり股間を広げると、そこに男の腰が割り込んでくる。ペニスの先端が股間に当たる。入れるべき所を捜しているのだ。僕は腰を揺すり、暑く濡れた女陰に導いてやる。それはスルリと僕の膣に入ってきた。その際に陰核が刺激された。
「ああんっ♪」僕は女のように喘いだ。ペニスが動く度に刺激され、僕はその度に喘ぎ声を上げていた。更に彼の手が乳首を弄び、耳元に息を吹き掛ける。僕の体中の性感帯が一気に活性化していった。快感に僕は身をくねらす。胎(なか)にある彼のペニスの動きが激しくなり、更なる快感を引き出してくる。
「ふあ、うん、ああ~~ん♪」僕は嬌声を上げながら、昇り詰めていく。何も考えられなくなる。快感に身を委ね、ただひたすらに快感を追い求めていた。膣の中のペニスの動きに変化が生じた。その時が近付いている。動きを止めたペニスが大きく脈動する。熱い塊が僕の中に放たれた。
「い、いいっ、あああ~~~~♪」これまで経験したことのない強烈な快感が僕の頭を打ち砕いた。頭の中が真っ白になった時、僕は絶頂を迎えていた。

僕は「女」だった。
ハンドバックの中の所持金を確認すると、馴れないハイヒールで歩き始めた。コンビニであるものを買い、デパートに向かった。売り場を突き切り、奥の階段のあるスペースに辿り着いた。その前で一瞬逡巡する。そして、意を決してピンク色のタイルに囲まれた女子トイレに入った。個室の中でスカートを捲り上げ、下着を降ろした。
僕はぐっしょりと濡れたショーツを脱ぎ去り、コンビニで買ってきたものに履き替えるのだった。

同窓会

突然の風に僕は「きゃっ」と叫んでいた。しかし、履き慣れていないスカートは押さえるタイミングを逃し、派手に捲れ上がってしまった。

確実に何人かの目には僕の下着が焼き付いていると思われる。僕は顔を真っ赤に染めて、足早にその場を離れていった。

僕がこんな格好をして出歩いているのには訳があった。同窓会の二次会でのゲームに負けた罰として、女装してあるものを買って来ることになったのだ。今にして思えば、全て仕組まれていたに違いない。そうでなければ僕の背丈に合った女の子の服など用意できる訳はない。

かと言ってこのままトンズラする訳にもいかない。財布や身分証明証の入った服が彼らの下にあるのだ。彼らが指定したドラッグストアに辿り着いた。

「えっ?三次会に行ったって!」戻って来ると店には誰もいなかった。「地図を預かっているわ。」はいと店の小母さんから紙を渡された。「あなたも大変ねェ」と同情する一方で「その格好の時はもう少し可愛らしく喋った方が良いわよ。」と笑っていた。「余計なお世話です。」と地図を引ったくり、店を出た。

三次会の場所はホテルだった。以前より周到に計画していたのだろう。ホテルに着くと「こちらです。」と案内されたのはウェディングデスクだった。きらびやかなドレスに囲まれた通路の奥にある部屋に通される。「時間も圧していますから、パッパとやってしまいますね。」

僕は扉の前に立たされていた。モーニングを着た先生が隣に立っている。「これも同窓会の余興だと思って諦めてくれ。」と言われても納得できるものではない。何故僕が純白のウェディングドレスを着なければならないのだろうか?しかし、僕の意志を無視して扉が開き「式」が始まった。

旧友達の見守る中、誓いの詞を述べ、指輪を交換する。皆に祝福されて式場を後にすると、今度は披露宴だった。雛段に座っていると先生が二人の馴れ初めを紹介する。何かが間違っているとは思いつつも、僕は先生の話しを聴いていた。

先生の言葉で昔を思い出す。架空の歴史ではあったが、僕の中でははっきりイメージできていた。続いて旧友達が僕の過去の言動を紹介する。僕の「過去」が次第にあやふやになっていった。

「彼女は発育があまり良くなかったのですが、彼とであったとたん、今までの遅れを取り戻したばかりでなく、こんなにも立派に育ちました。」言われるとそんな気がする。確かに以前の胸は真っ平だった。今は肩が凝る程にブラのカップを満たしている。

「新婦は今日、妻という称号を得ました。おめでたいことは重なるもので、彼女はもうすぐ母という称号も得ることになっています。」つまり、僕は妊娠しているんだ。そう思うとおなかの中に命が宿っている気がする。よく見ると以前よりおなかが膨れている感じがする。

「愛する二人は今日ここに結ばれ、幸せの絶頂にあります。」僕は彼を見た。視線が合わさっただけで、僕の心は幸せに満たされていた。

僕はもう、何も考えられなかった。

彼に抱かれてスイートルームに入った。窓一面に夜景が広がる。ベッドの上でドレスを脱がされた。

下着も取られると、間違いない「女」の裸体がそこにあった。彼の指が肌に触れると僕の女の身体が敏感に反応していた。

その夜、僕は彼の腕の中で何度も昇天していた。

最後に気を失う前、彼の声が聞こえた。

「ありがとう。」

翌日、僕は花束を手に母校の跡地にやってきた。そこは公園になっていて中央に石碑があった。先生や旧友の名前を確かめ、石碑の前に花束を置いた。

唐突に風が吹いた。悪戯好きな風は僕のスカートを一瞬で舞い上げていた。

2007年1月27日 (土)

ベットに入りサイドテーブルに置いてある瓶から一錠の薬を取り出す。「良い夢が見れますように。」そう言って飲み下すと、一気に深い眠りへと引き込まれていった。

キンコ~ン  と授業の終わりを告げるチャイムが鳴っていた。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。机から上半身を起こした。まわりではがやがやとした騒ぎに混じってカチャカチャと食器の音がした。皆、思い思いの弁当を机の上に広げてゆく。席を寄せ合って楽しく喋りながら過ごす者もいれば、教室を抜け出して部室や秘密の特別席に席を移す者もいる。
自分の糧を求めて鞄を漁ると紙パックの牛乳と菓子パンの入った袋が見付かった。学校に来る途中で買ったものなのだろうが、何も記憶に残っていない。
そう言えば今朝からの事など何も覚えていなかった。気が付くと授業が終わり昼休みになっていた。
昨日は?一昨日は?
教室にいるクラスメイト。顔は覚えているようだが、名前が出て来ない。

名前?

自分の名前は?

あぁ、何という事?自分の名前さえ思い出せないとは!

自分の顔を見れば思い出すか?鏡を求めてトイレに向かった。
しかし、その前ではたと足が止まる。入り口が二つあった。男と女。
自分はどちらに入れば良いのだろうか?

ベットに入りサイドテーブルに置いてある瓶から一錠の薬を取り出す。「良い夢が見れますように。」そう言って飲み下すと、一気に深い眠りへと引き込まれていった。

僕は飛んでいた。鳥のように翼を広げて風に乗って舞い上がる。眼下には街がジオラマのように広がっている。僕の家が見えた。学校もある。そのまわりのクラスメイトの家をひとつひとつ見付けていった。

どくり!

心臓が高鳴る。その家は僕が想いを抱いているミドリちゃんの家だ。二階の南側の窓が彼女の部屋だった。僕は窓の外にある手摺りにつかまっていた。

レースのカーテン越しに彼女の部屋の中を覗き見ることができた。奇麗に整頓された勉強机、パステルカラーの整理たんす、壁に掛けられたセーラー服、床に並べられたヌイグルミ達。そして、ベットの中にミドリちゃんが眠っていた。

気が付くと僕は窓を擦り抜け彼女の部屋の中に立っていた。
レースのカーテンが朝日にきらめいている。僕は一歩、また一歩と彼女に近付いていった。真上から彼女の顔を見詰めていた。

と、突然、目覚まし時計のベルが鳴り響いた。僕はバランスを崩しベットに倒れ込む。慌てて手を延ばしベルを止めた。

静寂が訪れた。
目を開くと天井が見えた。何かがおかしいと脳の片すみから警告が発せられていた。

トントンと階段を上がる足音がした。「ミドリー、起きなさーい。」
母親の呼び掛けに、僕は「はーい♪」と返事をしていた。

ベットに入りサイドテーブルに置いてある瓶から一錠の薬を取り出す。「良い夢が見れますように。」そう言って飲み下すと、一気に深い眠りへと引き込まれていった。

真夏の太陽が照り付けていた。更衣室の出口で僕は恵が出てくるのを待っていた。新しい水着を買ったと言っていたのでそれを着てくるとは思うのだが、どんなデザインかは教えて貰えなかった。今日は奮発してホテルのプールにしたから、彼女の水着姿が悪友達の目に触れることはない。僕だけが独り占めできるのだ。「ヒロシ♪」と声が掛かった。
「ワーオ!」僕は思わず叫んでいた。「やだ~、じろじろ見ないでよ。」と言われたが、僕の目は自然と網状のもので被われた胸の谷間に注がれてしまう。恵の水着はセパレートで胸の谷間と腰の両脇が網状になっていて十二分に男を刺激してくれた。
僕は股間の変化を隠すため、即座にプールに飛び込んでいた。
恵はしばらくの間パラソルの下で僕を見ていたが、一向に出てこない僕に呆れて彼女の方からプールに入ってきた。

泳ぎ疲れてパラソルの下に来ると、どっと睡魔が襲ってきた。僕は恵のとなりのデッキチェアに横たわると、あっと言う間に意識を失っていた。

「ねぇ、彼女ひとり?」若い男の声がした。隣に僕がいるのに、なんとずうずうしい奴だ?と目を開けると、目の前に若い男達の顔があった。「ねぇ、ボクラと遊ばない?」と奴らが声を掛けたのは僕に向かってだった。
僕が理解できずにうろたえていると、「ちょっと退いてくれないかなぁ」と別の男の声がした。その途端、男達は蜘蛛の子を散らすように掻き消えてしまった。声を掛けたのは「僕」だった。手に紙コップを二つ持っていた。
「ジュースだよ。これを飲んで落ち着くといい。」彼の差し出したコップを受け取った手はどう見ても僕の手ではない。指の爪にはマニキュアも付いていた。
「あたし達、入れ替わっちゃったみたい。」「僕」にそう言われ自分の身体を確かめると、確かに女のバストがあり恵の着ていた水着に包まれていた。事態を把握して「僕」に向き直った。彼は僕自身に他ならなかった。
ふと、彼の股間が膨らんでいるのに気付いた。彼の視線を辿ると僕の胸に行き当たった。網目の間から、彼の視線が突き刺さるようだった。
「やだ~、じろじろ見ないでよ♪」
僕は思わずそう言っていた。

ベットに入りサイドテーブルに置いてある瓶から一錠の薬を取り出す。「良い夢が見れますように。」そう言って飲み下すと、一気に深い眠りへと引き込まれていった。

僕は走っていた。別に何かに追われているわけではない。ただ、走り続けている。

陸上競技のトラックではなく、マラソンのように普通の道を走っている。マラソンと違い、通行止めをしていないため車道を走る僕をブンブン自動車が追い越して行くのだ。不思議とクラクションで追い立てられる事もなく、信号も必ずタイミング良く青になってくれるのだ。
僕は自分の意志でのみ走り、自分の意志以外で止まらせられることもなかった。そして僕は止まることなど考えてもいなかった。登り坂で息が苦しくなっても、脚は前に出続けてくれる。

どれだけ走ったのだろうか?いくつもの街を抜け、山を越え、橋を渡った覚えがある。しかし、脚は疲れることなく走り続けてくれている。食事も採らず、眠ることなく走り続けていた。そう言えば今、何時 なのだろうか?僕の知る限り、太陽は常に天頂にあった。雨となることはおろか、雲に陰ることさえない。木々や建物の影に入る以外は常に僕を照らしていた。
だから、僕は見えているものが全て現実であると錯覚していたのかも知れない。一度目を閉じ、再び開いた時には走っていない僕がいるかも知れない。
ちょうど道も直線道路で自動車も通っていない。僕は道の真ん中に寄って、目を閉じた。

僕はトンネルの中を走っていた。目を閉じたものと思っていたが、単に周りが暗くなっただけだった。トンネルを抜けると曲がりくねった山道だった。再びトンネルに入り闇に包まれる。あまりにも多いトンネルは太陽の下ばかり走っていると不審を覚えたからか?
試しになぜ砂浜を走らないのか?と自問してみた。

僕は砂浜を走っていた。靴の中に砂が入って不快に思うと、次の瞬間には裸足になっていた。砂浜で走るのなら水着が一番と思うと僕は水着を着ていた。

部屋の中で走りたいと思うと、スポーツジムのマシンの上にいた。正面の鏡に僕が映っている。ジムの中ではレオタードの女の人達がエアロビをしていた。そんな中で水着でいるのは場違いな気がした。すると水着はレオタードに変わった。
男のレオタードに難色を示すと、僕の体は女になっていた。
胸が揺れて走り辛い。走るよりは彼女達と同じエアロビが良いなぁ。

次の瞬間、僕は走るのを止めた。

僕、いえ、あたしは延々とエアロビを続けることになった。

ベットに入りサイドテーブルに置いてある瓶から一錠の薬を取り出す。「良い夢が見れますように。」そう言って飲み下すと、一気に深い眠りへと引き込まれていった。

僕はダイスを振った。
コロコロとダイスが回る。カタリと止まった。と同時にミシミシと音を発てて僕の肉体が変容を始める。
ダイスの上面には人魚姫と刻まれていた。肉体と共に衣服も変わる。「桃太郎」の衣装が消えてゆき、貝殻のブラジャーと珊瑚のティアラが現れる。貝殻のブラジャーが僕の膨らんだ胸の先に生まれた乳首を隠した。脚は鱗に被われた魚の下半身になり、尾鰭が僕の意志に応えてパタパタと跳ねていた。
僕はもう一度ダイスを手にした。表面には一か所を除き様々な童話の主人公の名が刻まれている。残りの一つが「僕」だった。僕が僕自身の姿を取り戻す唯一の可能性がそこにあった。

僕はもう一度、ダイスを振った。

ベットに入りサイドテーブルに置いてある瓶から一錠の薬を取り出す。「良い夢が見れますように。」そう言って飲み下すと、一気に深い眠りへと引き込まれていった。

僕は立っていた。ずーと立ち続けていた。

目盛りが動いてゆく。やがて0を指すと僕は両足を広げ、腕を曲げる。僕の動きに合わせて音楽が鳴りだすと、眼下に控えていた人達が一斉に動きだした。
やがて音楽が止みアラームが鳴る。アラームが鳴り終わると同時に僕は足を揃え、直立不動の姿勢をとる。しばらくすると、大量の車が押し寄せてきた。僕は赤い光りに照らしだされている。
僕は交差点に立つ信号器だった。再び目盛りが0になり、姿勢を変える。その慌ただしさに嫌気がさした。

僕はたんぼの真ん中に立っていた。両腕を広げ、粗末な服を着せられている。
遠くで鳥の声がした。風が稲穂を揺してゆく。僕はかかしだった。追い払わなければいけないカラスが遠慮なく僕の上に止まっていた。おもむろに僕の顔を啄み始めた。
田舎なんて厭だ。やはり都会が良い。

街の灯が消えてゆくと、ガラスは鏡のように僕を写しだす。僕はショーウィンドウの中のマネキンだった。女の服を着させられるのには抵抗があったが、ガラスに写った僕が美しく飾られているのを見て気が変わった。何より、今の僕は女の体なのだ。女性の服は僕の膨らんだ胸、細くくびれたウエストをより魅力的に見せてくれるのだ。
それに、かかしのように同じ服を着たきりになることもない。しばらくすると、深夜に部屋の模様替えがある。その時一緒に新しい服に変えてもらうのだ。服に合わせて化粧も変えてもらえる。
新しいポーズで立ち続けていればそれで良いのだ。カラスに襲われることもない。
道路から覗き込む人々の視線に快感さえ覚えるようになった。

ちょっと格好良い男がこちらを見ていた。ウィンクすると、彼の目は僕に釘付けとなった。

ベットに入りサイドテーブルに置いてある瓶から一錠の薬を取り出す。「良い夢が見れますように。」そう言って飲み下すと、一気に深い眠りへと引き込まれていった。

長い時間、正座をしていると膝から下の感覚が無くなってしまう。分厚い座布団に座っている感じになる。
こうなると、もう座り続けるしかない。少しでも腰が上がり脚に血が巡りだすと、猛烈な痺れが襲ってくるからだ。仕舞にはこんな脚なんか要らないなんて思うようになってゆく。
では脚がなかったらどんな感じになるのだろうか?達磨みたいに座り続けるのは厭だ。蛇みたいに地面を這うのも美しくない。魚のように自由に動き回れる方が良いに決まっている。イルカの姿も良いが、陸上とも行き来できるアシカやアザラシも捨て難い。しかし拍手しかできない手や丸太のような胴体は如何ともしがたい。
やはり人魚のような半人半魚が理想的だろう。理想といえば男の人魚は美しくない。イメージされるのは人魚姫だ。長い髪を靡かせて海の中を舞い踊る。美しい尾鰭がユラユラと揺れていた。

トントンと肩を軽く叩かれた。意識が現実に引き戻される。と、同時にピシリと板状のものが背中にヒットした。

バランスが崩れる。

僕は床の上に倒れた。膝が伸びて一気に血液が流れだした。痛みに声も出ない。
床の上でのたうちまわっていると、ミシミシとズボンが破れていった。脚が一本にひっ付いていった。先端がペタペタと床を叩いている。魚の鰭のようだ。
緑色の髪が伸びてゆく。シャツの胸の辺りが内側から押し上げられ、双つの山を形作った。胸に手を当てると、胸から当てられた手を感じた。この胸は造り物ではない。胸に当てた手が見えた。白く、指は細くなっていた。
誰かが全身を映せる鏡を持ってきた。
鏡に映る僕は、着ているものを除けば、絵本にあった人魚姫そのものだった。

ベットに入りサイドテーブルに置いてある瓶から一錠の薬を取り出す。「良い夢が見れますように。」そう言って飲み下すと、一気に深い眠りへと引き込まれていった。

チン!と音がした。電子レンジのドアを開けると、中には出来立てのパスタがあった。
封を切り、箸で蕎麦のように啜りながら考えていた。(何でもチン!でできないものなのだろうか?)

探せばいろいろ出てくるもので、電子レンジ用の燻製器や茹卵作成器などの料理に関するものから、食器洗い乾燥器や殺菌消毒器、ハンカチや靴下などの小物洗濯器など食べ物以外にも活用範囲が広がっていた。そんな中で僕の目に止まったのは、陶器作成器だった。特殊な粘土で作ったものを焼きあげるのだ。勿論、ちゃんと作れば水を入れても漏れない湯呑みも出来上がるのだ。試しに購入してみた。粘土とは言っても実際はサラサラの砂状でこれを型枠に詰め、水を加えると粘土になった。型枠を使わずにやる方法もあるのだが、型枠を使った方が簡単だし、別に陶芸家を気取るつもりもない。そんな需要が多いのか、別メーカーの出している型枠の広告も同梱されていた。食器が中心だったが、中には人形や著名な彫刻のミニチュアまであった。人形は一体まるごと作成するもと、部分部分を作成し大きなものを作るものがあった。どちらも型枠の中に入れる素材を変えることで柔らか人形も造れるらしい。

試しに等身大の人形の手のパーツを買ってみた。軽量化のためか、中が空洞になっていた。僕は好奇心からそれを自分の手にはめてみた。それは自分の手と同じように動かせた。

僕はパーツを買い揃えていった。全てが出来上がり、全てをはめてゆく。そして僕は鏡の前に立った。
鏡の中にはパッケージに描かれたのと同じ女の子の姿があった。

ベットに入りサイドテーブルに置いてある瓶から一錠の薬を取り出す。「良い夢が見れますように。」そう言って飲み下すと、一気に深い眠りへと引き込まれていった。

両親が急に海外赴任となった。僕は大学受験を考えると日本に残った方が良いということになった。しかし、広い家に僕一人を残すこともできないので、僕は寄宿制の学校に転校することになった。家は売ってしまった。空港で両親を見送った僕は、その足で転校先の学校に向かった。
既に荷物は送ってある。僕はジーンズにトレーナーのラフな格好で校門を潛った。小綺麗な校舎のあちこちに制服姿の女生徒が佇んでいた。
「あなた!ここに何の用ですか?」僕の上に高圧的な女の人の声が降ってきた。見るとシスターの格好をした女性だった。「ぼ、僕は転校してきた広尾正実です。」
「えっ?」と彼女が聞き返す。「僕は転校…」僕の答えに彼女の顔が見る見る青くなる。「た、大変。とにかくこちらへ。」と僕は立派な応接室に連れて来られた。

「多少の手違いはあったようですが、あなたの転校の手続きは全て済んでいます。」同じくシスターの格好をした学園長が言った。「荷物も届いていて、部屋に運んであります。そしてこれが制服です。さっそく着替えてもらえますか?」手渡されたものを広げてみる。上着は女生徒達と同じデザインだった。シャツも同じく襟が丸くカットされていた。そしてズホンを広げたつもりが、
「なんでスカートなんですか?」僕は学園長を見返した。「ここは男子禁制の女子校です。当然、制服はスカートしかありません。」「ぼ、僕は男ですよ。」「いくつかの手違いはありましたが、あなたはもう、この学園の女子生徒です。規律には従ってもらいます。」
僕は呆然となった。
「大丈夫ですよ。あなたなら即に学園に溶け込めます。ほら、制服を着てみてご覧なさい。」僕が動けずにいるのを見てシスター達が寄ってたかって僕を着替えさせた。

鏡の中には一人の女生徒がいた。
「良く似合ってますよ。」学園長の言葉は魔法のように僕から恥ずかしさを拭ってゆく。「それから、宿舎も含め学園内はズボンは禁止です。今度のお休みの日にでもお友達とスカートを買ってらっしゃいな。あなたも女の子なのだから、もっとお洒落しましょうね。」

「転校生を紹介します。」と先生の合図に促され、教室に足を踏み入れた。女の子達の視線が集中する。
(何も恥ずかしいことはない)自分に言い聞かせる。(だって、あたしは女の子なんだもの)

ベットに入りサイドテーブルに置いてある瓶から一錠の薬を取り出す。「良い夢が見れますように。」そう言って飲み下すと、一気に深い眠りへと引き込まれていった。

温泉に浸かろうと暖簾を潛った。
係の人から渡された入浴セットの袋を手に脱衣場に向かった。篭に浴衣や下着を放り込み、袋の中からタオルを取り出した。袋の中にはタオルやバスタオルの他にも歯磨きやシャワーキャップなども入っていた。更にその奥には何故か女性用の下着まで入っていた。

白濁した湯は身も心も溶かされるようだった。

いつの間にかうとうとと寝入ってしまっていたようだ。湯から上がると身体がふやけてしまったようだ。水風呂があったのを思い出し、頭から冷たい水を浴びせて身体を引き締める事にした。水風呂の水は思った以上に僕の身体を引き締めた。余分な脂肪が搾り出されたのか、かなりスリムになっていた。温泉の効能で肌には艶が出て瑞瑞しくなっていた。更にお湯の白さが染み込んだように、浅黒かった肌が見違えるように白くなっていた。
洗い場に行き、鏡に顔を写してみた。身体と同じように顔も引き締まり、シミやソバカスも消えていた。小顔になったせいか、目がパッチリと大きく感じられた。眉毛は薄くなったが、唇は朱みを増していた。これが自分の顔でなければ女の子の顔に見えるかもしれない。

だが、身体の全てが引き締められた訳ではなかった。よく見ると胸のあたりの皮膚はだぶついていた。ここも締まってくれないかと触っていると、身体のあちこちに僅かづつ余っている血肉が吸い寄せられてきた。
見る間に胸は膨らんでいき、女の人のおっぱいみたいになっていた。厭な予感がした。洗い場の鏡は曇っていたので脱衣場に戻った。鏡を見ると首筋が更に細くなり、喉仏が消えていた。胸の膨らみと引き替えにウエストははっきりとくびれ、股間の肉が吸い取られた跡が筋になっていた。
これでは僕はどこから見ても女だった。説明を求めようにも、ここには係の人はいない。下着を付け、浴衣を着て係の人のいる所まできた。
「あら、奇麗になられたわね。」係の人は至って冷静だった。「浴衣の気付をお手伝いしましょうね。」と隣室に連れ込まれる。浴衣を女の着方に直し、化粧までされてしまった。
「ぼ、僕は女じゃない。元に戻してくれ!」僕は女のような声で抗議したが、「あなたは可愛い女の子ですよ。ショーツもブラも調度良く、お似合いですよ。」僕は無意識のうちに入浴セット袋に入っていた下着を着てしまっていた。「大丈夫よ、あと2、3回お湯に浸かれば、男だった記憶もお湯に溶けてしまいますよ♪」係の人に背中を押され、僕は女湯の暖簾を潛っていた。

ベットに入りサイドテーブルに置いてある瓶から一錠の薬を取り出す。「良い夢が見れますように。」そう言って飲み下すと、一気に深い眠りへと引き込まれていった。

ドラムがリズムを刻んでいる。ベースが響き、ギターがイントロを奏でる。そしてスポットライトが当たった。
僕は歌い始めていた。

聞いた事のない歌だったが、僕の口は滑らかに詩を紡いでいた。そして、その声は甲高い少女の声だった。客席にいる親衛隊のお兄さん達からの声援にも笑顔で応えていた。
マイクを持つ手にはレースがヒラヒラとなびく手袋をしていた。僕の出す声に似合った小さくて華奢な手だった。
リズムに合わせて脚が軽やかにステップを踏んでいた。信じられないくらい踵の高いサンダルだったが、僕は難無く踊り続けていた。動く度に大腿に当たってくるものがあった。スカートの裾である。ここまで状況が把握できていれば当然であるが、僕はスカートを履いていた。ステージの為の衣装として女装しているレベルではない。ドレスの下には女物の下着を付けているのが判った。とくに胸はブラジャーで固定されているにもかかわらず、僕が動く度に大きめのバストは暴走を繰り返していた。

「おつかれさま。」ステージが終わり、皆が声を掛け合う。僕は控室の鏡の前で大きく溜め息をついていた。「今日はどうもありがとう。これがアルバイト代だ。」と白い封筒を渡してきたのは、この娘のマネージャだ。「じゃあ、脱ぐのを手伝ってあげよう。」もちろん、この衣装も一人では脱着できないが、更にその下の特殊スーツは間違いなく彼の補助が必要である。そして、特殊スーツの中から出てきたのは若い男=僕自身の身体だった。楽屋口から外に出ると、先程の親衛隊のお兄さん達が待ち構えていた。が、僕に熱い声援を送ってくれた彼らだが、今の僕には見向きもしてくれなかった。

数日後、あのマネージャから電話があった。彼女がしばらく入院しなければならなくなったらしい。今度はステージの上だけの代役ではないのだ。無理に決まっているとは思いつつも、彼女の普段着を着てみたいと僕の心は揺れ動いていた。

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